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11話:竜殺しの過去①

この話の続きの後は一章へと行く予定です。え?これは一章じゃないのかって?残念なことにまだ入り口なんですよね。あと、アフトはヴァイツに勝てるはずもないので、ヴァイツの過去を皆さんに教えます。皆には内緒だよ。

ヴァイツ目線


あの頃の竜は今と昔もさほど変わっていなかっただろう。あらゆる動物の、魔獣の頂点。世界の国が被害を被っていないのは、竜の気まぐれにすぎない。あの頃、もし”カリダ”がダースにきていなければ?カリダが旅行好きじゃなかったら?ダースは、私はどうなっていただろう?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「ヴァイツ!こっちに行きましょ!」


「ちょ、ちょっと待ってください。そんなに急がなくても。」


「何言ってるの!時間は有限でしょ?あなたは私の案内役なんだから、きちんと案内してよね!」


私はあの頃は一介の雇われ人に過ぎなかった。たまたまギルドでいつものように安全で、報酬の良い依頼がないかと探していた。・・・いや、安全なのが最優先だった。どんなものも命には代えられないと思っていた。そんな時、私はギルドで破格の条件の依頼を見つけた。ただの案内で一か月分は暮らせるものだった。ほかのものはいわくつきだとか噂していたが、そんなのはどうでもよかった。すぐに応募した。そしてその採用が決まったのもすぐだった。


案内する人はカリダ・アネモスという人物だった。クアラルでは辺境伯らしい。マイペースで、旅行好き。人を寄せ付ける魅力はあったが、誰よりも独立していた。いい意味でも、悪い意味でも。しかし、その頃の私には命と金さえあれば十分だった。


「うわー!すごい綺麗ね!ここはなんていう場所なの?」


カリダと一緒に行ったのは名もない湖だった。生い茂った森の中にあるたった一つの湖。ターコイズブルーの色合いだけじゃない。そこにはいろんな生き物もいた。カリダはそんな自然が作り出したものが好きだった。


「特に名前はありませんよ。ダースはこういう場所がたくさんありますから。」


「え!すごくうらやましい!今日はここでお昼にしましょ?」


今でもその大げさな表情を思い出す。その表情を私は常に疑ってきたが、ただ純粋無垢だっただけだと気づいた時はもう遅かった。


「ええ。構いませんよ。今日はサンドイッチですが、構いませんか?」


「ええ。だってヴァイツのご飯、全部おいしいもの!」


「・・・一人暮らしですからね。自然とそうなりますよ。」


「へぇ~。そういうものなのね。・・・もう一個ちょうだい?」


「・・・私が言うのもなんですが、もう少しゆっくり食べてみては?せっかくの景色を楽しめませんよ?」


「それはそれ。これはこれよ。食べているときは食べて、見るときは見るの。で、私は食べたいし見たいから板挟みってわけ。」


うふふっ、っとカリダは笑う。


「・・・お好きにどうぞ。」


「ええ。そうさせてもらうわ。」


・・・しばらく時間がたって、カリダが景色を見納めたのか、立ち上がって私と次に行った場所は確か・・・名もない川辺だったはずだ。


「ここでは何をなさるんです?」


「ん~?特に何も。ただぼ~っと眺めるだけ。・・・ヴァイツはさ、常に何かに急かされてるみたいね。」


「・・・どういう意味です?」


「そのとおりよ。一度聞いたことがあったじゃない?ヴァイツは安全で、報酬のいいものだったら何でもやるって。なんでって聞き返したら、楽に生きるためって言ったわよね?」


「ええ。今でも変わっていませんよ。」


「楽に生きるためって、具体的にどういうことなの?」


「・・・文字通りですよ。ただ自堕落に過ごしていたいだけです。」


「・・・それって楽しいの?」


「楽しくはないでしょう。しかし、苦しむこともないはずです。」


「それって、本当に生きてるって言えるのかしら?」


「・・・さっきから何が言いたいのかよくわかりません。楽しみだけが人生ではないでしょう。」


「じゃあ、今苦しむのは何のためなの?」


「・・・失礼なことを申し上げますが、それは貴族だから言えるのではないでしょうか?私たち平民は毎日を生きるので必死なのです。」


「・・・ここに来るまでいろんな人を見てきたわ。あるところは法律が厳しくて自由は一見なさそうだった。けど、みんな幸せを享受してたわ。動物と一緒に一生懸命に生きている国だってあった。そこでは確かに愛があったわ。」


「・・・何が言いたいんです?」


「私たちに必要なのは苦しみから逃れることじゃないと思うの。苦しみの中に些細な幸せを見出すことだと思うの。」


この言葉はいつもお茶らけてるカリダからは予想しない言葉だった。いつになく真剣だった。その言葉に私はカリダの信念が確かに感じられたから、反応するのも遅れてしまった。気づけば返答する前にカリダが喋っていた。


「ねえ。ヴァイツ。私の領地へとこない?ほかでもないあなたがいいの。私にここまで付き合ってこれたのはあなたが初めてよ。」


「・・・愛の告白ですか?」


「もしかしたらそうかもね。」


ふふっ、っとカリダは笑う。


「私よりかっこいい人なんてどこにでも、それもごまんといますよ。」


「あなたがいいの。それにね。私はこれを”運命”って呼びたいわ。場所と時間。この二つが合わさらないと私たちは出会っていないんだから。それにね。」


「・・・それに?」


「覚えていてね。”愛っていうのは直観なの”。理屈を捏ねるわけでもない、すぐ選んだわけじゃない。一緒に過ごしてこの人がいいって思えたなら、それは愛なのよ。」


この時だっただろう。私が初めて君に惚れたのは。君の言葉が私のつまらない人生に色彩を、音を付け加えたのだ。


「・・・肝に銘じておきます。」


「ええ。ぜひそうしてちょうだい。」


この日から、私はカリダと共に過ごし始めた。

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屋敷に来て早々、カリダのご両親と会うことになった。正直このころはカリダと話すよりもご両親と話すことが多かっただろう。緊張はもちろんした。いろんなことを聞かれた。カリダのどこが好きなのか、添い遂げる気はあるのか、そしてどこが嫌いか、短所はどこだと思うか。・・・最後の二個は私にとっていささか不可解だった。だが、苦手なところを、ない、と言う人間にはなりたくなかった。全部が完璧な人間などいないからだ。苦手なところ、嫌いなところすらも、私は愛したかったのだ。そうやって月日は流れ、数年過ごした時だった。


「カリダ!」


もうこの時には敬称などつけなくなっていた。付けることが失礼だと感じ始めたからだ。


「ヴァイツ・・・。」


カリダの両手には赤ん坊が抱えてあった。カリダと同じオレンジの髪色。元気に泣く姿もカリダと一緒だった。この時私は不器用ー今でもそうだがーだったから、ぐったりとしたカリダを褒め称えればいいのか、それとも赤ん坊を抱きしめたらいいのか分からなかった。そんなオドオドしてる私をカリダは笑いながら、


「どっちでもいいわよ?」


と、優しく話しかけたのが決定打で、私はカリダを抱きしめた。


「もう・・・。今は赤ちゃんでしょ。・・・でも、嬉しいわ。」


私はこんな幸せがずっと続くのだと考えたいた。しかし、その日常は、「ダースに竜が出現。討伐者求む。」という大きな見出しの新聞で終わりを迎えることになる。

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