新たな方針
「その前に一つ聞いておくが。カインの犯した・・いや。やらされている悪行はどんなものか知っているか?」
「ある程度は・・それに最近知ったばかりですので」
「そうか・・んっ?」
マリアナの腕輪がピカピカと点滅している。
電話みたいなものだったよね。
ヴァイス達からかな?どうしたんだろう?
「すまない。少し出てくる。その間も別に話を進めてくれて構わない」
「はい、分かりました」
そう言い、私達に、よろしく!と目線を向け。
部屋から、小走りで出て行った。
「それで、あまり話したくないかもしれないけど。どんな事をさせられているのかを、詳しく教えて!」
ちゃんと、マリアナが集めた情報と一致しているか確かめないと。
それ以上の事が浮き彫りになるかもしれないし。
「はい。私が知っているのは・・まず、人身売買です。お兄様の事務机を覗いた時に、一枚の資料に書かれてありました」
それは、かなりの決定的証拠だ。
でも、違和感はある。
その違和感というのが・・
「そんな資料を机の上に置きっぱで離れるかな?」
「そのことに関しては、私も思ってました。ですが、実は。貴族間では労働力の受け渡しは頻繁に行われています。その関連の資料の可能性もありますが」
受け渡しね。
確かに地球でも昔は・・今でも形は違えど、似たようなことは行われてはいるし。
「ちなみに、それは違法なの?」
「いえ。普通の人材交換なら、そうでは無いのですが」
やっぱり、普通の会社の異動みたいなものか。
そりゃ、違法ではないよね。
「他にはある?」
「もう一つだけ、あります。先程の内容に通づるのですが、子供を・・身寄りのない子供を何かの実験に利用しているみたいです」
実験ね・・でも、王もカイン自身も実験できるような人ではなさそうだし。
まさか、王の直属の関係者は全員が絡んでいるとか?王宮には魔術師や博士みたいな人がいてもおかしくはないし。
「実験?ちなみに、どこで知ったの?」
「この話は・・。実は、お兄様の側近から、私に直接報告してくれたお陰で、知ることができました」
密告ってこと?!
「それって、バレてたら、かなりヤバイんじゃ!」
バレてたら間違いなく・・。
下手したら、国総出で私達を殺しに来るかも!
「多分、大丈夫です・・。それに、もしバレてたら私にも何か影響が出ているはずです」
まぁ、バレてたとして。何人兵士やリヴィアみたいな奴が来ても、私達からすれば、相手にすらならないと思うけど・・。
「そうかな?ノエル自身に害が及ぶようなことはないと思うけど」
キラナが机に頬杖をついてそう言っているが、私はそうは思わない。
「キラナ、忘れてるよ。カインは王に実質操られているんだよ。カインがやらなくても、王の部下の誰かが手を下しに来るかもしれない」
「あっ!そうか!」
キラナと翔までもが同じように頷いている。
翔も気づいてなかったんだ。
「そのことにも気をつけて、作戦を立てようか」
一方で、マリアナは。
「ヴァイスか。どうした?」
腕輪をタップし、モニターが浮かび上がり、向こうにヴァイスの平然とした表情が映る。
「さっき、この宇宙船に21人ほどの雑魚がやって来たんだが」
「何!・・それで、今はどんな状況だ?」
「その内、3名を殺した。今は残った者から情報を聞き出している」
画面の奥に軽く血溜まりが見えているのが、戦闘後を物語っている。
「了解した。こっちも予想外の事態が発生している。帰り次第、話すとしよう」
「最初は、あまり派手な行動は避けるとして・・どうしようか?」
一応、キラナと翔にも案を考えるように、言葉を投げておこう!
私一人で考えるより、全員で考えたほうが良いもんね。
三人寄れば文殊の知恵って、言うし。今は4人だけど。
「潜入とかはどうだ?」
確かに翔の案も無難だが、ありではあるけど・・
「良いかもしれませんが・・流石にバレると思います。」
だよね~。
じゃあ、どうしようかな?
「私も潜入には賛成だ!」
電話を終えたマリアナが扉を開け、すたすたと椅子まで戻ってきた。
「あっ!マリアナ・・ヴァイスからだった?」
「そうだ。詳しい内容は後でだ」
「それで、潜入って言ってもどうするの?」
キラの疑問は私と同じ。
本当にどうするんだろう。
「トライアを潜入させる」
マリアナが真剣な眼差しで、きっぱりと言いきった。
「何で、トライアを?」
キラナが疑問をぶつける。
私もまだ分からないから、聞いてくれたのはありがたい。
「トライアは、メイド。それに、敵と遭遇したが、全員始末した。顔を知るものは、いない。潜入するには、一番最適だ」
「(確かに・・)流石、マリアナ!」
「コスモス様なら思いついていただろう?それを私が先に言っただけだ」
いや多分、1時間くらい考えても、出てこなかったと思う。
・・なんて、言えないけど。
私のイメージを下げるわけにはいかないし
「でも、どこに潜入させるの?」
確かに、場所はかなり重要だ。
王宮かカインの屋敷か・・
「でしたら、私の屋敷はどうでしょう?正直、メイドの人材不足でして、理由付けには、ちょうどいいと!」
ここまで条件が揃ってるなら、賛成だと私は思うけど・・。
一方で翔だけは、う〜んと頭に手を当てている。
それもそうだ。トライアの飼い主は翔。心配になるのも無理はない。




