14話:ユーゲント家へ
「ところでなんだけどさ。この馬車、誰が運転してるの?」
「え?多分ユーゲント家の執事とか、そのあたりじゃないかしら?」
「そうなの・・・?なんかずっと人気のないところに行ってる気がするんだけど?」
「・・・そうかしら?」
なんかおかしくない?明らかに人気がない。わざわざこんな場所通るか?
「あの、すいません。いったん止まってもらっていいですか?ここからは私たちで行きますので。」
「いえいえ。ご安心ください。道はちゃんと心得ていますから。」
う~ん?なんか変だな。・・・まあ、いい・・・のか?
「すいません!アネモス家の方ですよね?」
?誰だ?・・・カーラは見向きもしないけど。
「は~い。そうです。」
「よかった。この先の道は通行止めなんです。こちらへどうぞ。馬車のことは心配しないでください。従者が回収いたしますから。あ、荷物を忘れないように。」
「分かりました。・・・カーラ、行くよ?」
「え、ええ。」
ん?やっぱカーラの様子がおかしい。ここは俺が何とかするか。
「馬車を運転してくれてありがとうございます。ここからは大丈夫です。」
「・・・さようですか。分かりました。お気を付けて。」
・・・あの馬車、どこへ行くんだろう?
「あの。ありがとうございます。名前はなんと?」
「”ヘゼ”。”ヘゼ・ユーゲント”。ユーゲント家の長男だ。」
ヘゼ。見た目は美丈夫というのがふさわしいだろう。緑色の瞳は優しさよりも凛々しさを強調させる。藍色の髪色と緑色の目の対比は鮮やかだった。しかし、顔で見える部位はそれだけで、顔全体は仮面で隠れている。
「ユーゲント?・・・もしかして、ユーゲント家直々に案内に来られたんですか?」
「そんな緊張しなくていい。諸事情あってだ。ついてきて。案内する。」
「分かりました。・・・行くよ。カーラ。」
「・・・。」
だめだ、いよいよ反応すらしなくなったぞ。
「・・・その子がカーラか。それで君がアフト。」
「ええ、そうです。ただ、どうもカーラの様子がおかしくて。」
「・・・少し見せてくれないか?」
「ええ。お願いします。」
ヘゼはカーラの目を凝視する。しばらくするとカーラはアフトの方へ倒れこんだ。
「え?なにしたんですか!?」
「カーラは何か催眠にかかってた。だから私のスピカで打ち消した。」
「え?催眠?」
「ああ。そもそも私たちユーゲント家は馬車の手配など一切していない。ましてや人の手配など。つまりあの馬車は偽物だ。」
「え!そうだったんですか!?でも、ヴァイツ様も違和感はもってなさそうでしたよ?」
うん。間違いなく。ヴァイツ様はそこに何の疑いもなかった。
「・・・それは本当か?」
「ええ。間違いありません。」
「・・・精神攻撃は私たちの目に映らない分、気を研ぎ澄まさなければ攻撃を受けやすい。スピカ使いならばある程度精神攻撃に耐性を持つ。・・・その馬車使いは君たちに触れていたか?」
「いいえ。まったく。」
「ならば君たちのくれた情報からするにアンタレス。おそらく何らかの粒子を蒔いたんだろう。だが、それを加味してもかなり状況は悪い。竜殺し殿が影響を受けたのであれば、その星術使いは相当手慣れだ。なによりカーラはスピカ使いだっただろう?その本人が受けているんだ。」
「・・・それにしてはヘゼ様は影響を受けてないようですけど?・・・その仮面のせいですか?」
「!・・・見えるのか?」
「?ええ。さっき外してましたよね?」
変なこと聞くなぁ。見ればわかるでしょ?
