102話
あれから七年が経った。
今日はいよいよ過去にとぶ日だ。
叶耶はおばあちゃんに教わった魔法陣を中庭に描いていく。
今から自分は過去にとぶ。
過去についたらおばあちゃんのお兄さんを救わなければならない。
彼を救う方法については、事前に聞いていた。
一つは、彼と志藤さんという女性を恋人同士にさせ、彼女にある魔導を使わせること。
もう一つは、おばあちゃんが作った魔導薬を彼に飲ませること。
おばあちゃんはできるだけ前者の方法を行うよう言っていた。
それと、過去に行って気を付けなければならないことが二つある。
おばあちゃんが言うところ、過去にとんでいる間、術者はずっと魔導を行使している状態になるのだという。そのため、こっちの時間に戻ってくるためには魔導を解呪しなければならないらしい。
しかし、この魔導には術者自身で解呪する方法が用意されていない。つまり、こっちの時間に戻ってくるには、過去において他の魔導師に解呪してもらわなければならない。それが向こうで気を付けること一つ目だ。
もう一つは、過去に行ける時間にはタイムリミットがあるということ。
向こうの時間からしたら、こっちの時間を生きる自分は完全に異質な存在にあたる。そんな異質な存在を世界が排除しようとしてくるらしい。
そして、世界から排除された者が行き着く先が時空の狭間という場所だという。その場所は、光も音もなく、ただ無が広がる世界だと言っていた。
タイムリミットを過ぎれば時空の狭間から戻ってこられなくなる。だから、必ずそれまでに解呪してもらわなければならないと念を押された。
以上のような危険性は有しているが、だからこそ過去に行くことが出来るという前代未聞の魔導であるにもかかわらず、そこまで世間で注目されることがなかったのであろうと、今なら推察できる。
複雑な模様だったため、魔法陣を書き終えるのに一時間以上かかった。
「おばあちゃん、できましたよ」
叶耶は縁側に座っていたおばあちゃんの方へ振り返る。
おばあちゃんは草履を履き、こちらに近づいてきた。そして、そっと自分の頭の上に手を置いてくれる。
高校生になる今だとちょっと恥ずかしいけれど、やっぱりこうして撫でてもらうと心が温かくなる。
おばあちゃんは、自分の頭に手を置いたまま、口を開く。
「ごめんねぇ、こんなことを叶耶ちゃんに頼んで」
叶耶はゆっくりと首を振る。
「大丈夫ですよ。私はこうやって、おばあちゃんのお役に立てるのが嬉しいですから」
「……ありがとう。どうか、にいのことをお願いね……」
「はい、任せて下さい。おばあちゃん」
叶耶は幼い頃から変わらないあどけない笑みを浮かべる。
そして、おばあちゃんから離れ、先ほど自分で描いた魔法陣の中心へと移動し、
「【接続】――――」
最初の言葉を口にした。




