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4.

 黒竜は、先程からずっと、レミーだけを見ていた。目が合うレミーは、恐怖に怯えてカタカタと体が震える。


 バーバラとセド、ヴァルドは、各々違う理由で機嫌が悪くなる。


 三人の鋭い視線が、レミーに突き刺さる。


 「竜を呼んだのは、レミーだろう。何とかしなさい!家が壊れたらどうするんだい!」


 黒竜を見て、嘆息を漏らすバーバラは、レミーを叱り、しきりに家の事を心配していた。


 「えー!無理無理、絶対に無理だってば‼︎」と半泣きしながらも、怒り出すレミーに「俺も一緒に行くぜ!」と背後から男性の声が聞こえてきた。


 どこからともなく、一人の好青年が現れる。


 「よっ!久しぶり!」とセドとヴァルドに、手を挙げて気軽に挨拶すると「ほら、さっさと行くぞ。」といきなりレミーの手を引いて、歩き出した。


 「いや!やめて!それより、あんた誰よ?」と抵抗するレミーに「俺だよ、俺、忘れちまったのか?毎晩一緒に仲良く寝てるだろう。」と言い放った。


 「は?え⁈ も、もしかしてロロ?」と目を見開き、驚くレミーに、うんうんと青年は頷いている。


 彼は、使い魔のロウロである。


 衝撃事実に赤面して、思考が停止するレミーに「気にするな~」とロウロは平然としているが、レミーは、思い出すだけで、顔から火が吹き出そうになっていた。


 絶望感に苛まれながらも、屋根上に着いたレミーとロウロは、竜に恐る恐る近寄っていく。


 嬉々として待ち構える竜は、すぐにレミーの身体に顔を擦り付ける。まるで、レミーと会うのを待ち焦がれていたようであった。


 次第に、楽しげに戯れ合うレミーと黒竜のルーであるが、竜が動く度に、パラパラと建物から破片が落ちていた。



 「ルー、私の大切なお家が壊れてしまうからね、元の場所に戻って欲しいの。良いかな。」と優しく悟すレミーに対して、ルーはふて寝して、全く動く気配がない。

 困り果てるレミーに、ロウロが竜に話し掛けた。


 「よっぽど、帰りたくないんだな。俺にも、嫌になる気持ちは分かるぞ。主人は横暴だからな。こき使われたんだろう。可哀想に。」と優しく竜の背中を撫でて、気持ちに寄り添おうとしていた。


 ロウロの言葉にレミーは、沸々と怒りが込み上げてきた。


 疑問や真実の全てを、セドやヴァルドの上司である、魔王アルヴォスに訊くのが、手っ取り早いと思い立つ。


 そして、王妃マリ様の為に、浮気したダメ夫の魔王アルヴォスを懲らしめる計画も思い立っていた。

 女を敵に回した罰は重い。お節介レミーは、度胸と行動力だけは兼ね備えていた。


 ここから、予想外の行動に出る。



 「ルー、私を魔王アルヴォスのところへ連れて行ってもらえるかな。」



 むくりと起きだすルーの瞳は、嬉しそうに喜んでいるようにも見えた。

 ルーの鼻をぎゅっと抱きしめて「ありがとう」とお礼をするレミーの頬を細長い舌でペロリと舐めた。

 ルーの背中に素早く乗るレミーは、魔界に行く気満々であった。


 「おいおい、正気か。これじゃあ魔王の思う壺だぞ。どうなっても知らんからな。」と忠告されても、レミーは意志を曲げようとはしない。


 「やれやれ、困ったよ。」とロウロは呆れながら、竜の背中に乗った。


 下から見ていた三人は、突然竜に乗り始めたレミーとロウロに、状況が把握できず、首を傾げて、不思議そうにただ様子を見守っていた。


 ふと、何気なくバーバラは、嫌な予感がして、胸騒ぎがする。


 「レミー!何しとるんじゃ。早う、竜を返して、戻って来い!」と咄嗟に大声でレミーに向かって叫んだ。


 「お祖母様!ちょっと魔界に行って来ます!すぐに戻りますから!」と言い放った後、レミーとロウロを乗せた竜は、大きな羽を羽ばたかせて空の彼方へと消えていった。



 「はぁ?!」



 茫然自失するバーバラは、道のど真ん中に崩れ落ちた。


 「わ、わしの今までの苦労は……。何で、いつも、いつも、わしから大事なもんを奪っていくんだ。」と涙を溢すバーバラに、セドが優しい声でなだめて、ゆっくりと立ち上がらせる。


 「バーバラ魔女長様、我々と魔界に来て頂けないでしょうか。」


 セドとヴァルドは、今までの態度と打って変わり、バーバラの前に跪き敬意を表した。



 「はぁ。とうとうこの日が来てしまったか。」



 バーバラは、張り巡らした結界を解き、杖も付かずにスタスタと、店の中へと戻って行く。

 店に入った途端、一瞬で腰の曲がった老婆から、壮年の美しい女性に変貌する。元の姿に戻るバーバラは、二人がよく知る、見慣れた姿であった。


 バーバラの正体は、魔女である。


 それも魔女達を取り仕切る、魔女長であった。

 また、東の魔王アルヴォスの妃は、バーバラの娘であった。


 何かと傲慢なアルヴォスは、娘のマリと孫のレミーを捨てて、新しい女を城に招き入れ、世継ぎ作りに精を出していた。

 魔女達の怒りを買ったアルヴォスは、マリやレミーには、二度と会えないよう、バーバラから呪いをかけられていた。しかし、マリは想いを断ち切れず、呪いを勝手に解術した後、レミーを捨てて、再び城へと戻って行ってしまう。


 親に捨てられた幼いレミーに、愛情をたっぷり注いで、立派に育て上げたのは、紛れもなく祖母のバーバラであった。


 人間界に足を下ろして、八百屋を営んでいたのも、お店を雨の日限定で開店する理由も、この上なく、薄情な両親に会わせないようにするためであった。


 バーバラは、アルヴォスとマリに、雨の日だけ人間界に、絶対に来られない、強力な呪いの魔法を厳重に仕掛けていた。



 「よし、行くとしようかね。」



 大きな魔法陣を、店内に浮かび上がらせ、魔界へと消えていった。

 



 店のドアには“しばらく留守にします”と貼り紙をして、指をパチンと鳴らした。




 ルルカスの商店街は、土砂降りの雨空から一変、一気に雲一つない晴天へと早変わりする。



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