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15話:芸術家

誤解の可能性を省くため、ここにアンタレスとスピカの違いについて述べておきます。アンタレスは外部から相手の認識を阻害(カモフラージュみたいな感じ)、もしくは粒子を口の中に取り入れさせ、なんらかの症状を起こすことが可能です。しかし、スピカのようなはっきりとした魅惑(精神攻撃)ではありません。あくまで毒(病気)ですからね。よって、アンタレスは精神攻撃もどきはできるがスピカほどではない。つまりカーラを催眠したのはすごいことなんですね。精神攻撃だけの比を言うのであれば、アンタレス:スピカは0.1:1でしょう。

「・・・。」

どうしよう。暇すぎる。

「あの・・・。ムーサさん、ですよね?」


「ええ。私のことはムーサとお呼びください。アフト様。」


「あの、様、はつけなくても大丈夫ですよ。」


「いいえ。アフト様。あなた様はメシエ様の大切なお客様でございます。となれば身分は私たちより上でしょう。それに、こんな老骨に、さん、など必要ございません。お好きなようにお呼びください。」


「・・・ならなおさら敬称をつけなければいけませんね。私より長い時を生きてらっしゃる人生の先生などですから。」


「・・・これはまた随分と礼儀の正しいことです。そのお気持ち、感謝いたします。」


「ええ。ありがとうございます。・・・ところで、カーラは大丈夫なのでしょうか?」


「カーラ様は催眠から覚めなさって気を失っております。もう少し時間がかかるかと。安心してください。カーラ様の命は、ユーゲント家が保証いたします。」


「よかったです。・・・ムーサさん。何か私にすることはありませんか?」


「・・・やはり若者というのは活力がありますな。・・・特に体に異常は感じませんか?」


「ええ。特に何も。体も元気いっぱいです。」


「・・・ではメシエ様に会っていただいた方がいいでしょう。」


「メシエ様ですか。いきなり大丈夫でしょうか?ユーゲント家の当主なのでしょう?」


「ええ。仕事には忙殺されてはいますが、アフト様であれば嬉々として話を聞くでしょう。」


「・・・分かりました。では、メシエ様に会いに行きたいのですが、案内を頼めますか?」


「もちろんでございます。その間カーラ様のお世話は他のものにさせましょう。こちらへ。」


「はい。」


ムーサがアフトとともに扉を開くと、目の前に女性のメイドがたっていた。


「カーラ様のお世話を頼む。」


「承知いたしました。」


そういうとメイドはカーラの部屋へ入っていく。


はっや。なんか執事の仕事というか偵察得意そう。・・・歩いてみてわかるけど、ヴァイツ様の屋敷にいた使用人の数とは大違いだ。なんかみんな礼儀正しすぎる。・・・いやいいことなんだろうけど。俺だったら緊張して死にそう。


「ここでございます。どうぞ。お入りください。」


「・・・失礼します。」

うわ。仕事の数やば。ドン引きなんだけど。いい意味でね。うん。・・・これ過労死するだろ。


「誰だ・・・。!アフトか。よかった。アフトとは話したいことがあったのだ。・・・きっとムーサの指示だな。」


「ええ。ムーサさんがここまで連れてきてくれました。」


「やはりあいつは有能だな。・・・さて。アフト。ここに来たということは早速だが指示をしてもいいということだな。」


「ええ。私をお好きなようにお使いください。」


「・・・記憶喪失にしてはやけに礼儀正しいな。・・・いや、褒めてるぞ。・・・ではまず学校に行くまでにすることを言う。」


「はい。」


「アフトはこの戦いでの切り札だ。しかし切り札は然るべき時に切らなければゴミと化す。その然るべき時はこちらが言う。それまでにやるべきことは大まかに三つある。1、この首都の家や公園、公共施設の場所を大体頭の中で覚えろ。2、ユーゲント家だってカードを持っていないわけではない。そのカードのうちに芸術家がある。」


「芸術家ですか?」


「ああ。ユーゲント家をユーゲント家たらしめる要因のうちの一つで、ユーゲント家が誇る4人の戦力だ。今日そのうちの一人に会わせる。いずれ共に戦うのだ。親睦を深めるべきだろう。」


「なるほど。」


「最後だが。・・・その然るべき時まで一度も戦うな。どうしようもない時や自衛の時のみ許可する。神器の使用も禁止する。」


「構いませんが・・・。神器の使用もですか?」


「ああ。もちろんここ、ユーゲント家であればいい。練習でも好きなだけするがよい。要するに何が言いたいか。切り札に目立ってほしくない。最後に関しては学校ででもだ。学校はアフトにとって青春の場だろう。それを変に楽しむな、など野暮なことなどするつもりもない。しかし我々にとって学校は最高の隠れ蓑だ。だから極力普通に暮らしてほしい。・・・ただ自衛のため、それと神器の性質上、帯刀はいつでも、どこでもしてよい。」


