想定外
「『アクアカッター』」
マリアナが剣を振りあげる。
剣先から、水の波動が3つ発射された。
命中すると、3つの切り傷がつき、グオっと太い声を上げた。
グォォ!
大きな咆哮を上げ、拳を振り下ろしてきた。
「遅い!頼んだ、ヴァイス!」
「言われなくても!『サイクロン』」
ヴァイスが放った風の刃がその切り傷を貫く。
「弱い!俺達は舐められているのか?」
扉の前に立っていたモンスターをいとも簡単に倒れ込んだ。
「おそらく、ただの剣士レベルのやつが侵入したときの対策だろうな。弱いとはいえ、一般剣士からしたら、かなりの強敵だ」
「勝ったんだ。そんなこと、どうでもいい。それより、ここが出口だろう」
そのモンスターは扉の前を守っていたようだ。
「ようやく、出口か」
「早く出るぞ!」
二人は扉をゆっくり開けると、後ろにあった廊下が消え去った。
出口を出ると、そこは少し広めのロビーのようになっていた。
入る時最初に見た景色もダミーなのだろう。
今はもう、魔力が感じられないことから、そうだと二人は判断した。
「脱出完了だ!さて、時間稼ぎはここまでだ。2階に・・」
「ここにはもう私を除いて、誰もいない!もう逃げた後だ}
上の階から声が聞こえた。
階段を降りてきている足音がする。
「誰だ!」
「私はリヴィア。カイン様の部下だ」
その女性は、銀の鎧をまとい、長い髪をしている。
「リヴィア?マリアナ、誰か分かるか?」
「カインの右腕。剣士としての実力は、この星内2位の実力を持っている」
「1位は誰だ?まさか、カインか?」
ヴァイスはその経歴を聞いても、眉一つ動かすこと無く、リヴィアに剣を向けた。
「いいだろう。それと、様をつけろ!カイン様には!」
鋭い目つきで睨みつけてきた後、リヴィアは剣を構えた。
「誰が様をつけるか!マリアナ、ここも我に任せろ!」
お互いが同時に飛び出す。
ガキン、と剣がぶつかり合う。
「速いな!」
「貴様が遅いだけだ!『サンダーソード』」
「『ダークフレア』!」
ヴァイスは左手に炎を出すと、リヴィアに近づけた。
「(闇魔法。少しだけ厄介だ。油断は駄目だ)その程度か!はっ!」
リヴィアは睨みつけると、足をものすごい勢いで蹴り上げてきた。
「グガっ!ちっ!少し・・痛い、な!」
壁まで蹴り飛ばされてしまった反動を利用し、壁を蹴って、一気にスピードを上昇させる。
「考えたな!」
横目で睨みつけ、ヴァイスの動きを目で追っている。
「フンッ、遅いのはどっちだ!」
鼻を鳴らし、剣を胴体めがけて、剣をふるった。
「(私の部下と比べると遅くはない・・だが、私には)。まだ追える。カイン様と比べると、足元にすら及ばない!」
リヴィアはヴァイスの剣を受け止める。
ギリギリと音を鳴らしながら、剣を押し合っている。
「速さと力だけが我の取り柄ではない。(ここは、太陽光が入り込みにくい路地の家。あの魔法がうってつけの技だな)『ハイドオブ・シャドウ』」
影と一体化すると、リヴィアの後ろに回り込んだ。
「なるほど。(速さ、力、機動力・・確かに人並み以上はある。どれも、最高レベルには達してはいない。速さ、力は私が上回っている。勝機はある!)だが・・」
腕を後ろまで回すと、ヴァイスの剣を受け止めた。
「体、柔らかいな!そこだけは認めてやる!」
ヒッと笑っている。
ダンジョンでは誰も相手にすらならなかった。
だからこそ、ここまでの敵に出会えて、楽しそうにしている。と、まだまだ余裕な表情から感じられる。
「敵に認められても、嬉しくはない!」
激しく火花を散らし、2人の剣が再びぶつかり合う。
「褒めたつもりはない。何だ?嬉しいのか?」
