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103話

「―――――そうやって私は、この時間にやってきました」


 ゴクッと唾をのんだ。

 叶耶は相変わらず真剣な目つきでまっすぐ俺を見つめてくる。


「私はこの時間にきて、すぐに星華学園に入学しました。そして、志藤さんを探しました。ようやく志藤さんを見つけたと思ったら、今度は昂輝くんが転校してきました。その後は、昂輝くんと志藤さんのことをずっと観察していました」


「でも、俺は志藤さんのこと――――」


「はい、昂輝くんと志藤さんは恋人になりそうにありませんでした。それに、その頃にはもう、私が昂輝くんのことを好きになっていましたから」


 叶耶が儚げに笑った。

 ただすぐにその表情は真剣なものに戻り、言葉を続ける。


「だから、私はもう一つの方法を採ることに決めました。昂輝くん、お祭りの日に私が飲ませた薬のことを覚えていますか?」


「あ、うん、叶耶が万能薬だって飲ませてくれたやつだよね?」


 叶耶はこくりと首を縦に振る。


「はい。あのとき、私があの薬を飲ませなければ、昂輝くんは死んでいたと思います」


「えっ⁈」


「本当はもっと後になってあの症状が現れる予定だったんですけど、おそらく私が昂輝くんとお祭りに行ったことで未来が変わってしまったようです。なので、あのときは本当に焦りました。でも、ちゃんと薬は持って来ていたので、それを昂輝くんに飲んでもらいました」


「叶耶はつまり、俺の命を救ってくれたってこと?」


「事実として言えばそうですけど、そんな重い言い方はしないでください。私はただ大好きな人を死なせたくなかっただけです。でも、私が昂輝くんに薬を飲ませたことで、また予想外のことが起こりました」


「……予想外のこと?」


 俺は怪訝な表情を浮かべた。


「さきほど私がこの時間にいられるタイムリミットについてお話したことは覚えていますか?」


「うん、ずっとはいられない……って、ちょっと待って、ということはお祭りのときに叶耶が言っていた遠い場所って……」


「……はい。それは私の生まれた時間、――――つまり未来です」


「……」


 思わず言葉を失った。

 あのとき、叶耶の言う場所が本当にあるのだろうかと疑った。しかし、未来であれば、こちらから行くことも連絡することもできない。


 ――――本当に彼女とは二度と会えなくなる。


 足の力が抜け、俺はその場にへたり込んでしまった。

 しかし、彼女の言葉はまだ続いている。


「先ほど話したこの時間にいられるタイムリミットですが、当初の予定では来年の十月、十一月ぐらいまで私はこの時間にいられることになっていました。しかし、昂輝くんにあの薬を飲ませたことでそれも変わりました。私、最近になって時空の狭間に飛ばされるようになっているんです」


 時空の狭間。

 叶耶の話では、異質な存在である未来人を排除するための場所となっていた。


「初めて飛ばされたのは、一か月ぐらい前のことです。次は、数日前の昼休み。ちょうど昂輝くんとお昼の約束をしていた日です。それに、ついさっきも私は時空の狭間に飛ばされていました」


「今日、俺の隣からいきなり姿を消したのは、その時空の狭間のせいってことなんだね……」


「はい。そして、この時空の狭間に飛ばされるようになったことがなにより、タイムリミットの差し迫っていることを示しています」


「……か、叶耶の残り時間はあとどれくらいなの?」


 おそるおそる尋ねる。

 そのとき、叶耶の顔に影が差した。


「……あともって五日。クリスマスの日が最後だと思います」


「――っっ⁈」


 心の中で何かが一気に崩れる音がした。


 あとたったの五日。

 それが過ぎれば彼女と二度と会うことはできなくなる。

 その悪夢が一気に現実味を帯びてきた。


「以上でお話しすることは全てです。……本当はもっと早くに伝えるべきでした。ですが、私はこの楽しい時間がずっと続いてほしいと思ってしまいました。現実から目を背けました。私のわがままで昂輝くんを振り回してしまって、本当にすみません」


 叶耶が深く頭を下げた。

 しかし、俺はもう何も考えることができなかった。


「……」

「……」


 二人して俯き、その場を沈黙が支配する。


 校舎の外では雨が相変わらず降り続いていた。

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