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連れさらわれる

plom(プロム)』というオンラインゲームを知っているだろうか?

昨年登場するや否や世界各国で爆発的人気を博し、たった1年でユーザー数1億人突破という快挙を成し遂げたゲームのことだ。

その常軌を逸脱する人気には理由がある。

一つ目はALR(AutomaticLanguageRegulation)機能の存在。他国のプレイヤー同士が話す際、自動で自国の言葉にスムーズに変換する機能。

ネット上の翻訳機とは違い、文法での違和感が無く、まるで通訳者が其処に存在するかのような滑らかで1秒も満たずに変換される。それにより今までゲームをしなかった者たちさえ、取り込むことに成功した。

二つ目はプラチナバックだ。

プラチナとはゲーム内の通貨であるブロンズとは違い、課金若しくはクエスト等で手にはいる通貨である。

R(レア)以上の装備品ガチャ、フロア(自分の拠点言うならばゲーム内での自室)の拡張や強力なお供などを買うのに必要なのがプラチナだ。

だが、それだけではない。

ゲーム内で出てくる食物や家具、服等の商品をプラチナで買い、実際に手にすることが出来る(※ゲームの中での商品はブロンズで買える)。

プラチナで現実の物を買い、送料無料で届く。

これをプラチナバックと言う。

結果、現実の部屋もフロアそっくりに改装するプレイヤーが続出し、ショップにはsold outの文字が大量発生。

経済効果に一役買うこととなり、プラチナを持て余した引きこもり民や課金厨には打ってつけの方法であった。

画期的機能を搭載し、利点が多いplom。

しかし、このゲームにも欠点がある。

それはカンストが存在することだ。

装備や攻撃、魔法技術で差は出るものの自キャラであるアバターが一定以上進化しないことに、不満を持つ者は多い。

実際公式への問い合わせが(公式ホームページによると)多数あったそうだ。

だが、公式は断固としてシステムを変えるつもりはないらしい。

どうやら開発者の理念だそうだ。


前文で長々とplomについて語ったのには訳がある。

俺、(スメラギ) 篤人(アツト)はplomで最強の名を冠している。

そしてその『最強』によって、俺は...

異世界なるものに連行される破目になるのだが。



それは何時もと変わらない日常のある日。

チチッと小鳥の囀りが聞こえる朝、布団に包まっていた俺は揺り起こされた。


「そろそろ起きなよ篤人」


「ぐぬぬぅ、眠いのにぃ...」


「早く起こさないとオレが食いっぱぐれるからね」


仕方なく起き上がり、学校の準備を始めた。

俺を起こしたのは俺にとって幼馴染みであり、親友であり家族のような人物。

彼は華太(カブト) (リュウ)

事情があり、一緒に暮らしている。

これで女なら俺はギャルゲーの主人公だったろうに。


「今何かムカつくこと考えたでしょ」


「のわっ!いきなり思考に割って入るな!」


俺は勢いよく後退る。

いつの間にか瑠が隣に立っていたのだ。


「ふ~ん。どうでもいいけど、速く朝御飯作ってよ。オレ朝練あるんだから」


そう朝練。瑠はヒキニート予備軍と言われる俺と違い、健全な部活少年。

しかも部のエースで勉強も出来るイケメン。

今何人か爆発しろ!って言っただろ。

俺も親友だが時々本人に言うから、それで許してやって欲しい。

そういえばこの前も――


「また何か脱線してるでしょ、篤人」


――!!こいつ俺の頭の中が読めるのか!?

