第17話 方向音痴
もう日は暮れた筈なのに、大森林はまだ明るく、灯りを点ける必要もなく僕は歩いていたけれど、何処か見覚えのある道ばかりを歩いている気がする。僕は一度試しに木に印を付けてから歩いていると、数分後に僕が印を付けた木の場所に戻って来ていた。
(どういうことだ?大森林には幻惑効果のある動植物は無いって話だけど。)
僕は考えながらもう一度歩いていると、また木の場所に戻って来ていた。それを何度か繰り返して僕はある一つの嫌な考えが頭をよぎった。それは考え過ぎだろうと思いながらもそこらに生えている植物を見て、僕はその考えを肯定せざるを得なくなった。それは、ここが僕が訪れようと思っていた獣人達が住まう大森林ではなく、エルフや精霊種が住まう世界樹の森だというものだ。
僕は最初、大森林へ訪れようと思っていた。理由は単純で、人間の国の近くに住んでいる種族の中でも獣人は比較的人間と感性が似ているからだ。それに大森林へは何度か訪れており、顔なじみが何人かいるのだ。しかし、僕が今いる世界樹の森はエルフと精霊種が世界樹の加護のもと共生しており、勇者には協力的でも、人間という種全体で見れば最悪の評価を受けているだろうという自信がある。何せ森から出てきた見目麗しいエルフ達を奴隷とし、商品にしているのだ。そういった組織は個人的な考えや依頼として何度か壊滅させていたけれど、次の日には新しい組織が出来ており完全に滅ぼすことは不可能なのだと分かっているのだ。だからこそ、エルフ達は最後の方にするか、少なくとも関係がもう少し改善されてから訪れたかったのに、僕の方向音痴のせいで一番最初に来てしまったのだ。しかもしっかりと感知してから気づいたが、これは幻惑効果のある結界であり、恐らくは『使徒』レベルの者が張ったものだ。故に一度入ったら出ることは出来ないし、この結界内には食べられそうなものもない。普通の人が入ればゆっくりと死を迎えるか、自死するしかないとんでもない結界だ。だからといって僕がこの結界を破れば、敵対の意思ありとみなされるかもしれないし、この結界がもし世界樹の加護で成り立っているのなら僕の能力で世界樹の加護全てが消え去ってしまうかもしれない。そうすれば加護がなくなったエルフ達がどうなってしまうのか分からないほど僕は馬鹿ではない。しかし、本当にどうするべきか。そのままにしていれば僕は餓死するだろうし、破ってしまえば確実に面倒くさい事になる。僕の頭の中であらゆる考えが巡り続け、僕は明日の僕に全てを託す事にした。どうせ今出来る事は限りなく無いに等しく、考えても打開策が出てくるわけでも無い。一度寝て、いい考えを思いつく事に賭けるしかないということだ。そう考えた僕は素早く寝る準備を整え、すぐさま寝始めた。