ヴァイスが余裕の表情で煽りながら、剣を振り続ける。
「うるさい!」
その怒りの声と共にリヴィアは手の動きが上昇した。
どれだけ速いスピードでも、ヴァイスなら対応できる。だが、マリアナでは目で追うのがやっとのスピードだ。
「やるな!我を楽しませろ!」
「楽しめるといいな!」
マリアナが助太刀に入る隙が見当たらない。入ったところで、ヴァイスの邪魔になる。スピードが足りないことは、マリアナ自身も理解している。
「なら・・『実像分身』!」
マリアナの秘技の一つであり、自分のコピーを生み出せる。
コピー体は、強さも同じであり、会話も別で可能という使い方が万能な技である。
「高圧の水は鉄をも貫く、『アクアブレイク』」
『アクアブレイク』は、限界まで圧縮した水の玉をぶつけ、発散させる中級相当の魔法。
「痛っ!」
飛び散った水がリヴィアの体の表面を削りとる。
「協力はいらないって、言ったはずだぞ!」
「別にそれに了承した覚えはない」
ヴァイスがそう言ってくるのは、マリアナ自身も分かってはいた。
だが、彼女のプライド的に戦闘に参加しないわけにはいかない。
「別に何人来てもいい。人数が増えたところで、私には勝てない!」
その言動を裏付けるかのように、傷を負いながらも2人分の剣を避け、受け止めを繰り返す。
「あまり慢心も無理もしない方がいい!我らに負けたくなければな。その傷は、絶対にあとに響く」
「慢心か・・フフッ、これは確信だ。私が負けるなんてことはない!」
確かに、リヴィアは強い。それは、ヴァイスもマリアナも認めてはいる。
だとしても、今の言葉は強がりにしか、見えなかった。
「我に勝てる策があるのか?」
「ある!『フラッシュ』」
激しい光の点滅が繰り返される。
「確かに、ありな作戦ではある。視界を塞ぎ、不意打ちを狙う。だが、こんな目くらまし如き、我には効かない!『感知』」
感知は相手の魔力に反応できる。探知に使われる魔法。
これでどれだけ、動き回られたとしても、相手を逃すことはない。
・・とヴァイスは思っていたが。
「たかが感知で私の 攻撃を見破れる訳が無いだろう!」
「何!(反応はない。魔法なしで向かってくるつもりか)・・後ろ!」
音だけで相手の動きを察知しようと耳に集中を注いだ。
風を切る音が周囲に広がっている。
「そこだな!」
後ろに剣を突き刺した。
だが・・。
「残念だな!」
ほんの少し角度の判断を誤ってしまった。
剣がリヴィアの髪に当たり、数本の髪が宙を舞う。
「ヴァイス!」
マリアナはリヴィアの攻撃を受け止めようと、分身と共に割り込もうとした。
「フッ!マリアナ、助太刀の必要は無さそうだ。我がこの戦闘を続ける必要も」
その瞬間、この場の空気が変わったのが、全員が感づいた。
「えっ!」
マリアナは後ろから別の人の気配がするのを感じた。
振り返ってみると、ワープが開いていた。
「フゥ!逃げ切り成功だ!」
ワープからヒョイッと姿を表したのはコスモスだった。
そして、続けて、翔も出てきた。
「誰だ?こいつは?」
見知らぬ女性が怖気づいている。
んっ?誰?
そもそも、ここはどこ?
「今、どういう状況?」
なんとなくは分かるけど。
多分、作戦中で少し・・ピンチかな?
「コスモス様!彼女は敵。私では勝てる可能性は低い敵だ」
なるほど。
ヴァイスもいることから考えると・・
ヴァイスと同レベルか、それより少し上の強さの敵って、認識で間違いはない。
「分かった。私が相手をする」
「コスモス。空間魔法をまだ使いこなせていないのに、勝てる訳が・・」
ヴァイスは必死な顔でそう言ってくれているけど
「大丈夫。それに、もう分かったから、空間魔法について・・」