と、茶番はそろそろ終わりにして朝御飯作るか。

何故瑠が自分で朝御飯を作らないのか、疑問を持つ人もいるだろう。

こればかりは仕方ないんだ。

料理を作れば小火騒ぎと物体Xを完成させ、洗濯機を回せば室内を泡だらけにし、掃除をさせれば余計汚す程の家事音痴。

それが瑠だ。

だから俺は自分の健康と安全の為、家事を全部請け負っている。


「うわー、今日も美味しそう頂きます」


俺が朝食を並べ終えると、待ってましたと瑠が食べだす。

今日の朝食は俺の好みで和食。

昨日炊いた残りの炊き込みご飯と野菜ゴロゴロの味噌汁、だし巻き玉子に鯵の味醂干し、胡瓜の浅漬けというラインナップだ。

時間が無いなら鯵の味醂干しとか止めて、もっと簡単なものにすれば良いというのはわかっている。

だが俺は面倒くさがりなくせ、食への好みは煩いらしく妥協はしたくない。


「うーん、やっぱり篤人のご飯は美味しいね。何でオレが作ると上手く出来ないんだろ?」


「・・・」


俺には、何故こいつが理解出来ないのかが解らない。

無言を貫く俺に瑠は最初から独り言だったのか、気にせず黙々(モグモグ)と朝食を詰め込む。


「美味しかったよ。ご馳走さま」


そう言うと瑠は食器を洗い場に置き、支度を整えた。

その様子を横目で見ながら、今食べ終えた自分の食器を持っていき水に浸ける。

食器は帰ってきてから洗うことにした。


「・・毎朝早くからご苦労なこった」


「まぁ、自分がしたいと思ったことだからね」


そう返す瑠に少し待つように言い、俺は急いで身支度を整えた。


「あれ、今日は一緒に行くの?」


「たまにはな」


玄関を開け、誰も居なくなった家に声をかける。


「「行ってきます」」




まだ通勤には早い時間の為か住宅街は閑散とした雰囲気に包まれ、響くのは俺と瑠の足音のみだ。


「そういえば篤人、昨日やっとLv67まで上がったよ」


「やっとだなー。あのゲームはLv99になってからが本番だぞ」


「Lv99でカンストなんだよね?それから武器やスキルで上げるんだっけ」


「ああ。あとは、特殊薬だな」


「特殊薬?」


「HPやMP最大量の増加、武器の攻撃力と防御力に耐久度の増加、それに、」


ふと、俺は黙り込む。

続くべき言葉が出てこない。


「それに?」 


瑠は急かすように俺の言葉尻を復唱する。


「まぁ、Lv99に到達してないお前には早いな」


俺は答えず、その話を終わらせた。

何か言いたげな視線を寄越す瑠を無視し、足を進める。

瑠は諦めたのか溜め息をつくと、


「でも考えてみると凄いよね。オレの幼馴染みが今世界的人気ゲームplomの“最強”なんだから」


と話題を変えた。

俺はその話に乗ることにし、


「plom限定だがな、ーー確かに俺は世界最強だ」


そう返した時目の前に一瞬でそいつ(・・・)が現れた。

浅緑色の長い髪に花緑青の瞳を輝かせ、此方を見てくる女。

何故か女は天地逆さまな状態で空中に浮かんでいる。

その女は口を開いてこう言った。


「貴方がこの世界最強ということで宜しいでしょうか?」


ただの質問である。

なのに俺は動悸がした。

分からないということに、心理的に人間は畏れを抱く。

いつの間にか俺の肌に鳥肌が立っていた。

それを抑えるように背中を擦る手。

そうだ、俺はこの場で一人ではない。


「確かに、(plomでは)篤人は最強だけど、」


ーー私生活(リアル)では筋肉も無いから底辺だよ。

そう続く筈だった瑠の言葉は遮られ、霧散した。


「やはり、やはり、そうですか!なら、貴方には世界を救って頂きます!」


女が叫ぶと突風が吹き荒れ、目を開ける事さえ困難となる。


「篤人!」


瑠の声とともに捕まれた腕。

その腕の痛みと吹き付ける風に耐える。


風が止んだ時には其処は、もう俺の知る街並みではなかった。

ヨーロッパ方面にあるレンガ造りの家々、そこを行き交う剣や杖を持つ人や獣の耳と尻尾が生えた人、ゲームの中でしか見たことがない光景が目の前に実在していた。