「・・・分かりました。しかし、最後のことに関して質問があります。」


「なんだ。」


「私が神器持ちだということ、それに新星というのはもうすでにほかの人にばれてはいないのでしょうか?」


「もっともな疑問だ。そこに関しては安心していい。さすが有能なアネモス家といったところか、その情報を送ったのが裏切者の件と同時だったのだ。しかも送られたのは我と王の二人だけ。・・・信頼のたる人間だと竜殺しに認められたのは嬉しい限りだな。・・・本来であればアフトの言う通り神器、そして新星でこの国はお祭り騒ぎだったのだが、裏切者の件がそれをもみ消してしまった。だから知っているのはアネモス家、ユーゲント家、そして王家だ。」


「なるほど。理解しました。」


「よろしい。ほかに質問は?」


「最初の、この首都の構成を覚えろというのは、時間ができた時に観察をして覚えてもいいでしょうか?」


「ああ。好きにしろ。ひとりで行くもよし。カーラを連れてつかの間のデートを楽しむもよし。・・・護衛一人と一緒に行ってもらうがな。」


「その護衛というのが、芸術家なんですね?」


「ああ。察しがよくて助かる。・・・ほかに質問は?」


「・・・その。私に敵の情報は必要ないのでしょうか?」


「ああ、なるほど。・・・大丈夫だろう。指示の時に必要になればその都度言おう。・・・最悪ムーサに教えてもらってくれ。その時はムーサに情報を渡すから。」


「分かりました。質問はこれで終わりです。」


「分かった。ではさっそく芸術家を呼ぼう。」


「え?ここにですか?」


「ああ。彼女の名は”ザニア”。能力は・・・見てもらった方が早いだろう。ザニア。来てくれ。」


・・・ん?誰も来ないけど。

「・・・本当に来るんですよね?」


「まあ、楽しみにしておくといい。」


ん?ドアからくるんだよね?なんか含みのある言い方なんだけど。


そんな時、アフトの上、要するに天井から何か降ってくる。


「呼ばれて飛び出てザニアちゃん!さ~んじょう!」


ザニア。見た目は幼い。しかしこれでも成人である。画家が来ているようなエプロンを着ている。手には筆。もう片手には画用紙を持っている。髪は赤色。エプロンは絵具らしきものでかなり汚れている。目は黄色で、恐ろしいほど好奇心をその目から感じる。


「うげ。」

ちょ、重いっす。ちょ、誰か助けて。


「それで!メシエ様!ザニアは誰を守ればいいんですか!」


「君の下敷きになってる人だ。」


「ん?・・・ありゃ。ごめんなさい!今どきます!」


あ~。ほんとに死ぬかと思った。・・・今思ったけどそこまで重くなかったな。・・・”おも”だけに。

「・・・。ええと。ザニア・・・さん?」


「ザニアのことは、ザニアちゃんって呼んでください!」


「分かった。・・・ザニアちゃん。」


「はい!ザニアです!」


ああ・・・。何歳?この人。いや失礼だから聞かないけど。・・・それになんか小動物みたいな見た目だし。可愛い。


「ん!その武器は噂の神器ですね!是非見せてください!」


「?いいけど。」


「やった~!」


そういうとザニアは目の色を変え、無我夢中にその神器を観察し、画用紙に描く。


「・・・ええと。メシエ様。ザニアちゃんは、いったい何をしているんです?」


「ザニアは画家だ。描きたいものを描き、想像をも描く。ザニアの星術はスピカ。そして覚星は、”画用紙に描いたものを具現化する”だ。」


「え?めっちゃ強くないですか?私いります?」


「ザニアに聞いたところによると、マナの燃費は恐ろしく悪いらしい、描くものにもよるが。ちなみにさっき上から降ってきたのは、画用紙にワープホールを描いたらしい。」


「ああ。そういうことですか。・・・え?」

やばくない?ワープホールって?そりゃ強いわな。・・・画家。なるほど。ジークさんの言ってた、覚星は人の個性による、っていうのはこういうことか。・・・この人の絵ってどんな感じなんだろう?まぁ、スピカだから魅力は間違いなくあるんだろうけど。


「私からは以上だ。ザニアと親睦でも深めておけ。」


「分かりました。・・・行くよ。ザニアちゃん。」


「・・・。」


「あ、ちなみにザニアが描いているときは集中してるから聞いても無駄だぞ。」


「ええ・・・。」

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