「・・・これは認識阻害の仮面だ。私は外へ出るときこれを毎回つける。狙われるからな。・・・しかし、アフトの目を見るに催眠などかかっていなようだ。それに、アフトはさっきの馬車でも平気そうだったな?」
「ええ。なんか変な方向行ってるなぁ、って思ってました。」
「・・・今、ここから馬車は見えるか?」
「?ええ。あっちに行ってますよ?」
「・・・素晴らしいな。私にはまったく見えない。今私が見てる景色には馬車など微塵もないぞ。」
「・・・え?」
「おそらくあの馬車自体も認識阻害がかかっていたんだ。私が気づけたのはアフトのおかげだ。アフトという違和感がその認識阻害に穴をあけた。」
「は、はぁ。」
「・・・すまない。長話しすぎたな。すぐにユーゲント家へと案内する。カーラもそこで休ませるといい。」
「ありがとうございます!」
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「ここがお屋敷ですか?」
でっけー・・・。いや、でかすぎだろ。
「・・・ヘゼ様。その方たちは?」
「ああ、門番。この顔を覚えろ。そして二度と間違えるな。”メシエ”様の大事なお客様だ。もし何らかの違和感を感じればすぐに伝えろ。この際は礼儀などどうでもいいからな。」
「了解いたしました!」
「・・・二人とも。執事を呼ぶ。ちょっと待ってろ。」
ヘゼが”ムーサ”と叫ぶと、どこからともなく執事の姿が現れた。その姿はヴァイツと特訓をしたアフトすらも見えなかった。
・・・早!早すぎだろ。もはや召喚じゃん。
「ムーサ。彼ら二人を今すぐ空いている部屋へ。今倒れこんでいる者には医者を呼べ。もう一人にも休んでもらえ。・・・名前は言わなくても分かるな?」
「ええ。お任せを。・・・さあ二人とも。こちらへお願いします。」
「はい!分かりました!」
・・・なんか、ヴァイツ様の時もこんな感じだったなぁ。・・・今倒れてるのはカーラだけど。
「・・・ふぅ。父様に会いに行かなくては。」
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ヘゼともう一人はチェスをしながら会話をしている。
「それで?どうだった?」
「・・・正直に申し上げますと、状況はかなりまずいかと。敵の数までは分かりませんが、質は恐ろしく上等。生半可な実力では手駒にされるでしょう。」
「・・・竜殺しはその過去から精神攻撃に弱いのはなんとなく想像できたのだがな。だが、違和感ぐらいは感じてほしかったものだ。・・・まあ、竜殺し、もとい、アネモス家には悪いことをした。いつでも私たちは助けられたはずだった。だが面倒くさいという理由で放っておいた。その結果があれだ。正直あれはもうこりごりだ。それに我々は恐ろしく価値のある情報をもらった。これ以上望むのは罰当たりだな。・・・二人はどうだ?」
「カーラを戦線に出すのは危険です。これ以上アネモス家の信頼は落としたくありません。リスクが大きすぎます。しかし、・・・アフトは私たちの切り札となるでしょう。」
父様、もといメシエ・ユーゲントはチェスの駒を動かす。
「・・・理由は?」
「唯一敵の、アンタレスの認識阻害に気づいていました。おそらく彼が居なければ私は馬車を見つけることすら難しかったでしょう。」
ヘゼはチェスの駒を動かす。
「・・・神器持ち、新星は伊達じゃないということか。・・・ヘゼ、お前ならどうする?この局面からお前はどうやって勝つ?」
メシエは駒を進める。
「・・・芸術家を呼ぶのはどうでしょう?私たちが誇る芸術家であれば時間こそかかりますが、敵を殲滅できるでしょう。」
ヘゼはメシエの駒をとる。
「それで?芸術家は4人しかいないのだぞ。仮に1人で対決できる力があったとして、その隙に我々は詰むな。・・・ほら、チェックメイトだ。」
「・・・完敗です。父様。どうかご指示を。」
「はぁ~。いい加減一回でも勝てるようになってほしいものだな。・・・いいか?盤面を整理しよう。敵の数は不明。我々の戦力は芸術家4人と王と我の権力、ほかの兵は傀儡となって終わりだろう。つまり何があっても正面突破は避けなければならない。敵を断定するのはよかったが。それを集中砲火してしまえば我々はなにも手札を切れなくなる。敵に素性が見えない以上、深追いはやめなければ。貴様のようになるぞ。」
「・・・心に留めておきます。」
「だが、ここでアフトという切り札が手に入った。それにアネモス家の助力もあり、内通者が二人の貴族だということが確定し、かつ、そのうちの一人はなんとなくわかっている。」
「・・・”ウートガルザ”大公ですか。」
「ああ。だが泳がせておけ。おそらく囮だ。」
「・・・大公がですか?」
「ああ。本命はもう一人の方だ。誰かは分からんが。」
「・・・大公ですよ?権力は私たちと並びます。下手に動かせておけばこちらの行動範囲を狭めてしまいます。」
「だろうな。だが、我々が裏切者の噂を知っていることを知らないわけがない。だから、少なくとも変なことはしないだろう、捕まりはするが、早くは捕まりたくないはずだ。・・・何らかの地雷は撒くだろうが。ただ、証拠があればすぐ捕まえろ。」
「アフトはどうしますか?彼の行動は少なからず私たちの行動に影響を及ぼします。何よりあの鍵も。」
「必要な時以外は学校に行かせろ。学校は素晴らしい隠れ蓑だ。・・・念のため情報要員の為に何人か入学させよう。この場合の工作はやむを得んな。・・・信頼に足るものを何人か集めておけ。二人ぐらいでちょうどいいだろう。これ以上少なくても多くても面倒くさいことになる。それと神器は自衛の場合を除き使用させるな。帯刀の件はこちらが工作する。」
「分かりました。・・・芸術家たちはどうしますか?」
「一人を守備に、一人をアフトの近くに、二人を情報収集に行かせろ。適切な人員を見繕っておけ。」
「はっ。」
「・・・ヘゼ。おそらく敵の行動は直近のものではない。何がってもおかしくない。これは戦争だ。腹をくくれよ。」
「・・・もちろんであります。」
「・・・よい心がけだ。吉報をよろしく頼む。」
「はっ!」
ヘゼは去っていく。
「・・・ふぅ。新星は吉兆、神器もおそらく吉兆・・・かけ合わせたら大不幸か?・・・だが、いずれこの膿は出さねばならなかった。ちょうどいい機会だ。さぁ。敵を潰すとしようか。」




