表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/46

8.

 轟音を立てて、蠢く漆黒の巨大な物体は、瘴気と強力な魔力を纏い、東から西へと移動していた。


 西の魔王ルゼブラは、魔界政府組織からの報せを受ける前から、早々に動き出していた。


 王城に集結した軍隊に、高々と檄を飛ばす。



 「よく聞け! 東の魔王と共に、巨大な魔物が、我々のいる西の魔界に迫ってきている!東の魔王は魔界征服を始めた!これは我々への宣戦布告だ‼︎ 東の魔王を討伐せよ!!!」



 「おーー!!!!」



 一斉に声を上げる西の魔王軍。威勢の良い声は、響めきにまで高まる。


 武器を装備して、動き出す軍隊の指揮をとるのは、西の魔王ルゼブラである。


 アルヴォスとの戦いを前にして、息子達と戦略の最終確認をしていた。

 そこには、なぜかセドがいた。実は、セドはルゼブラの息子であった。

 セドの隣に立つ男性は、兄のルダであり、次期西の魔王となる後継者である。


 次男のセドは、魔界政府の依頼を受けて、世継ぎがいない東の魔王アルヴォスの元へと差し出されていた。次期東の魔王となる為に、多くの事を学んでいる最中に、突如戦争が起きてしまう。


 セドは、幼い頃から虚弱体質で、出来も悪く、兄のルダに比べて魔力量も少なかった。それにより、父のルゼブラからは、自分が期待されていないのを、ひしひしと感じていた。父親の愛情は、兄と比べると雲泥の差であった。逆に母ダリアは、体が弱いセドを溺愛していた。


 両親の偏った愛情が、兄のルダと弟のセドの間に亀裂を生み出してしまう。


 ルゼブラは、二人の間に大きな壁があり、不仲であるのは知っていた。


 それでもいつかは、兄弟が仲良く、東西の魔界を取り仕切って欲しいと願っていた。


 今回のアルヴォスとの戦いを機に、二人の絆が深まることを強く期待していた。


 二人にも戦略会議に参加させて、副指揮官の役割を与える。


 三人で話し合っている所に、母親のダリアがセドを心配して、涙ながらに、駆け寄って来た。

 優しい声色のおっとりした口調で、好き勝手に話し始めるダリアを、三人はいつも通り、ただ聞き流していた。


 「貴方、子供達をお願いしますわね。セドはね、体が弱いから、私はもう心配で、心配で。アルヴォスの所になんて行かせなければ良かったのよ。こんなに痩せて、きっと酷いことをされたんでしょう。可哀想に。あーなんでまたこんなことになってしまったのかしら。セド、終わったら、もう帰って来なさい。私は争いごとは一番嫌いよ。」


 セドを抱きしめようとするダリアに「母上、私はもう子供ではありませんから。そんなに心配しないで下さい。」と後退りをして、ダリアを避けるセドは、呆れ顔を見せた。


 セドに反抗されたと勘違いして、悲しみと寂しさが込み上げるダリアは、ルゼブラに抱きつき、胸に顔をうずめて泣いていた。


 「そうあまり泣くな。すぐ戻る。ダリア、それまで一歩も外には出るなよ。君に死なれたら、私は困るからね。」

 

 ルゼブラは、ダリアを優しく抱きしめて、頭に口付けをする。


 侍女に目配せした後、ダリアは、侍女と共に王城の中へと去って行った。


 嘆息を漏らすルゼブラに、息子二人は、母親への溺愛っぷりを見せつけられて、更に呆れて言葉も出なかった。



 「よし、これで邪魔者はいなくなった。それより、セド、どうなっているんだ!」

 

 セドは、未だ状況が全く理解できず、困惑していた。

 想定外の出来事に、東の魔界にいるヴァルド、ロウロ、バーバラ、そしてレミーの様子が気になり、不安や恐怖に駆られていた。


 巨大な魔物が出現したと報せを受けた時、一瞬、レミーの泣いている顔が、脳裏をよぎる。


 初めて見る表情に、嫌な予感しかしなかった。

 自分の予感なんて……とその時は、きっぱりと否定していたが、予感はおそらく確実に的中していた。


 現実から目を背けているセドは、巨大な魔物がレミーでないことを、心の中で祈り続けていた。


 セドは、色んな感情が入り混じり、頭の中がぐちゃぐちゃになっていた。迷いに迷って、もうどうしたら良いのかよく分からなくなり、自分を見失っているセドに、痺れを切らしたルダが、ルゼブラに進言する。


 「父上、セドが困っているではありませんか。まず、あの巨大な魔物の正体は何ですか?それによっては、戦い方も変わってきます。」

 

 ルダは、強い違和感を感じていた。


 あれ程までに魔力量を保有する魔物は、見たことがない。おそらく正体は、魔力暴走をした魔女か魔族の者か、それとも人間界の者かーーー思考を巡らせているルダとセドの前に、突然、空から大きな黒竜が降り立つ。


 黒竜の背中から、一人の男性が降りて来た。

 男性は、ロウロであった。ロウロの腕の中には、ヴァルドが横抱きで、抱きかかえられている。


 セドは、明らかに様子がおかしいヴァルドに、焦燥に駆られる。


 ヴァルドの蒼白い顔が見えた途端、ロウロの元へと足が勝手に動いていた。


 「ロウロ!ヴァルド!ヴァルドはどうしたんだ‼︎」


 ロウロに駆け寄るセドは、眉尻を下げて、今にも泣きそうになっていた。

 セドの辛そうな表情を見たロウロは、辛気臭いのも性に合わないので、陽気に話し始めた。


 「ああ、まだ死んではいません。ご安心を。手当すれば、またすぐ元気になりますよ。」


 「おい!貴様!なんだその言い草は!うぅぅう。」と苦悶の表情を見せるヴァルドに「あーはいはい。すみません。ヴァルド、おしゃべりは、だめですよ。」とロウロは笑顔を見せて、虚勢を張っているが、内心焦っていた。


 ヴァルドを一刻も早く手当して欲しい‼︎と心の中では、正直な気持ちが叫び声を上げる。


 突然、西の魔王ルゼブラに向かい、懇願するロウロは、先程とは打って変わり、真剣な表情を見せた。


 「ルゼブラ魔王様、お久しぶりでございます。私、バーバラ魔女長の使い魔で、ロウロと申します。まずは、ヴァルドの治療を、こちらでお願いできないでしょうか。そして、ことの経緯の説明と、我々バーバラ魔女一族の大事な子供を救って頂きたく、お願いにあがりました。」と深く頭を下げるロウロに、頷くルゼブラは、近くに待機する側近に手配を依頼する。


 ヴァルドは、直ぐに担架に乗せられて、王城内へと運ばれて行った。



 「ロウロと言ったかな。説明を詳しく頼む。」

 

 ロウロは、事細かく、現状も踏まえて説明を始めた。



 セドは、ロウロの話が信じられなかった。


 馬鹿みたいに、なぜ?どうして?は?え?と同じ言葉ばかりを繰り返しているが、それは仕方のない事であった。



 レミーが魔物に変貌する一部始終を見ていたロウロですらも、未だに信じられなかった。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