13話:首都〈スピカ〉へ
ここから一章です。
「はぁ・・・、はぁ・・・。ヴァイツ様強すぎじゃないですか?」
この人強すぎる。一個のマナ破壊したら爆発するし、壊したと思ったらまた現れるし。しかも絶対本気じゃないでしょ。
「アフトも成長しているぞ。前までは一個壊すのさえ限界だったではないか。今じゃ10個同時でも対処できるようになった。」
そりゃあ、倒れてても地味に痛いマナを当てられたら対処するほかないでしょ。
「アフトにはカーラを守れるほど強くなってもらわないと困るからな。」
「カーラってそんな弱いわけじゃないと思うんですけど。」
「学校に行くんだけであればこんなことはしない。それにせっかくの神器持ちなんだ。戦いが得意でなくてはな。」
「・・・その、神器ってそんなすごいんですか?」
「ああ。近接戦闘で好きなものになれるのは、これ以上ないアドバンテージだろう。私だって、アフトに近接戦闘で勝てるかと言われれば自爆みたいなことをせざるを得ないだろう。それに、アフトの星術の能力で防御は事実上意味をなさないからな。」
「まあ、そうですけど・・・。」
「・・・さて、アフトがここにいるのももう最後になるな。・・・どうだった?ここでの生活は?」
「それは最高だったにきまってます!これ以上の言葉はないです!」
「・・・そうか。よかった。・・・ほら。見ろ。カーラとジークがこっちに来たぞ。」
え!どこどこ?・・・って、すごいボロボロじゃん。
「カーラ、めっちゃボロボロじゃん。」
「アフトに言われたくないわよ。アフト、すごい汚れてるわよ。」
「え?・・・うわ。ほんとだ。」
「気づいてなかったの?・・・まあ、アフトらしいわね。」
「・・・それは褒めてるの?」
「なわけないでしょ。もうすこし自分の身の回りくらい対処できるようになったら?」
「あはは。そういわれると何も言い返せないや。」
「・・・それで?父様。私たちはなんで呼ばれたの?」
「ああ。二人にプレゼントがあるんだ。客室まで来てくれ。」
「分かりました。」
プレゼントか・・・。なんだろう。
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「来たか。・・・ジーク。持っているな。」
「ええ。こちらに。」
ジークが取り出したのは一個の小さな箱と、長い何かだった。綺麗な包装がなされてある。見ただけで高級品だと分かった。
「・・・これ。なんですか?」
「まずはアフトから。これは神器の為の鞘だ。神器だけだと目立つだろうし、神器の為の立派な鞘も必要だろうと思ってな。この鞘はミスリルとアダマンタイト、それに焦土の中でしか自生しない木、シドラを使っている。受け取ってくれ。」
「・・・本当にいいんですか!これ!」
うわぁ~。すっごい綺麗。これめっちゃかっこいいな。
「ああ。もちろんだ。むしろ神器にその鞘で大丈夫かという不安もあるが。」
「大丈夫ですよ。きっと、神器も喜んでます。」
「そうか。・・・次はカーラだ。」
「私はこの箱?」
「開けてごらん。」
カーラは箱をそっと開ける。中には花を模した髪飾りがあった。
「あ!これほしかったやつ!これ、もらっていいの?」
「ああ、もちろん。」
「カーラ。それなに?」
「これはね、幸運の髪飾りって言って、神話時代の名匠が作ったものなの。使用者の一つの願いを叶えてくれるんですって。でも、必要な時にしか叶えてくれないらしいけど。世界に10個ぐらいしかなくて、ものすごい高級なの。・・・多分アフトのほうが高級・・・というかこれオーダーメイドでしょ?」
「ああ。そうだ。アフトの鞘を作るために幸運の髪飾り全部買えるだろう。」
んんんんんん?????今なんて?
「あの・・・これほんとにもらっていいんですか?今にも目玉が飛び出そうなんですけど。」
「安心しろ。金ならあるからな。」
「そうですか。・・・分かりました。これは生涯大切にします。」
「・・・ねぇ、アフト。私にこの髪飾りつけてくれない?」
「え?いいの?」
「ええ。お願いしていい?」
「・・・分かった。」
・・・これどうつけたらいいの?つけ方とか習ってないよ。
「・・・これでどう?」
「下手ね。うん。ものすごく下手。」
「え。だから言ったのに。」
カーラは自分で髪飾りを直す。
「・・・どう?」
「きれいだよ。間違いなく。」
「そう。・・・ありがと。」
少々の沈黙。
「さあ二人とも。玄関まで行こうか。最後に別れの挨拶を。」
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ヴァイツ、ジークはアフトとカーラを、玄関の近くに止めてある馬車まで連れて行った。
「二人とも。忘れ物はないな。」
「ええ。もちろん。」
「私もないです!」
「そう。・・・二人とも、クアラルを頼むよ。」
「ええ!任せてください!」
「ジークも元気でね!」
「はい。カーラ様もいつかまた!」
馬車は出発する。
「・・・出発しちゃったね。」
「なんでそんな悲しい顔してるのよ。学校って言ってもせいぜい4年でしょ?そこまで落ち込むことある?」
「だって、俺をここまで育ててくれたからね。家族でもないこの俺を。感謝しかないよ。」
「・・・そう。」
「・・・てか、俺たちお金はもらったけど、どこに住むの?」
「あれ、言われてないの?ユーゲント家よ。」
「・・・え?初耳なんですけど。」
「まあ、許可書みたいなの渡されたの私だしね。」
「ああ、そういうこと。だから知らなかったのか。・・・ここから首都までどれくらい?」
「結構近いと思うけど。・・・ほら、見えてきた。」
「え?近くない?」
うわ。ほんとだ。前にめっちゃ町っぽいところあるわ。
「まあ、私たちの領地立地はいいからね。だから開拓するのが急務なんだけど。・・・これでもかなり広がったのよ?」
「へぇ~。・・・ん?なんか門の近くに人が三人ぐらいたってるけど。」
「門番じゃない?多分父様が王家に情報を提供したらしいから、前より増えてるのかもね。」
「ああ、なるほど。」
門番がアフトとカーラの馬車に近づいてくる。
「すまない。なにか身分を示せるものはないか?」
「はい。これ。」
「確認させていただきます。・・・おっと、これは失礼。アネモス家でしたか。どうぞ、お通りください。」
「・・・カーラ、何渡したの?」
「ん?父様からもらった身分証・・・って、聞いてる?」
「ごめん。それどころじゃないかも?」
アフトが見ていたのは首都の景色だった。以前のような静謐さは無く、人の活気さはアフトの耳を刺激した。途方もない人の数、家の立ち並び、景色の美しさ。道路は整備されており、衛生環境も良かった。また、ところどころにある木々がこの家々の景色に鮮やかさを足していた。
「・・・アフト。」
「はい!?なんでしょう?」
「今からユーゲント家まで行くわ。だからそれまでは景色でも楽しんだら?」
「!じゃあそうする!」
こうして、アフトは初めてクアラルの首都”スピカ”まで来たのだった。




