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5.

 「わぁー!すごーい!見て!見て!魔界って真っ黒じゃないんだね!」


 「はぁ。お気楽だな。これから何が起きるか、全然分かってないでしょ。良い性格してるよ、本当に。」


 初めて来た魔界に、はしゃぐレミーを、呆れ顔で溜息を吐くロウロは、レミーが竜の背中から落ちないように支えていた。

 すると、にょきにょきと二人掛けの椅子が突如現れる。


 驚くことに、レミーの魔力の影響で、勝手に椅子が出現したのである。


 魔界に来たことにより、レミーの魔力が解放されていたからであった。

 これにはロウロも「さすがはバーバラの血筋だな。」と唖然としてしまう。


 安定した椅子に、ゆったりと座りながら魔界を眺めているうちに、大きなお城が見えてきた。



 「あれが、東の魔王アルヴォスの城だ。」



 聞き覚えのない低い声が、頭の中にスーッと入ってくる。


 それは、なんとルーの声であった。


 ルーは、ゆっくりと旋回して、王城の真ん前に降り立った。

 

 すると、レミー達を出迎えるように、王城の大きな扉が、ひとりでに開いた。


 「わあ!すご~い!」と目を輝かせて、驚いているレミーに「来るぞ!」とルーの声がまた聞こえてきた。


 大きな扉の奥から、背が大きくて、筋骨隆々の逞しい男が、闊歩して向かって来るのが見える。男性の隣には、男性と腕を組む妖艶な女性の姿も見えた。



 レミーの胸が、突然、()()()()と、ずっしり重くなるような、異様な感覚にとらわれる。



 記憶に残る男性と女性が、目の前にいる二人と重なる。


 心が急に拒絶反応を示した。


 レミーは、悲しくもないのに、涙が溢れて止まらない。次第に涙で視界がぼやけていく。更には、音も遠のいていき、全く聞こえなくなっていた。


 気づいた時には、真っ暗闇の中に、ポツンと立っていた。


 辺りを見渡すと、これまたポツンと一人、暗闇の中に取り残されている小さな女の子が、遠くの方に見えた。小さな女の子は、泣いているようで、泣き声が聞こえる。レミーは、微かな泣き声を辿り、ゆっくりと小さな女の子に近寄って行く。漸く辿り着いて、傍まで近づくと、小さな女の子は、泣きじゃくっていた。手を差し伸べようとするレミーは、女の子の顔を見た途端、驚きのあまり、後ろにひっくり返る。


 小さな女の子は、幼き日の自分であった。



 「え?!なんで?は?………いや、いやだ。なんか怖い………いやぁーーーー!!」



 自然と湧き上がる恐怖感に、この場から逃げようと、急いで起き上がった瞬間、頭の中に幼き日の記憶が、次から次へと鮮明に蘇る。



 (あっ、そうだ。私、捨てられたんだ。)



 『お前は、女だから要らないんだよ。だから邪魔だ。お前なんて、生まれてこなきゃ良かったんだ。お前の所為で、私の人生めちゃくちゃだ』


 泣いて縋るレミーに、暴言を吐く母親。

 足にしがみつくレミーを蹴り飛ばして、家から出て行った母親を追いかけて、転んで、痛くても必死に追いかけて、転んで、追いかけて、転んで。


 泥だらけの状態で、道端に倒れていた所を、バーバラお祖母様が見つけて、泣きながら抱き抱えてくれた。


 絶対に忘れてはいけない記憶は、バーバラお祖母様と生活している間に、すっかり忘れてしまっていた。


 「ここに来ては、行けなかったんだ。」


 心の声が漏れるレミーは、ようやくバーバラの想いに気づく。


 “お祖母様、ごめんなさい、ごめんなさい”


 心の中で何度も何度も、バーバラに謝り続けるレミーは、幼き日のように泣きじゃくっていた。



 「お前ら、でかしたぞ。レミー、レミーなのか。どうした?嬉しくて泣いているのか?ほら、おいで。今まで会えなくて、すまなかった。」


 レミーに近寄る魔王アルヴォスに、すかさずルーが大炎を吹いた。

 ルーは、レミーの心情を察していた。


 全身炎に包まれるアルヴォスと女性。女性は、王妃マリであった。


 レミーは、呆然と立ち尽くしたまま、微動だにしない。いつものように、お節介を焼いて、助けようとはしなかった。

 炎に包まれている二人を、ジーッとただ見つめていた。


 炎は魔王アルヴォスには、効くわけがなかった。

 一瞬で炎を消して「貴様!よくも主人に向かって、攻撃したな。おのれ、許さん!」とアルヴォスはルーの身体を紐でグルグル巻きにして、主人に逆らったお仕置きをした。


 唸り声を上げて、苦しむルーの姿に、レミーは怒りが込み上げて、頂点に達する。



 突如、空に黒い雲が出現して、雷鳴が鳴り響く。


 レミーの体は黒い瘴気に包まれて、角が生え、眼も髪も、肌の色までも真っ黒に変わる。レミーからは邪悪な空気が漂い、もはや別人へと変貌していた。





 魔法陣を使い、セダを西の魔界に降ろした後、バーバラとヴァルドは、急ぎレミーの元へと向かっていた。


 移動途中、バーバラは、魔力を込めた鳥の型紙を飛ばして、仲間達に指示を送る。


 突如、東の空が真っ黒な雲に覆われ始めて、辺り一面、闇へと変わる。



 「大変!レミーが危ない‼︎」



 一気に緊張が走る。


 焦燥感に駆られるバーバラは、目に涙を浮かべながら、急いで魔法陣を描き、東の魔王城の入口付近まで瞬間移動した。




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