表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/40

第8話 私、本当はあんたのことが――

 翌日の木曜日。

 岸本和樹(きしもと/かずき)は学校にいた。


 和樹は今、席に座っており、先ほど朝のHRが終わった事も相まって教室内が次第に騒がしくなってきていた。

 いつも通りの光景である。


 和樹は席に座りながら、窓から見える景色を眺めていた。

 昨日は妹の咲に、現在付き合っている玲奈の事について話しておいたのだ。

 妹はどうしても玲奈の事について知りたいと話しかけてきたからである。


 妹は他人の恋愛話を聞くのが何気に好きだったようで、じっくりと頷きながら聞いていたのだ。

 和樹は窓からの景色を見、その事について振り返っていたのである。


 ただ、玲奈のおっぱいがデカいとか、エッチなビデオが好きだとか、そういう如何わしい情報は何も伝えていなかった。


 さすがに胸の大きさで付き合ったとか変な誤解を与えかねないからだ。


 話を聞き終えるなり、咲は、お兄ちゃんに彼女が出来て良かったじゃんと言っていた。

 妹が喜んでくれる顔を見れてよかったと思う。




「というかさ、次の授業移動教室じゃね」


 とあるクラスの陽キャ男子が自然な形で仲間らに話題を振る。


「ああ、確かに。そろそろ移動しないとな。えっと、次の授業って何すんだろうな」


 椅子に座っていた陽キャ男子の一人が、机の中を確認しながら返事を返していた。


「さあ、多分だけど、ビデオ見て、その感想を書くだけじゃなかった?」

「そう言えば、前回の授業終わりにそんな事を言ってたな」


 陽キャらは話しながら、机の中から筆記用具とノートを取り出して教室を後にしていく。


 気が付けば、稲葉玲奈(いなば/れな)は他の友達と共に、楽しそうに雑談しながら教室を出て行ったのである。

 和樹と玲奈が付き合っている事については、殆どのクラスメイトは知らないと思う。

 ただクラスメイトの亜優は知っており、侮れないと思い、席に座りながら彼女の動向を見やる。

 がしかし、今日の亜優は昨日の一件があってから、和樹に対しては何も話しかけてこなかったのだ。

 廊下で転び、醜態を晒してしまったことが要因だろう。


 和樹が一人で廊下を出た時、別クラスの中原梨花が佇んでいた。

 和樹の存在に気づくなり、彼女はムスッとした顔つきで近づいてくる。


「あのさ、昨日はよくも見せつけてきたわね」


 彼女は怖い形相で、和樹の事を目の敵にしていたのだ。


「でも、それは梨花が悪いんだろ」

「んッ、そ、そうかもだけど。何も察しの悪いあんたも悪いんだからね!」


 梨花はグッと距離を詰めてきて和樹に威圧をかけてくる。

 すると、廊下にいた数人が、二人の存在を気にかけ始めるのだ。


「ちょっと、あんたさ、別のところに行くわよ」

「え?」

「え、じゃなくて」


 梨花から強引に手首を掴まれ、誰もいないところまで移動する事になった。


「ねえ、あんたは私のこと、嫌い?」

「嫌いっていうか。まあ、そうだけど」

「……」


 梨花は頬を紅潮させ始めている。

 睨みながらも、口元を震わせていたのだ。


「そ、そうよね。じゃあ、謝るから」

「なんで急に?」

「なんでって、あんたに嫌われていたら後々困るから……」

「え? なぜ? 梨花だって俺の事が嫌いなんだし、別に和解する必要もないと思うけど。なんか理由でもあるの?」

「あ、あるわよ。あるから言ってるの!」

「どんな?」

「そ、それは、その……」


 突然、梨花の活舌が悪くなってきていたのだ。

 彼女は疚しさが残る表情をしながら咳払いをしていた。


「いいから、そういう事なの!」

「いてッ」


 なぜか、梨花から足を踏まれてしまったのだ。


「何すんだよ」


 和樹は咄嗟に言い返す。


「そもそも、あんたが理解してない方が悪いんだから」

「さっきからそればかりだよね。全然、わからないんだけど」


 和樹が足を痛そうにしていると、少しだけ彼女の表情が心配そうな感じになる。

 けれど、すぐにいつも通りの顔つきに戻り、不満そうに腕組をしていた。

 偉そうな態度で、頑張って見下している目をしていたのだ。


「梨花は、俺の事が好きじゃないんだろ」

「そ、そうよ。好きじゃないわ」


 梨花ははき捨てるように言い放つ。


「だったら、もうこの話は終わりでいいだろ。俺も時間はないんだ。次は移動教室で急がないといけないし」


 和樹が歩き始めようとした時だった――


「待ってって」


 梨花が通せん坊するように立ち塞がる。


「なに?」

「私と、付き合って」

「……え、なんて」


 何を言われたのか一瞬戸惑い、和樹は聞き返す。


「だから、私ともう一度付き合わないかってこと」

「……で、でもさ、そっちから振ったじゃないか。罰ゲームの一環って言って」

「それは嘘だから」


 彼女はさらに意味不明な事を言いだし始めたのだ。


「は? いや、よくわからないんだけど」

「だ、だから、本当は好きだったの」


 梨花は顔を真っ赤にしながら、恥ずかし気に声を小さくして、和樹にだけ聞こえる声で伝えてくるのだ。


「罰ゲームの一環じゃなくて?」

「あ、当たり前じゃない」

「でもさ、それ信じられないんだけど」


 和樹はジト目で彼女の姿を全体的に満遍なく見渡すのだ。


「だから、本当は好きだったの」

「えー、そういって裏切ったじゃんか」

「それは、私にも色々あるの! 信じてよ」

「んー、それは無理かな」

「私、なんでもするよ。何したらいい?」

「いいよ。俺、本当に時間がないから」


 和樹はしょうもないと思い、呆れがちにため息をはいて強制的に話を終わらせる。その場から駆け足で離脱する事にしたのだ。


 あれ以上、話を続けても何も得られるモノもないと思う。


 あれはあれでよかったと、和樹は思って廊下を歩いていたのだ。


 背後からは梨花の声が聞こえていたのだが、何も気にしないようにした。


 和樹が移動教室先に到着した頃には皆が席に座っており、皆は近くの人らと雑談をしていたのだ。


 和樹は空いている席を見つけ、一人で座る。


「少し遅れてしまったけど、今から授業を始めるから」


 授業開始を告げるチャイムが鳴ってから一分後に担当の先生がやってくる。


「今日は前回言っていた歴史のビデオを見るから。授業終わりに、四〇〇字程度の感想文を書いて提出するように。今の授業中に書き終わらない場合は、先生に報告しに来るようにな」


 そう言って、先生は教室の前に巨大スクリーンを用意し、ビデオの機械を操作して、それに映像を出現させるのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