第14話 あの時の事は謝るから、私ともう一回始めようよ
「あのさ、待ってよ。まだ話は終わってないわ」
「もう終わっただろ。俺、こんなところで面倒な話はしたくないんだ」
岸本和樹は掴まれている手を離そうとするが、梨花の方はなかなか離してくれなかった。
「私、本気なの。だから、私の目を見て」
「……本気? そんなのわからないけど」
「もう、なんでよ!」
中原梨花は頬を膨らませ、ムスッとした顔をしており、和樹の事を睨んでいた。
「俺、今から注文してこないといけないからさ」
「注文? じゃあ、私が奢ってあげるよ。何を注文するの?」
「……グラタンだけど」
「じゃ、奢ってあげるわ。確か八〇〇円くらいだったわよね?」
「そうだけど。いいよ」
「どうして? 私、なんでもするよ。和樹の為なら何でもするし。だから、あのことは許して、ね」
梨花から可愛らしく言われるが、和樹に対しては逆効果なのだ。
和樹は、そんな彼女の対応に引き気味な顔を浮かべていた。
「私、本当は和樹の事が好きだったの。あのゲームも仲間内で嫌々やってて、それで負けて。仕方なく罰ゲームの一環で告白したの。信じてよ」
彼女は目を潤ませながら、和樹に目で訴えかけてくる。
「俺はこの前も言ったけど、もう付き合う気はないんだ」
「私の話を聞いてよ。友達からのゲームの誘いを断れなかったの」
「じゃあ、断れなかった君の責任なんじゃないか?」
「そ、そうかもしれないけど……でも、本気で和樹の事は好きだったし。私が学校内でのミスコンでトラブルになっちゃった時、和樹は私のことを助けてくれたでしょ。アレが本当に嬉しかったの。あの時は、私、本当の事が言えなくて、和樹には伝わりづらかったと思うけど」
梨花は必死に訴えかけてきていた。
「あの時の事を覚えてるでしょ。去年、高校でのミスコン。私が本来履くために用意していた靴がなくなって。和樹も一緒に探してくれたじゃない。あの時の事は今でも思えてるんだからね」
「……じゃあ、どうして気持ちを抉るように俺の事を振ったんだよ」
和樹は彼女の言葉を聞いて、過去の事を振り返る。
「だから……友達との」
「だったら、その友達と縁を切ればいいんじゃないか?」
過去を振り返ったとしても和樹の感情は変わる事無く、和樹は真剣な顔つきで、最も真っ当な意見を彼女にぶつけたのだ。
「断れなかったの……いつも一緒に遊んでいる仲だしさ。彼女らから助けて貰う事もあったりするし。それに昔からの友達だから……」
梨花にも色々な悩みが付きまとっているのだろう。
けれど、そんな私情を聞いたところで、和樹の気持ちは変わる事はなかった。
和樹は彼女に無表情な視線を向け始めていたのだ。
「そういうのよくないよ」
「ねえ、もう一度考え直してくれない?」
梨花は懇願していた。
彼女の声に反応するように、先ほどから店内にいるお客らが、二人の方をチラチラと見ているのだ。
「……無理だな。俺は別の子と付き合っているし。今さら寄りを戻すとかないから」
和樹は突っぱねる。
あまり大事になる前に、彼女とは距離を置きたかった。
「何よ。なんで私ばかり……私の気持ちは本当だったのに……」
彼女はムッとした顔つきになり、地団太を踏んでいた。
「君がよくない友達と関わらずに、ゲームとかじゃなくてさ。普通の関係で付き合っていたなら、結果は違ってたかもしれないけどね。もう遅いから。俺、これ以上、君とは関われないし。俺、行くから。時間ないし」
和樹は彼女の手を強引に振りきった。
「待って」
「……」
和樹は背を向けたまま何も言い返す事はしなかった。
「だから、待ってって。私の気持ちは本当だったんだからッ!」
現状を打破できなさ過ぎて、しまいには梨花が大声を出す。
店内にいたお客らが、痴話喧嘩かとか、カップルの喧嘩かとか、色々な憶測が入り混じった発言をし始めていたのだ。
「お客様、どうかなされましたか?」
「な、なんでもないからッ」
心配そうに歩み寄って来た女性店員を前に、梨花は腕で振り切ろうとする。
「ど、どうなされたんですか?」
「本当になんでもないから。私たちの話だから気にしないで!」
梨花は頑なに店員からの問いかけを蔑ろにしていた。
「私たちの話という事は、そちらの方と知り合いで?」
女性店員の視線が、和樹へと向けられる。
「い、いいえ、なんでもないです。関係ないですから」
和樹はジェスチャーを交え、彼女とは知り合いではないと必死に訴えていた。
「でしたら、こちらの方が一人で騒いでいたという事でしょうか?」
「は、はい。そうなんです。俺、困ってまして」
和樹は被害者ぶる事にした。
「そうですか。わかりました」
女性店員は和樹の言葉を理解した後、目をキリッとさせ、梨花の方を向く。
「他のお客様のご迷惑になります。これ以上店内のサービスを受ける事は出来ませんので退出していただきます」
「え? なに? なんで?」
「それが店内のルールですから」
他の店員も数人ほど混じり、梨花は店内の入り口へと移動させられていた。
「梨花。いつになったら戻ってくるのよ」
店内が騒がしくなり、梨花の友人である、金髪セミロングが特徴的な千沙がやって来た。
梨花は、その子と一緒に店内に訪れていたらしい。
「梨花? なに? どうなってるの? 出禁って、どういうこと?」
千沙も現状を理解できないまま、他の店員から押し出され、強制退去させられる事となったのだ。
和樹は静かになった店内でグラタンを注文する。
そこで会計を済ませると、再び玲奈がいる席に戻るのだった。
「何か、お店の入り口が物凄く騒がしかったけど、何かあった?」
「いや、何もないよ。ただのDQNみたいな人らがやって来て、店員らと口論になっていただけさ」
和樹は何も知らない体で、彼女に事の経緯を伝えた。
若干内容は異なるものの、DQNみたいな奴がいたのは事実であり、そこに関しては嘘ではない。
和樹は彼女と共に食事を続ける。
和樹がコーヒーを飲み、玲奈と楽しく会話している最中、温かい状態で注文したグラタンがテーブル席まで届く。
「ごゆっくりどうぞ」
女性店員が愛想よく言い、店員は立ち去って行く。
さっきの出来事がなかったかのように、今の店内は平和的だった。




