第5話 魔封拘束
ナイダンが寝たのを確認し、俺は一人で『始祖返り』についての文献を探すが、おとぎ話のようなものしか出てこない。
「『始祖返り』か。俺でも初めて見るが、あの年齢であの魔力量ならば、十中八九そうなのだろな。」
そう、ナイダンの魔力量はあまりにも異常すぎる。数百年生きていて、この世のほとんどの者が扱えない『魔法』を扱い、賢者と呼ばれる筈の俺の魔力量を上回っているのだ。
「だが、あの魔力量に対して技術があまりにも疎か。そのうえ、精神面も未熟。弟子にして正解だったかもな。」
俺がナイダンを弟子にしたのにはもちろん理由がある。俺が弟子を欲しかったのもあるにはあるが、1番の理由はナイダンの魔力が暴走してしまえば、そこらの人間では太刀打ちできないまま、国や街が滅んでしまう。事実、オーガに襲われた筈の村は跡形も無く消え去っていた。対処できるのは俺や勇者といった『称号持ち』か、同じ『始祖返り』だけだろう。
「いくらここが街から離れた森の最奥だからといって、暴走されては困る。………まず始めに魔力の封印でもしておくか。」
ナイダンの魔力量は確かに膨大だが、技術がない今のうちに封印しておき、それから徐々に魔力を解放していけばいい。そう思い、ナイダンが寝ている部屋へ歩いていると、うなされている声が聞こえ、とんでもない魔力が溢れているのが感じる。
「手遅れだったか。」
俺が即座に家のものに防護魔法をかけ、魔法で作った異空間へ収納していくと、ナイダンの魔力が爆発した。俺はあらかじめ自分にも防護魔法をかけていたので無傷だったが、家はそうはいかず、ばらばらに砕け散った。
「せっかく数時間かけて作った家だったのにな。」
俺が頑張って作った家は爆発の影響と、それともナイダンの魔力に覆われており、視認は困難となっていた。俺は空からそれを見下ろしながら、遠隔でもともと作っていた魔法陣を展開、発動させていく。だが、時間がかかり過ぎていたのか、うち一部がナイダンの魔力により破壊され、俺は具現化したナイダンの魔力に襲われていた。
「無意識下での脅威とそれの発生源の排除。さすがにそれくらいはできるか。」
俺は襲ってきた魔力を掻い潜り、ナイダンの足元に魔法陣を描く。
「まさかここまで本気を出さなきゃいけないとはな。『魔封拘束』。」
魔法を発動させるとともにナイダンの足元の魔法陣が発光し、魔力の鎖がナイダンを絡め取る。ナイダンが必死に暴れるがそれでも鎖はびくともしない。
「暴れるだけ無駄だ。それは魔力を吸ってより硬くなるからな。」
抵抗しても無駄と見たのか、それとも奇跡的に言葉が通じたのか、ナイダンは身動き1つしなくなった。なのに、俺の直感は今までよりも強く警鈴を鳴らしている。途轍もなく嫌な予感がして、空へと逃げた瞬間、あり得ない言葉が聞こえた。
「発動 『竜器第1位 』」
それは遙か大昔に滅びた筈の始祖が扱う武具であり、人知を超えた災厄ともいえる兵器でもある。俺が数百年で封印しなければならない最後の1つ。
「なるほど。最後の『竜器』が見つからないわけだ。まさか能力と共に継承されてるなんてな。……しょうがない、本気を出すしかないか。」
手加減抜きで本気で殺すべきと判断し、大魔法を発動させようとしたが、発動させるよりもはやく、ナイダンが倒れてしまった。鎖によりかなりの魔力を吸われていたのと、『竜器』を発動するのに必要な魔力が多かったのだろう。なんとか鎮静化することが出来たのだが、ナイダンが暴れ過ぎたせいで、周りの木々が全て折れ、地形がボコボコになっていた。俺はナイダンに魔力と『竜器』の封印を数時間程度で済ませて、そこからずっと家と森の復元をする羽目になった。