天間葉月、今日から天使になります!
異世界に憧れていた。
アニメや漫画で見るような剣や魔法の世界。
現実の世界のことなんて忘れて、その世界の住人と冒険をしたりして楽しく暮らす。
自分には不思議な力があって、魔法とか異能力が使える。
物心ついた時から、だったらいいな、いつ異世界に召喚されるのかな、とずっと待っていた。
そういう世界が、そういう不思議があると、信じたかった。
◆
この物語の主人公は天間葉月という、今日、小学校を卒業する少女である。
葉月は丸眼鏡をかけ、髪はハーフアップにし、大きなリボンで結んでいる。今日は小学校の卒業式なので、いつもよりお洒落な服を着ておめかししている。
そんな彼女の目下の悩みは、昨日、些細なことで、親友の、黒崎りんねとケンカをしてしまったことだ。
「葉月、卒業式の後の謝恩会出ないって、どういうこと?」
「だって、私なんかいたって皆、楽しくないし……」
「そういうのがダメだって言ってるじゃん。少しは周りの皆と関わらないと」
「私は、りんねがいてくれれば、それで十分だよ」
「全く、私に依存してちゃダメだって、いつも言ってるのに」
「ごめん」
葉月は泣きそうになりながら謝る。
卒業式が終わり、葉月は結局、謝恩会には出ずに一人で帰宅した。
いつもの本屋に寄り、好きな漫画の最新刊を買う。
本屋から出ると、店の隅に、黒いもやもやが見えた。
「何、あれ……?」
その、もやもやが葉月めがけて飛びかかってきた。
死ぬの、と思った瞬間、誰かが割り込んできた。
「大丈夫か?」
その人物は、もやもやを払い去った。
「ただの低級霊だ」
「お化け……?」
「まあ、そんなもんだ」
その人は白い制服を着ていた。どこの学校かは分からない。
整った顔をした少年で、年は葉月と同い年くらいなようだった。
「天間葉月てんまはづきだな?」
(何で私の名前を知ってるんだろう……)
「う、うん」
「俺は如月快斗。天使だ」
「て、天使⁉」
突然の非日常的な言葉に葉月は驚く。
「そうだ。……今から一緒に天界に来てもらう」
快斗が葉月の手を取る。
「行くぞ!」
快斗に羽が生えて、一緒に飛んでいた。
「天使、本当に天使⁉」
「ああ、手を放すなよ」
雲の中に入っていき、浮いた扉が見えた。
その中に入って行くと……、
「お~、快斗。新人回収お疲れさん」
20歳くらいの男性が、手を振りながら、待っていた。快斗と似たような真っ白な制服を着ている。
「俺の名前はコノハ。お前らの上司みたいなもんだ」
「上司?」
葉月の疑問を無視して、コノハと名乗った男性は声を張り上げて言った。
「天間葉月! お前は今日から天使だ! おめでとう!」
「わ、私が、天使⁉」
「天使になると~、視力が良くなる~」
コノハがミュージカル風に歌いながら、葉月の眼鏡を外す。
「わっ、普通に見える!」
「視力は0.2から2.0へ~」
「突然だが、今から異世界に行ってもらう!」
「え、それって最近流行りの異世界転生⁉ ていうか異世界って本当にあるんだね!」
「ああ、あるぞ。あと、異世界転移だな。死んでないし」
「わー、やったー!」
憧れの異世界に行けるということで、葉月は舞い上がっている。
「早速だが、異世界でのパートナーを紹介しよう! モモちゃんだ。ベテランだから、まあ道中で色々聞いてくれや」
「そういう現場に丸投げなところ、変わってないわね」
喋るモモンガが現れた。
「異世界にはこのトンネルを通って行くんだ」
「うん」
プールにあるスライダーのようなトンネルの先には異次元空間のような、ぐにゃぐにゃした空間が広がっていた。
「ではグッドラック!」
葉月はトンネルの中に飛び込んだ。
主人公の天間葉月はオタクです。
異世界転生系のアニメを見て、自分も異世界転生できないかなと思っています。
夢が叶って良かったですね。