「ここは…」


小さく呟かれた声に、振り替える。

掴まれた腕の先には瑠が居た。

ホッとしたのも束の間、


「この世界はウォルド、貴殿方の世界とは違い魔法が発展し魔王が存在する世界です」


俺達を此所に連れて来た元凶の声が響く。

女を見ると俺と瑠を見、哀しそうに笑った。


「いきなり失礼致しました。ですが、速くあの子を止めて欲しいのです」


女は頭を下げ、そう告げる。

俺はつい疑問を口に出す。


「あの子?」


「はい、この世界を破壊しようとしている魔王のことです」


それに今まで黙っていた瑠が質問する。


「君はその魔王と旧知なの?」


瑠は鋭い視線で女を見つめていた。

その眼差しには殺気さえ籠っていそうだ。


「いいえ、昔一度会ったことがあるだけです。ですが、あの子は優しかった!魔王などと呼ばれるような子では無いのです!」


女は必死な形相で訴えた。

1度会っただけの相手なら変わる可能性だってある。

そう考えていると、


「何で1度会っただけの魔王を、そう易々と信用するのかが分からない」


瑠がため息混じりに呟く。

俺も同意見だ。

厄介事の塊のような女と話すのは面倒なので、瑠と女のやり取りの聞き役に徹しよう。


「それにあの子はまだ、たったの9歳なんです。魔王だなんて有り得ません!」


「え、9歳?」


「はい。7年前に立ち寄った国で出会ったんです。あの子は広い中庭を鎖を付けられた状態で放置されていました」


「なんだって!」


やばい、驚きすぎて声が出た。

嘘だろ、このファンタジーな世界で悲惨な子供は物語の中だけでいいだろ!

ミシッと骨がなる。

何時でも逃げ出せるようにか、瑠に握られたままの腕が軋んだ。


「痛たたた!おい、離せ!」


「へぇ、この世界はどこまでも腐ってるね、、」


「瑠!この馬鹿力!!離せってば!」


パッと手を離される。

危うく俺の腕が使い物にならなくなる所だった。

はぁ、ため息もつきたくなる。


「いいよ、魔王を助けてあげる」


「はぁ!?」


俺がまだ痛む腕を擦ってる間に、何言ってるんだこいつは!


「本当ですか!!ありがとうございます、勇者様方!」


「いやいやいや、おかしいだろ!何で魔王を救うのが勇者なんだ!それにこんな会話してて街の人は何で誰も反応しないんだ?」


結構大きな声が出た場面もあったのに、誰一人として周りの人間がこちらを向かない。

それに客引きっぽい人もこっちに来ないんだが。


「それは私が防音と認知不可の魔法をかけているからです。ちゃんとした自己紹介がまだでしたね、私の名前はカルルア、気軽にカラーと呼んでください」


女もといカルルア、言い難いな、カラーはそう話す。

この世界は魔法が存在する、本当にファンタジーのような世界らしい。

俺にも魔法が使えたりするんだろうか。

こんな状況だと言うのに、少しそわそわしてしまう。


「あと何故魔王を助けて勇者なのかと言いますと、魔王を助ければ魔王という存在が消えることになりますよね。つまり魔王を消した勇者になるわけです!」


「確かに、一理あるね」


一理あるか?俺には屁理屈にしか感じないが。

怪訝な表情をした俺を置き去りにして話は進み、カラーに案内されながらこの世界の拠点となる場所に連れていかれる。

着いた拠点は街の郊外でなかなか立派なお屋敷だった。


「ここが私のお家となります。ささ、入ってください」


「凄い立派だね」


「立派な割に門や庭がないのが違和感な位だ」


そうとても立派なお屋敷なのに、何故か門も庭も存在しないのだ。

周りの閑散とした景色と合わせても、屋敷だけ後で貼り付けた位違和感がある。


「細かいことは気にしないでください。お2人にはこれから知っていただきたいこの世界の知識は、もっと沢山あるのですから」


カラーに続き、俺たちは屋敷へと足を踏み出した。

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