カインとトライア
10分後・・。
キーンという音と共に黒い裂け目が開く。
「よっと!」
裂け目内には、予備の日本刀。赤い刀身の剣、青と金の配色の盾、そして、一丁の拳銃をしまっておくことにした。
他にも色々あったけどね。
全部、武器庫にあったものをいくつか拝借して来ただけど。この赤い剣、持ってきて良かったのかな?
「んっ?別に良いと思うよ!」
「持ってきた私が言うのも何だけど、貴重そうだし」
よく見ると、ボンヤリと黒いモヤみたいなのが出てるし。
「その兼って、コスモスが来る前に、ヴァイスが倒した相手が持っていたんだって。捨てるのはもったいないから、保管しとくことにしたみたい」
「じゃあ、持って行っても、大丈夫だよね」
これで、準備は完了。
「よ〜し、出発!早速、ワープを・・って。私、座標知らない」
「座標ね。この宇宙船の機械を使えば、何とかなるんじゃない?」
地図なら、アップロードできるだろうし。それから、機械を使えば、座標特定くらいできそう。
「あっ!その手があったね。早速、アクセスしてみようっと!って、あれ?」
キラナが首を傾げ、何度も腕輪をポチポチとタップしている。
「どうしたの?何か問題でも発生した?」
「えっと・・故障かな〜?反応しないんだけど」
故障?
私は修理なんてできないし・・
「マリアナに言って、直してもらうしかないよね」
「うん・・」
キラナが静かに頷き、腕輪を触りだした。
ピロッと通知音が鳴る。
「『分かった。私が見ておく。悪いが、数時間ネットワークは使えない。まぁ、おそらく原因は宇宙船付近でヴァイスが戦闘をしたことによって。闇魔法が機械に何らかの影響を及ぼしたのだろう』だって」
「じゃあ、歩いていくしかないよね」
えっと、山までの道をナビで設定して・・
『ポンッ!目的地までの案内を開始します!』
ナビ機能が南東の方向を指し出した。
ちゃんと腕輪の操作の練習もしといて良かった〜
「じゃあ、気を取り直して、もう一度・・出発!」
キラナが片腕を突き上げ、歩き出した。
同時刻、トライアは・・。
「キャっ!」
ドサドサ!と倉庫内に物が散らばる音が響く。
「もう、ミーナったら、足元には気をつけたほうが良いよ」
セラフィナが部屋の隅の方でそう言う。
「だったら、少しは手伝ってよ」
「あ、ミーナさん。手、貸しますニャ」
トライアが中腰になり、尻餅をついたミーナに手を差し出した。
「フフッ、ありがとう」
「これは、私が直しておきます。ミーナさんは引き続き、運んでくださいニャ」
「わ、分かった。ありがとう」
トライアとミーナがお互いの仕事を進め、30分後。
「ふぁぁ。そろそろ、セラも働きますか〜」
大きなあくびをし、背伸びをしながら、起き上がりだした。
「やっとね。トライア、今から。まぁまぁ、凄いものが見れるよ」
「えっ?」
そう言われ、足をピタッと止めた瞬間・・。
「あれっ?」
トライアの手元から、段ボール箱が消え去っていた。
後ろを振り返ってみると、とっくに別の段ボールを取り出しているところだった。
「速いって、思ったでしょ?・・そうなんだよね、こんなに仕事できるのに。なんで、たまにしか手伝ってくれないのかな」
トライアも確かに・・とでも言うように軽く頷く。
「前も言わなかったっけ?このスピードを使うと、セラは疲れるの」
「言ってたっけ?それより、それだったら、普通にやった方が早くない?」
「まぁ、これから頑張るよ。今は黙ってみてて、近くに来たら危ないよ!」
そう言い終えると、目にも終えぬ早さで移動し、どんどん段ボールの位置が変わったり、減ったりしだした。
「ミーナさん。運んでいるときに思っていたのですが、書物類が多くないですかニャ?」
「カイン様は、読書が好きなんですよ。それも、色々なジャンルを読まれているみたいで」
「なるほど・・(もっと、ちゃんとどんな書物か見るべきでした。でも、本人から聞けばいいですよね)」
そのまま会話を続け、3分後・・。
2人が部屋を見渡すと、頼まれた仕事全てが片付いていた。
「終わったよ〜、2人共。報告に行くよ」
部屋の中央でセラフィナが伸びをしながら、歩いている。
「は、はいニャ」
ーマドレーヌの部屋ー
「いますか?セラです。 終わりましたよ〜!」
何度かノックしてみるが反応がない。
「居ないのかニャ?」
「もしかしたら、カイン様の所にいるのかも?」
「行ってみましょうか!」
扉の前から離れようとした時だった。
「終わったのか?ミーナ、セラ、トライア」
3人が後ろを振り返ると、カインがトライアたちの方に向かってきている。
「あっ!カイン様!」
「ちょうど終わったのなら。ミーナとセラにはキッチンの手伝いをしてくれ。トライアは私の事務室までついてきてくれ」
「は、はいニャ(何で僕だけが、カインの所に・・まさか、もうバレちゃってるとか?そんなことはないはず)」
最悪の可能性は考えないことにして、ゆっくりとカインの後ろを追いかけた。
「そ、そ、それで、僕に何の御用ですかニャ」
「そんなに緊張しなくてもいい。新人が増えたんだ、どんな人物か知っておきたくてな!まぁ、単なる雑談を少しするだけだ」
カインがトライアの方に振り返り、優しい口調でそう話す。
「分かりましたニャ(この雑談で少しでも、情報を得られれば良いのですが・・)」
2階まで、二人で歩き・・。
部屋に入ると、今は誰も居なかったが。
何枚かの紙が床に散らばっていた。
「ここだ。まぁ、少し汚いが、席に座っててくれ!今、お茶を淹れる」
「お茶なら、僕が・・」
トライアがそう言い、動こうとした瞬間・・
「トライアは座っててくれ」
カインがトライアの腕を掴み、優しくそう言った。
「わ、分かりましたニャン。カイン様」
「お茶は、何が良い?」
「何でもいいですが・・カイン様のオススメで!」
数分後・・
待っている中、トライアの耳に静かな波の音が入り込む。
(近くに海でもあるのでしょうか?)
