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101話

 叶耶の両親は共働きで、大抵は朝から晩まで働いていた。そのため、両親は、彼女を頻繁に母方の祖母に預けていた。

 そうした理由から、自分はおばあちゃんと過ごす時間が昔から長かった。

 両親と一緒にいられる時間は多くなかったが、寂しいという感情はあまりなかった。

 おばあちゃんは一緒にご飯を食べてくれた。おばあちゃんは一緒に遊んでくれた。


 ――――そして、おばあちゃんは自分に魔導を教えてくれた。


 おばあちゃんの家系は代々魔導師だったらしく、魔導を使うのがすごく上手だった。

 自分もそんなおばあちゃんに憧れて、たくさんの魔導を教えてもらった。

 いつも優しいおばあちゃんが大好きだった。

 しかし、叶耶はあるとき、おばあちゃんが居間で悲しそうに写真を見ていた様子を目にした。

 様子が気になった叶耶はどうしてそんな顔をしているのか尋ねることにした。


「ねえ、おばあちゃん、何か悲しいことがあったの?」


 すると、おばあちゃんは目元の涙をぬぐって答えた。

「心配をかけてごめんねぇ。今、おばあちゃんの大切な人のことを思いだしていたの」

「おばあちゃんの大切な人? それって、おじいちゃん?」

 おじいちゃんは自分が生まれるより前に亡くなってしまっていた。だから、自分はおじいちゃんの顔を写真でしか知らない。

 しかし、おばあちゃんは静かに首を振った。

「おじいちゃんも大切だけど、おじいちゃんじゃないの」

「え、違うの?」

「ええ、思い出していたのはおばあちゃんのお兄さん。この人よ」

 すると、おばあちゃんはすっかり色褪せた一枚の写真を見せてくれた。

 そこには、二人の学生が教室で戯れている様子が写っていた。

 おばあちゃんの言っている人がどちらなのかはすぐに分かった。おばあちゃんと同じですごく優しそうな人だった。

 叶耶はその人物に興味を抱いた。

 おばあちゃんの顔を仰ぎ見る。

「ねえ、その人の写真、他にはないの?」

 すると、おばあちゃんは切なげな笑みを浮かべた。

「ごめんねぇ。その人、おばあちゃんがまだ叶耶ちゃんぐらいの時に亡くなってしまったから、この写真しかもう残っていないの」

「おばあちゃんはその人のこと好きだった?」

「ええ、もちろん。まだ小さかったおばあちゃんといつも遊んでくれたわ。自慢のお兄ちゃんだったのよ?」

 おばあちゃんは当時のことを思いだしていたのか、その表情は少し嬉しそうだった。


 しかし、すぐにまた翳りが入った。

 叶耶の頭を優しく撫でながら、口を開く。

「おばあちゃんね、本当は過去に行ってこの人のことを助けたかったのよ?」

「えっ、昔に戻ることができるの?」


 ――――時間旅行。


 それは幼い叶耶の心を強く惹きつけた。

「ええ。過去に行くことができる魔導を見つけることができたからねぇ」

「おばあちゃん、すごい! ねえ、一回やってみせて?」

 叶耶は期待に満ちた目でおばあちゃんを見つめた。

 ただ、おばあちゃんの表情は依然として浮かないままだった。

「それがね、おばあちゃんは年を取りすぎて、もうこの魔導を使うことができないの。この魔導を見つけるのと、おばあちゃんのお兄さんを助ける魔導薬を開発するのに長い間かかってしまったからねぇ」

「えー、そんなー」

 その魔導を見ることができないとわかり、がっくりと肩を落とす。

 おばあちゃんはそんな叶耶の頭を微笑ましそうにしながら再び撫でた。

「叶耶ちゃんは、本当に魔導が好きなのねぇ」

 叶耶は元気よく頷いた。

「うん、もちろん。だって、魔導って不思議なことができるし、見ていてとてもきれいだもん!」

「おばあちゃんも叶耶ちゃんがどんどん魔導を覚えてくれて嬉しいわ」

「えへへ……、あっ、そうだっ」

 そのとき、叶耶は名案を思い浮かんだ。

 突然声を上げた叶耶をおばあちゃんは不思議そうに見た。


「かや、おばあちゃんの代わりに昔にいく。そして、おばあちゃんの大切な人を助ける」


 叶耶は自信あり気におばあちゃんを見つめる。


 おばあちゃんが行けないなら自分が行けばいい。

 おばあちゃんと比べて自分の魔導の腕はまだまだ未熟だが、これからもっと練習すればどうにかなるはずだ。


「叶耶ちゃんが行ってくれるの?」

 おばあちゃんは面食らった顔で問いかけてきた。

「うん。だから、これからはかやにもっとたくさん魔導を教えて?」

 すると、おばあちゃんは心の底から嬉しそうに笑って、

「それなら、叶耶ちゃんにはもっと魔導のことを教えないとねぇ」

 夢を引き継ぐと言ってくれた孫を両手で優しく包み込むのだった。


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