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第6話 それ、私への当てつけのつもり?

 岸本和樹(きしもと/かずき)は、現在進行形で付き合っている玲奈とカラオケ店にいる。

 その個室で歌いたい曲を交互に選曲し、歌っていたのだ。


 この頃、嫌なことが多く、ストレスもあったのだが、声を出した事で気分的にも良くなってきていた。


「岸本さんって、歌上手い方だよね?」

「たまに口ずさむ程度で、そこまで上手かな?」

「上手だよ、自信は持った方がいいよ。それと気分はどう?」


 ソファに座っている稲葉玲奈(いなば/れな)から問われていた。


「いい感じだよ、何か、すっきりした感じ」


 和樹は思いっきり歌い切った後、体から力を抜くようにソファに座る。

 室内に響き渡るBGMを聴きながら軽く深呼吸をしていた。


「それだったらいいんだけどね」


 玲奈は手にしていたマイクをテーブルに置いていた。

 すると、彼女が近づいてきたのだ。


「近い距離でいると安心しない? 私ね、信頼している人と一緒にいると、心が安らぐの。岸本さんも、それってわかる?」

「そ、そうだね。確かに。誰かと一緒にいると安心するよね」


 玲奈との距離が近い。

 和樹からしたら、安心するというよりも緊張の方が増してくる感じだ。


「ねえ、岸本さんって、いつになったら恋人らしい事をしてくれるのかな?」

「それはもう少し先かもね」


 玲奈から耳元で囁かれ、ドキッとする。

 まだ刺激が強すぎると感じてしまう。


 恋人が出来た事に関しては嬉しいのだが、奥手なところがある和樹からしたら、エッチな誘いをしてくる彼女への免疫力が限りなく低かったのである。


「ねえ、岸本さん」

「な、なに?」


 玲奈から耳元で誘惑するように言われる。

 彼女の言葉一つ一つが心へと浸透していくようだった。


「私のおっぱいのサイズって、どれくらいだと思う?」


 玲奈から意味深な質問をされる。

 二人きりの状況になってから二〇分ほど経過したが、みるみる内に彼女は本心を見せ始め、学校にいる時とは異なり、妖艶な印象が強くなり始めていた。


「さ、さあ」


 和樹は具体的な発言を避けようとしていた。


「でも、気になるんじゃない?」

「ま、まあ、一応は……」

「へえ、やっぱり、興味があるのね。じゃあ、どれくらいだと思う?」

「そ、それは……」


 和樹は隣にいる彼女の方をチラッと横目で見やる。


「……」


 返答しづらい内容に、和樹は口元を震わせ、言葉を濁らせていた。


「えっと……G以上とか」

「んー、少し違うかな。もう少しあるかも」

「え? もう少し?」

「ええ」


 和樹は右隣にいる彼女の胸元をまじまじと見てしまう。


「やっぱ気になるよね? というか、思いっきり歌った後だと、ちょっと暑いし」


 そう言って、玲奈は制服を脱ぎ始めた。


 制服を脱ぐと、下着が露わになる。

 ブラジャーからはみ出そうなほどの大きさ。

 谷間も普通に見えており、密室という事も相まって、さっきから興奮が収まる事が無かったのだ。


「私、結構あるんだよね」


 玲奈はその豊満な胸を両手で下から押し上げるように揉んでいた。


 玲奈はエッチだと思う。

 如何わしいビデオを見ていると言っていたが、彼女からの好意は非常に過激すぎる。

 反応に困るというのもあるのだが、先ほどからブラジャー越しに胸が押し当っているのだ。

 胸から伝わってくる圧力は強く、彼女の胸ばかりに意識がいってしまう。


 Gカップじゃなかったら、どれくらいあるんだよ。


 見れば見るほどに、そのおっぱいは片手に収まりそうな大きさではなく、両手で何とか触れそうなほどのサイズ。

 しかもそれが二つもあるのだ。

 その双丘により、和樹の右腕は挟み込まれていた。


「私のどうかな?」

「い、いいと思うよ」

「どういう風にかな? あとね、私のおっぱい、Kくらいあるんだけど」

「⁉」


 Kだと――

 和樹の体に衝撃が走った。


「もしかして見たくなっちゃったとか? 見たいなら見てもいいよ。私たち付き合ってるもんね」


 玲奈からの誘惑は収まる事は無く、むしろ先ほどよりも積極さを増していると思う。


「で、でも、ここでそういう事はしない方がいいと思うけど」

「えー、岸本さんはおっぱいが嫌い?」

「そうじゃないけど」

「恥ずかしい?」


 彼女から質問攻めにされ、言葉選びに迷う。

 和樹の表情はみるみる内に紅潮し始めてきたのだった。


「お、俺さ。ちょっと暑くなってきたし。廊下に出ようかな。そう言えば、稲葉さんはジュースっている? 一応ドリンクバー付きだから飲まないと損だろうし」


 和樹は手にしていたマイクをテーブルに置き、その場に立ち上がる。


「そうね。じゃあ、私も一緒に行くよ」


 玲奈は、一旦和樹から離れると制服を着て身だしなみを整えていた。


「これで大丈夫ね。行きましょ」


 彼女も和樹同様に立ち上がり、和樹の腕に抱きついてきたのだ。


 やっぱ、こういうのは慣れないな……。


 嬉しいシチュエーションではあるが、和樹の頬は赤く染まる。

 二人はカップルのような形でカラオケの個室を後にするのだった。




 廊下を移動し、ドリンクバーが設置された場所に到着すると、和樹はガラス製のコップを片手に注ぎ始める。


「稲葉さん、ちょっと距離が近いから。注ぎづらいんだけど」

「えー、でも誰も見てないんだし、いいじゃん」


 彼女は和樹と恋人のような態勢でいる事が好きらしい。

 全然離れてくれないのだ。


 すると、他のお客もドリンクを注ぐためにやってくる。


「え?」

「ん?」


 そこに現れたのは、中原梨花だった。

 一番会いたくない存在であり、驚く梨花を前に、和樹は言葉を詰まらせていた。


「な、なんで、こんなところにいるのよ。そもそも、なに、そ、それは!」


 梨花は二人の事を睨みつけてくる。


「ねえ、岸本さん、これはチャンスよ」


 玲奈は和樹の耳元でこっそりと呟く。


「どういうこと?」

「だから、約束したじゃない。あの子の前で恋人らしい事をするって」


 梨花に対して、イチャイチャしているところを見せるという反撃の仕方である。


 和樹は物凄く恥ずかしかったが、確かにこれは見せつけるチャンスだと思い、玲奈の頭を撫でたりして、付き合っているというアピールをして見せたのだ。


 梨花は目を点にしていたが、現状に嫌気が指し始めているのか、みるみる内に頬を真っ赤にして二人の事を睨んでいた。


「な、何よ、それ。私への当てつけ? 本当に嫌なんだけど。というか、人がいるところで、そんな行為をするとか……」


 梨花は何かを言いたげそうな唇の動かし方をしていたが、ふんッといった感じに機嫌の悪い態度を見せて背を向ける。彼女はコップに何も注ぐ事無く立ち去って行ったのであった。


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