第2話 勧誘
目が覚めると、そこは知らない家だった。僕は記憶も定まらないまま歩き出し、いつもと同じように朝食を作ろうとすると、誰かがいた。長い綺麗な黒髪と綺麗に染められた上等な品であることがわかるローブを纏い、静かに本を読む大人がいた。その人を認識した瞬間、僕は逃げ出そうとした。僕は忌み子で、穢れた子だから、僕がいることがばれる前に逃げ出して早く家に帰らなくてはという漠然とした思いに頭が埋め尽くされ出口を探そうとしていた僕を大人の人が見つけた。
「ああ、目が覚めたのか。どうだ?何か覚えているか?」
大人の人がそう問いかけていたけれど、僕にその言葉は届かずにいた。
(見つかってしまった!どうしよう。とりあえず謝って、家に帰らないと)
そんな言葉ばかりが頭を埋め尽くしていると目の前に大人の人が現れた。音も無く、ただ、そこにいるのが当然というべきかのように。大人の人は僕の顔を見ながら、
「異常はないようだな。」
目の前に大人の人が現れたことにより、僕は今まで思考していた全てを忘れ、ただただ謝らないと、という思考に埋め尽くされていた。
「すっ、すいません!起きたらここにいて、すぐに出ていきますからっ!」
そう言ってひとまず見えた扉へ向かおうと大人の人の横を通り抜け走り出すと、身体が浮き始めて前に進まなくなった。
「えっ、ど、どういうこと!?」
「何故逃げ出す必要がある。お前がここにいるのは間違いではない。森で倒れていたお前を私が運び込んだのだ。」
大人の人がそう言って始めて僕は気づいた。僕が寝かされていた部屋はとても綺麗で僕にかけられていた布も綺麗に整えられていた。
「なんで僕なんかを助けてくれたんですか?」
僕がそう聞くと、大人の人は不思議そうな顔をして数秒後合点がいったように笑い出した。
「お前は自分のことが穢れた存在だと思っているようだか、そんな訳はない。むしろ素晴らしい。お前の身体は実に興味深い。その身に余る魔力にまだ持っていない筈の『能力』どういう理論でこんな存在が産まれるのか実に興味がある。」
大人の人がそう言って僕の顔を覗き込んだ時、僕は死を覚悟した。その目は見たことがなかったけれど、常人がするような目ではないことだけはわかった。
(つまらない人生だったな。)
と諦めていると浮いたまま僕は動き始め、椅子に座らせられた。
「ひとまず、お前は私が保護した。お前、私の弟子になれ!」
僕は今日2度目の思考停止をしていた。