1.
「いらっしゃいませ‼︎」
雨が降り、どんより暗い空。
人通りがまばらな商店街を抜けた先にある、小さな喫茶店のような青果店。
お店からは、元気いっぱい、楽しく明るい声が聞こえてくる。
商店街に、雨の日限定で開店する、一風変わったお店がある。
今日もパラパラと小雨が降る中、慌ただしく開店準備をする店主の老婆と、一人の孫娘。
意気揚々と店先に並び、開店待ちするお客さん達。
開店と同時に、お客さんで賑わうお店は、雨の日でも、わざわざ足を運びたくなる、人気のあるお店であった。
雨の日しか開店できない複雑な事情。これには、深い、深い訳があった。理由を知る者は一人もいない。誰一人、聞こうともしなかった。
複雑な事情の背景―――そこには、老婆の深い愛情が、孫娘に込められていた。
店内は、買い物客や暇を持て余した子供達、奥様方の井戸端会議などなど、いつもと変わらず、人の出入りが激しく、大いに賑わいを見せていた。
サニード王国の首都ルルカスの商店街は、多くの人々が行き交う、活気に満ちた場所である。
王国内で採れる新鮮な野菜や果物、魚は勿論のこと、日用品や雑貨、洋服など、所狭しと並ぶ店の数々と、数十軒の露店や飲食店が軒を連ねている。
その中でも、一際異才を放つ“バーバラお婆さんの八百屋”は、商店街から少し離れた先に、こぢんまりと佇んでいた。
八百屋と言うだけあり、雨の日でも新鮮な野菜や果物が並ぶ店内。
更に店内の一角に設けられた、喫茶コーナーには、孫娘の手作りお菓子が陳列されていて、格安で販売されている。
その手作りお菓子を目当てに来る客も多く、まあまあ商売は繁盛していた。
小雨から土砂降りに変わっても尚、客足が途絶える事がない“バーバラお婆さんの八百屋”は、ようやく長い一日が終わる。
「はぁ~。今日も、忙しかったぁ~。」
湯浴みをした身体のまま、床に寝転がる孫娘のレミーは、大きく口を開けて欠伸をしている。
気づけば、猫のロロを抱きしめて、うとうと眠り始めていた。
「ほれ、レミー。そんな所に寝たら、風邪引くよ。早く布団に寝なさい。」
「ふわぁ~い。お祖母様、おやすみなさい。」と二階の自室へと、階段を昇って、とぼとぼ歩いて行った。その後ろを、猫のロロはいつも通りに、ちょこちょこと付いて行くのが日課である。
レミーは、ロロと一緒の布団に、毎晩寝るのが習慣であった。
「ロロ、後は頼んだよ。」と意味深な言葉を残して、バーバラも眠りについた。
『いやぁ~参ったよ。こうも連日、雨が降ると、野菜の育ちも悪いし、折角、やっと実をつけたばかりだって言うのに、腐っちまうな。』
王国内の領地で、野菜や果物を栽培している領民達は、頭を悩ませていた。
ここ最近、王国の天気が悪く、雨や曇りの日が続いている。
長雨による日照不足で、野菜や果物の生育に影響が出始めて、領民の収入源は減る一方であった。
それは、農業を営む領民だけの問題ではなかった。
軒並み、店から姿を消す野菜や果物、更には、値段の高騰により、飲食店を営む店主達はおろか、日々の生活に欠かせない食料の不足と高騰は、民の生活にも、少なからず影響を及ぼしていた。
ただ、ルルカス商店街の人々は、いつもとなんら変わりのない日常を過ごしていた。
商店街の人々は、野菜や果物に困ることはなかった。
王国内から人々が、どっと押し寄せて、連日大行列ができる雨の日限定の八百屋は、ぐんと更に客が増えて、大忙しである。
なぜか不思議なことに“バーバラお婆さんの八百屋”には、いつ来ても新鮮な野菜や果物がたくさん並べられている。
また、野菜や果物の種類も豊富で、珍しい品種も多く陳列されていた。
それに驚くほど、破格の値段で売られていることもあり、連日多くの買い物客で賑わっていた。
雨が降る中、飲食店を営む店主は、店の裏口から、大量の野菜を受け取り「いやぁー助かったよ。バーバラさん、いつも、いつも、すまない。」と深々お辞儀をして、とろとろに煮込んだ牛頰肉のシチューをお礼にと置いた後、店へと戻って行った。
「やったぁー!ここのシチューは絶品なのよね。」
シチューを見たレミーは、ピョンピョン飛び跳ねて、大喜びしている。終いには鼻歌を唄いながら、機嫌良く、せっせと焼き菓子作りをしていた。
「レミー、今日は何を作っているんだい?」とバーバラが、野菜を仕分けながら訊ねる。
「今日は、人参のクッキーよ!だって、聞いてお祖母様、野菜が嫌いで、食べられないって言うお客さんがいるのよ。もう、信じられないでしょう。こんなに美味しいのに。だから、しばらくは、野菜のお菓子を作ることにしたの。私が作ったお菓子で、野菜が食べられるようになったら、とっても嬉しいじゃない!」
力を込めた口調で、ふんふんと鼻息を荒くしながら、どうよ!と言わんばかりに、得意顔で宣言しているレミーは、人参を手に取り、ゴリゴリと力強く、すりおろしている。
本日販売する手作りお菓子は、キャロットケーキとクッキーに決めていた。
バーバラから教わったレシピを参考に、こだわりの食材を使い、アレンジを加えて作るヘルシーなお菓子は、老若男女に人気があった。
また、レミーが作ったお菓子を食べると、不思議と元気が湧いてくる効果があり、売り切れ必至の人気商品でもある。
その人気のお菓子を、子供達には、必ず無料で提供しているレミーは、お菓子をたくさん食べて元気いっぱいになる子供達から『レミーお姉ちゃん、魔法使いみたい!』と言われて、子供達からは、よく慕われる存在であった。
レミーは、好奇心旺盛な子供達と、晴れの日は一緒に外で遊んだり、みんなでお菓子作りをして、楽しく過ごしていた。
そんな何気ない日常も、レミーにはかけがえのない日常であった。
バーバラは、レミーが話す、野菜嫌いの客を、中々思い出せず「えーと、うーんと」と言いながら、頭を捻り、悩んでいた。
最近、雨の日が多くて、体調を崩してしまい、更には執筆意欲もなくなり、うだうだと気落ちしている日々を過ごしていたのですが、雨の日でも遊ぶ、近所の子供達の姿に、連載中の小説と同時進行で、雨を題材にした小説を書いてみようと思い立ち、投稿してみました。
長々と連載する予定ではありませんので、おおよそ20話くらいで完結させたいとは思っています。
さらっとでも、気軽に読んで頂けたら幸いです。