キラナのやり方
時計を確認すると、一時間も歴史館内にいたようだ。
「楽しかった!色んな物も見れたし」
「それは良かったです!それじゃあ、私はここで」
ノエルがお辞儀をすると、ゆっくりと歩いて去っていった。
「ねぇ、コスモスさん。彼女、少しだけ違和感があったんだけど」
キラナにしては、真面目な表情。
「どうしたの?何か、ノエルに問題でもあった?」
「う〜ん。分かんないけど、彼女の思考があまり読めない」
「えっと〜、どういうこと?」
読めないってことは、あまり考えてることが少ないってこと?
それとも・・いや、それしかないよね。
「その可能性もあると思う。それか、精神不可視を持っているか・・かな」
「精神不可視!・・って何?」
「精神不可視っていうのは、精神攻撃耐性の一種で。心に干渉されることを防ぐんだよ。例えば、洗脳とか私の読心術も効かなくなるんだよ」
(読心術が効かない!)
それは敵にいると厄介だ。もし、私も身につけられたら、強みになるけど。
キラナ以外にも精神関連の魔法を使用する奴は絶対にいるだろうしね。
「じゃあ、キラナでも、行動を予測することはできないの?」
「完璧にはね。読心術自体を勉強していた時期もあるから、ある程度、表情や手の動きから分からなくはないけど。合ってるかは分からない。フェイントかもしれないし」
確かに・・これはまだまだ私も強くならないと。
それに、マリアナの言う通りなら、敵は宇宙全体にいる。それに私も対抗できるようにならないと。
考えれば考えるほど、不安が込み上げてくる。
「対抗っていうか、コスモスさんなら圧倒的になれる。って、マリアナさんが言ってたよ」
まぁ、この空間魔法をマスターできれば、確かに圧倒的になれるかもしれない。
「そうかも。でも、今のままじゃ、負けるのは目に見えてる」
「まぁ、使っていれば、慣れてくるよ」
だと、いいんだけど。
その後、他愛のない話をしながら、歩いていると。
キラナのスマホから音が鳴り出した。
「あっ!マリアナさんから電話だ。はい!」
キラナが私にも聞こえるようにと気を利かして、スピーカーにしてくれた。
電話からマリアナの相変わらずの落ち着いたボイスが響いてくる。
「今。トライアがターゲットのリーダーらしき人物を捉えた・・頼めるか」
頼めるか?・・することといえば、尋問かな?
それしか思いつかない。
「いいよ」
「なら、今から10秒後にワープを開く・・いや、腕輪で帰ってきたほうが早いな。それで頼む」
「は〜い」
キラナが元気よく返事をしている。
「キラナも腕輪持ってるの?」
「うん!自分自身だけだったら、短距離ワープは可能だよ」
「へぇ〜」
本当に宇宙では便利な技術が発達してるんだ。
もう、驚くこともないと思っていたけど。未だに驚くことが無くならない。
「じゃあ、戻るよ。ワープ機能から、宇宙船を選択すればいいだけ」
「わ、分かった」
さっき、基本の操作方法は理解したから・・あった!
ボタンを押した瞬間。
「ふぅ!戻れた!」
キラナが背伸びをして、そう言っている。
目の前が宇宙船になっている。
薄々分かっていたけど、ワープの感覚って、体感できないほど早い。
キラナは慣れているみたいだけど。
「戻ってきたな。コスモス様にキラナ」
「おかえり!コスモス。窓から見ていたけど、かなりきれいな街だな」
「翔様も必ず行くことにはなるから、いくらでも観光はできる。それでだ。コスモス様たちは何か情報はあったか?」
歴史館・・内戦時代・・停戦書。役立つかな?
「まぁ、歴史館で見てきたことで手がかりになりそうなものは合ったよね」
「それは良かった。その話は、後で聞かせてもらう。キラナ、こっちだ」
「わかった!」
「コスモス様と翔様は、あまり見ないほうが良い・・かもしれない」
えっ!なんで?
「俺は、見るぞ」
翔はそう潔く言い、キラナの後ろをついて行った。
「なら、私も」
この中で見に行かない選択肢は流石に取れない。
でも、何で止められたんだろう。
その答えはすぐに分かるだろうけど。何があっても、後悔はしない。
マリアナたちと一緒に練習場と同じ階まで、階段を下った。
「こっちにある」
この階の探索はあまりしてなかったよね。
私達は、その階の左隅まで歩いた。
「ここだ。私達は右の部屋に入る」
多分、右が観察側で、左は実際に取り調べをする側だろう。
警察署の社会科見学で説明を受けた気がする。
「もう一度聞くが良いのか、コスモス様」
こんなに念を押すなんて、一体何が・・?
「そこまでして、私に見せたくないものって・・」
私は思い切って、尋ねてみることにした。
幸い、キラナと翔は中にはいったみたい、声は届かないはず
「はぁ〜、話してもいいか。分かった、話す。実は、キラナは拷問が得意なんだ。それも・・楽しんでやっているようだ」
「うん・・えっ」
声は抑えたが、それでも中々の大きな声が出てしまった。
「無理もない。あの可愛らしい見た目や言動からは、とても想像はできない」
「・・うん」
マリアナの言ってることは疑いたくはない。
「私も詳しくは知らないが、彼女が育った環境がそうさせたらしい」
「キラナに聞いてみたりしなかったの?」
「聞いてみたところ、唯一言ってくれたのが、『師匠の教えだから』。それ以上は何も教えてくれなかった」
師匠?どんな人物だろう。
そんな事を考えていたら。
マリアナの柔らかい手が私の肩に触れた。
「コスモス様、今考えても、答えは得られない。そんなことより、本当にコスモス様は見なくてもいい。わかったことは全員で共有する」
簡潔に言うと、これから酷いものを見ることになる。って事だろう。
見たくはない。
でも、それ以上に、キラナの狂気的な面を見た後、ちゃんと接することができるのか。そんな不安が込み上げてくる。
手から汗がにじみ出てきた。
でも、これから宇宙を旅する限り、戦闘をすることは避けられない。そこで必ず酷いものは見ることになる。
キラナと共闘する機会は絶対にある。
だとしたら、取るべき選択肢は。
「大丈夫。見る覚悟はできてる」
私は迷いを振り切って言い切った
「分かった。入るぞ」
マリアナの表情が少し和らいだ気がする。