第22話 禁術
凍りついた里の中で僕だけが立てている。ほとんどのエルフや精霊種達は氷に囲まれ、動くことすらできなくなっており、こと氷の里で今動くことができるのは僕と『使徒』、エルフの『始祖返り』だけである。僕は足を氷に掴まれ、逃げることが出来ないエルフの『使徒』へと近づく。
「ねえ。名前何?お前と、ドライアドと、そこにいる『始祖返り』の名前。」
僕がそう聞くと死ぬ覚悟でもしていたのか、呆けていた。が、すぐに意識を取り戻した。
「お前は何を言っているのだ!?里をこんな状態にしておいて名前だと!ふざけるのも大概にしろ!?」
「別にふざけてないよ。だって『使徒』が二人もいるんだから名前聞くのは妥当じゃない?」
僕が大真面目にそう言うと、エルフの『使徒』は忌々しそうに僕をみて、口を開いたかと思えば儀式、もとい禁術の術式詠唱を始めた。諦めが悪いというべきか潔いというべきか。でも僕はその詠唱を止めない。止める必要がない。詠唱が終わったのか、エルフの『使徒』が勝ち誇ったような顔をした次の瞬間、目の前にいたエルフの『使徒』が斬られ、僕に血が飛びかかってきた。
「ねえ、僕がいるのわかっていて斬ったの?血がかかったんだけど。勇者さん。」
僕の目の前には5年間、一緒に旅を続けてきた勇者さんと、聖女さん。それに少し前に別れたお師匠様がいた。
「すまない、ナイダン。あの禁術を放置していればどうなるかわからなかったからな。」
勇者さんは僕に謝ったあと、聖女さんに自分が斬ったエルフの『使徒』の治療を、お師匠様には僕が氷漬けにした里の修復を任せておいてドライアドの『使徒』の捕縛をしており、僕はその間に『始祖返り』の下へと向かった。
「はじめまして。僕の名前はナイダン。君の名前は?」
僕がそう聞いても、全く口を聞いてくれず、ずっと黙って里を見つめ続けている。その目には解放された希望ではなく、絶望が映っていた。
「君はこの里が好きなの?」
僕が次にそう聞くと『始祖返り』の子は無言で首を振った。
「なら何で君はそんなに絶望しているの?」
僕がそう聞くと『始祖返り』の子はようやく口を開いてくれた。
「貴方のせいで皆様の為に死ぬことが出来なくなったからです。私は『始祖』様を宿すための器として育てられてきたのに、貴方がそれを壊したからです。もう、私はどうすれば良いのか分かりません。」
僕はそれを聞いて、昔の事を思い出してしまった。誰にも必要とされずにせめて誰かの為に死にたい。とずっと考えていたあの頃に。でも、僕は今誰かを救いたいと願っている。この子みたいな不当な扱いを受けている異端の子達を救いたいと。
「僕等が死んだって誰も悲しまないんだよ。」
僕がそう言い始めると、『始祖返り』は不思議そうに僕を見てきた。
「僕等は異端で不要で誰の役にも立てない。僕もずっとそう思っていたんだ……。でもね、お師匠様達と出会って、旅をして、僕は生きてて良いんだって思うことが出来たんだ。確かに、差別的な目を向けられる事もあるだろうし、とんでもない侮辱を言われるかもしれない。けれど、僕等は今を生きるたった一つの存在なんだ。だから、誰も悲しまない死なんだったら、出来る限り好き勝手して死んだほうが、僕等のためになるでしょ。」
僕がそう言い切ると、『始祖返り』の子は僕の方を困惑しながら見ていた。でも、そんなのお構い無しに、僕は話す。
「そんな死に方をするために、僕は旅をしているんだ。僕以外の異端の子を助けて、一緒に旅をして、その果てで僕等は世界に大迷惑をかけて死ぬんだ。そのために君が欲しい。僕の勝手な生き方のために。僕が叶えたい夢のために。だから一緒に来てくれないかな。」
僕がそう言いながら手を伸ばすと『始祖返り』の子は戸惑いながらも僕の手を取り、口を開いた。
「……リファ。私の名前はリファです!」
そう、力強く言ったリファを見て、僕は少し嬉しくなり、
「ああ。宜しく。リファ。」
と、笑顔で言った。




