海の村−2
上の階。
ルーシーが案内してくれた部屋は、2つのソファーが向き合って置かれた対談室のようだ。
「今、お茶を持ってくる」
「あぁ!ありがとう」
ルーシーが部屋を出て、1分後・・。
「2人がどんな会話してるか、聞いてきてもいい?」
キラナが突拍子もない提案をしてきた。
「私は気づかれないなら、いいと考えるが。コスモス様は、どうだ?」
えっ!でも、意外とズレてない提案かもしれない。
あの二人が何かを隠す可能性もありえる。そして、可能性も低いけど、あまり考えたくないこともある。
あの2人がカインと直接的に関係を持っている。
その可能性を払拭するためにも
「頼んだよ、キラナ」
行ってきてもらうしかない。
「は〜い」
元気よく返事をすると、部屋をゆっくりと出ていった。
キラナの視点からは、二人の姿は微妙に見えない。
でも、会話は鮮明に聴こえる。
「(ルーシーはまだ下にいるみたい。大体煮る時間と蒸らす時間で8分くらいかかるはずだったよね。聞けるのは、その間だけ)」
「話によれば。あの人達は、ルーシーを助けてくれたようだ。その対価の代わりとして、この村で調査をしたいらしい?」
「調査?何の調査だ?」
少しイライラしながら、父が質問をする。
「お前はカインについて知っているか?」
「ああ。もちろん、知っている」
父が落ち着いた声で応える。
「何か知っていることはあるか?元王宮の騎士だったなら、何か知っているかと思っただけだが」
「それなら・・少しカインと関係あるかは分からないが」
そう言うと、席を立った音がした。
「(こっちに来る?いや、足音からして、来なさそう)」
キラナが3分程待つと、再び会話が始まった。
「この本なら役に立つかもしれない」
「んっ!この本は?」
おじさんの大きな叫び声から、驚いていると考えられる。
キラナはそう判断した。
「この本だが、騎士を勤めていた時に図書館の持ち出し禁止の本を・・こっそり持ってしまったやつだ」
「なっ!それはかなりの大問題だ。けれども、それだけのことで、貴族が介入してくるはずがないはず」
「もし、これが原因だとすれば・・私が責任を持って、戦う必要がある」
父の言葉からは声だけでも、覚悟が伝わってくる。
(重要な書物ね。その内容次第じゃ、本当に・・)
「ちなみにだが。その内容は?持って帰ってきてるってことは、読んだはずだからな」
「・・ああ!内容だが・・」
少しの間があったが、父が落ち着いた口調で話し始める。
その説明も盗み聞きするはずだったが。
階段を登ってくる足音がしだした。
「(戻らないと)」
キラナは急ぎながらも、物音、足音を立てないように部屋へと戻った。
ドアがほとんど音がすることなく、開いた。
「どうだったの?キラナ」
戻ってきたキラナに早速問いかけてみた。
「話すのは後で。あと数秒でルーシーが戻ってきちゃうから」
焦りながらも、小声でそう言う。
本当にその3秒後くらいに、ルーシーがトレーにお茶を乗せて、部屋に入ってきた。
「はい、どうぞ」
ルーシーが丁寧に皆の前にお茶を並べていく。
「ありがとう」
「どうも。それで、気になったんだけど・・なんか私の話してた?」
聞かれてた?
どう誤魔化そう?
「してたな。具体的には、ルーシーの祖父と父親について・・だがな」
マリアナが落ち着いた口調で堂々と言った。
あっ!言っちゃうんだ。
「何の話?」
「いや。ただ、カインとどんな関係があるのか。みたいなことだ」
まぁ・・嘘ではないか。足りない部分はあるけど
「気になる?・・それもそっか!まぁ、もう少しで呼ばれると思うよ」
その後は、暇つぶしにキラナとルーシー、私と翔という組み合わせで雑談をして、呼び出しを待ち続ける。
その間、マリアナは一人で腕組みをして、考え事をしているようだ。
(とりあえず、どうにかして、キラナの報告を皆に共有したい。何か方法は・・あるな!とりあえす、キラナの電話を鳴らす)
部屋に電話の通知音とバイブ音が響く。
「あっ!電話だ・・ちょっと、出てくるね」
キラナがそう言い、部屋を出ようとしたが。
それをルーシーは止めた。
「待って!なら、トイレに案内するから、そこで話をしてきて」
ルーシーの発言的に、2人の話を聞かれるのはマズイのかな?
別に、ルーシー自身は関わりはないと思っていたし、本人もそう言ってたけど・・嘘?
「んっ!分かった!」
キラナが笑顔でそう返すと、2人で部屋を出ていった。
「ルーシーが数十秒でくらいで戻って来る。この間に言うが。腕輪にメールが来たら、見てくれ。報告を皆に送るように伝えた」
あの電話、マリアナが発信したんだ。
そして、キラナをルーシーから引き離すことで、共有するタイミングを作る。
ここまでの作戦を短時間で思いつくなんて・・多分私には、まだできそうにない。
その1分後、本当にメールが送られてきた。
ルーシーが目の前にいるから、さりげなく腕輪をいじろう。
そして、さらに5分が経った頃。
「お待たせしました。どうぞ、下に」
ついに、2人と話せる。
キラナが聞いた本の内容も明らかになる。
期待の気持ちもあるけど、不安の方が大きいかな?