その中にカインがカップにお茶を注ぐ音も綺麗に響き渡っている。
「おすすめのアールグレイだ」
テーブルの上に丁寧な手つきで、カチャと音を立てて置かれた。
「アールグレイは僕も大好きですよ」
「それは良かった。この爽やかな甘い香りが最高だよな」
そう言い、ティーカップを口元まで運ぶ。
「そうですね。それで・・あ、あの。話って?」
「言ったはずだ、ただの雑談だ。そうだな・・好きな食べ物とかはあるか?」
「キャットフードも好きですけど・・焼肉が好きですニャン」
トライアが弾んだ声でそう応えた。
(バーベキューの時に食べたあの味は忘れられませんもの。はぁ〜、また翔様とコスモス様と行きたいです)
そんな思い出を思い出したながら、ボーッとしていると・・
「焼肉か〜。僕も好きだが、最近は食べてないな・・なら、今から、買いに行くか!トライア、ついてきてくれるか」
カインが立ち上がり、机の横のカバンを背負い出した。
「えっ!今からですかニャ?!」
いきなりの事にトライアは大きな声を出してしまった、
「そうだが。散歩は嫌いだったか?」
「い、いえ。行きましょう!」
そして、5分後。
ピッという電子音とともに、正面の門がゆっくりと開いた。
(こういう時にしか、会話はできないはず。まず、最初に何を質問するべきなのでしょうか?)
「そういえば、カイン様」
「どうしたんだ?」
「そのカイン様って、こんな風によく出かけるのですかニャ?」
まずは距離を詰める判断をトライアは下した。
(こういう何気なくも、重要な会話からするのが一番適しているはずです)
「いいや、そんなことはないぞ。普段は仕事で忙しいからな。屋敷から出ることさえ、ままならないな」
カインがそう淡々と話す。
「そ、そうなんですね。お疲れ様ですニャン!(何て、返せばいいか分からない・・)」
「ありがとうな。本当なら、ノエルも連れて行きたかったんだが。疲れたのか、寝てしまっていてな」
「話を聞く限り、普段、一緒にいることも少な・・いえ、何でもありませ・・」
トライアが言葉を濁そうとしたが・・
「別に言ってくれてもいい。事実だ。言われても仕方が無い」と、カインは少し俯きながら、そう言い放った。
「でも・・」
「いや、こんな話は止めにしよう。それよりだ。せっかくなら、ノエルに土産でも買っていこう!」
「そうですね(カインって、マリアナの話と違って、凄く優しい?いや、安易に判断するわけにはいきません)」
10分ほど歩き、2人は人通りが激しい海沿いの町中に出た。
接客業の人の呼び込む声に人々の何気ない会話。そして、ザザッーと波の音が大きく聞こえる。
「肉もそうだけど。他にも、食材が足りないって、マドレーヌが言ってたな」
「連絡してみてはどうですか?」
「そうだな」
カインは頷くと、ポケットからスッとスマホを取り出すと。
メールを開き、ポンポンっと手慣れた手つきで、指先を動かしている。
「(マドレーヌ。もし、足りない食材があるなら送ってくれ!)っと!」
送信して、5秒後
ピロンッ!
「もう、返信が来たんですかニャ!!」
「マドレーヌは手が離せない状況じゃない限り。必ず、即急に返信をくれるからな」
カインは、ハハッと軽く笑いながら、そう言った。
「さ、流石。メイド長ですニャ。僕も見習わなければ、いけないですニャン!」
「スマホの触り過ぎは良くないがな。まぁ、暇があればだが。僕も皆が言うゲームというのもやってみたいものだな。多分、できる機会はないだろうな・・すまない。僕ばかりが話してしまって」
「いえ、カイン様の事が色々知れて、話してくれて。僕は嬉しいですニャン(予想していたものとは、違いましたが。こう聞くと、カインのかなり不憫な人ですね)」
「そうか、ありがとうな」
カインがそう言った時だった。
「よそ見厳禁!」
いきなり2人の後ろから誰かがぶつかってきたようだ。
「財布を取っていったみたいだな」
そして、そのまま走り去ろうとしているのは・・
「少年?カイン様。僕が対処しますニャ!」と言い、トライアが4足歩行になろうとした。
だが、走り出す直前で、カインが止めた。
「いや、僕がやる!トライアはここで見ていてくれ」
「えっ!でも・・」
「『グラビティー』こっちに戻ってこい。そして、謝るなら許してやる」
そう言うと、カインが右手を突き出し、人差し指をクイッと曲げると。
「うわっ!」
その瞬間、男は宙に浮かび上がり、カインの手元まで引き寄せられた。
「す、凄いです。カイン様」
「まだ全然使いこなせてないがな。その上、僕は戦闘向きではない」




