メイドの仕事−1
「この路地から見えている屋敷がそうです」
芝生が広がる庭の中央に噴水が設置され、その奥に大きな建物がある。
「そういえば、門番は居ないのですか?」
「私の屋敷は入口をセキュリティで監視しているので。大丈夫ですよ」
ノエルは入口に薄っすらと見える監視カメラを指さして、そう言った。
「それは便利ですね!えっと・・それはそうと。本当にニャン付けしないといけないのですか?何回も聞いてしまってすみませんが」
「えっと、できれば・・お願いしたいです」
申し訳無さそうに、俯いてそう言う。
「(はぁ〜。どうしよう・・でも、任務だし)わ、分かった・・ニャン」
「キャッ、すごく可愛いです!これでキャラ造りもオッケーですね。それじゃあ、行きましょうか」
「は、はい・・ニャ!」
門の前まで行き、ノエルが監視カメラに視線を向ける。
『人物認証を開始します!」
監視カメラが2人の方に向きを変えると、じっくりと見つめだした。
「・・・ピッピッ、認証完了しました。ノエル様、おかえりなさいませ!』
単調な電子音の出迎えと共に、門がギィィとゆっくりと開き出した。
「それじゃあ、ついてきてください!」
「は、はい・・ニャ!」
館の玄関に入った瞬間、一人の20代くらいの若いメイドが急ぎ足で駆けつけてきた。
「おかえりなさいませ、ノエル様。んっ?そちらのメイドは・・?」と言い、そのメイドが丁寧にお辞儀をする。
そのメイドの質問にどう答えるのか・・と、トライアは冷や汗を少し垂らしながら、じっとノエルを見つめる。
ノエルの方も、ここで上手く演技ができなければバレる!と緊張しながらも、慎重に発言をし始めた。
「それはね・・」
とノエルが笑顔で話し始めた時だった。
「どうせ、他の貴族がいらないメイドを渡してきたんだろ」
上の階から、静かな声と共がした。
3人が上を見ると、30歳くらいの男性が2階から階段をゆっくりと降りてきている。
「お兄様!まぁ・・そんな感じです。いいですよね?」
「別に僕からしたら、全然構わない!それに、部屋はまだ余っているし。人数も多いほうが良い!」
「?!」
意外な即答に、トライアもノエルも固まってしまった。
「何、ボーッとしている、ノエル。引き入れるんだろ? マドレーヌ、ノエルと一緒に案内をしてやってくれ。それと・・新人、名前は?」
「え、えっと・・僕はトライアです、ニャン!よろしくお願いしますニャン!」
焦りながらも、丁寧に自己紹介をする。
「トライアか。また、個性的な人材を渡してきたな。まぁ、全然問題ない。これから、よろしく頼む」
カインは、それだけ言い残し、2階まで戻っていった。
「トライア。先ほど、カイン様がおっしゃた通り、私は、この館のメイド長のマドレーヌ」
メイド長という身分に、トライアは「えっ!」とつい声をあげてしまった。
「確かに、驚きますよね。マドレーヌさんって、こんなに若いのにとっても優秀なんですよね」
「ノエル様から、お褒めの言葉をいただけて、とても嬉しいです。ですが、私もまだまだですよ・・コホン、話を戻します。まず、部屋と一日の仕事の紹介をします。そして、最初の数日間、あなたの指導は、私が担当しますので、よろしくお願いします」
「は、はいニャン!」
トライアは、背筋と猫耳をピンっと伸ばし、精一杯の返事を返す。
同時刻、コスモス視点・・
「なるほど、(空間魔法は壁や、足場としても応用できる。っと)・・後で、試してみよう!」
他には・・
空間魔法は範囲を選択して、相手の攻撃を別の場所に移動させることができる・・っと。
いいね。上手く利用すれば、カウンターにも応用できるかのしれない。
次は・・
と、ページを捲ろうとした時だった。
「急に消えたと思ったら、ここに居たんだ!コスモス!」
後ろから、急に声が聞こえ、私の肩に温かい手の感触が襲いかかる。
「わっ!びっくりした!」
後ろに居たのは予想通り、キラナだった。
「ごめんね。それで、今は何を読んでるの?」
「これだけど・・キラナに分かるの?空間魔法」
「まぁまぁ、一旦見せてみてよ!」
そう言いながら、半ば無理やり覗き込んできた。
「どれどれ・・これか〜。私自身は使えないけど。使ってる人は見たことあるよ」
「キラナも。空間魔法を使う人に会ったことあるの?」
他にも空間魔法の使用者がいるのかも。・・でも、ヴァイスに会った人は殺されたんだよね。
まだまだ、使用者がいるってことかな?
「うん。あるよ。今、どうしてるのかな?」
「仲良かったの?」
「もちろん!」
キラナは腰に手を当て、笑顔で頷いた。
「へぇ。なら、他にもどんな活用方法があるか教えて!」
「いいよ!う〜んと、私が見たのは・・って、口で説明するより、やってみようよ。私がまた、練習相手になるし」
百聞は一見にしかずってことね。
「分かった。よろしく・・わっ!」
キラナは読んでた本を持ち、私の手を引っ張り出した。
「ほら、早く!」
「自分で、行けるから・・」
キラナの元気っぷりには驚かされるけど、だからこそ強いんだろうな。
改めて、ここの宇宙船にいる人達の凄さを思い知らされた。




