表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/57

「追放記念飲み会」

「それじゃあ……ええと……なんについて乾杯しようかしら?」


「飲むことが目的なら乾杯しなくてもいいのでは?」


 マクスウェルは何かにつけて仮想アルコールを接種しようとしている。それが目的なら別に理由は要らないんじゃないだろうか?


「ダメよ! 私が理由も無く飲むダメ人間みたいじゃない!」


 実際そうじゃねえか……という言葉は飲み込んだ。うーんとマクスウェルが唸った末に一つの結論を出した。


「私がクソパーティから追放された記念でかんぱーい!」


「かんぱい」

「乾杯……」


 なんて嬉しくない乾杯だ……追放記念って……しかしまあマクスウェルも最低限の倫理観は一応乾杯の台詞はギルドチャットで発言している。


 三人でビールを頼んで飲むことになった。肴はそれぞれオーク肉とコカトリスの唐揚げだ。もちろんオーク肉もコカトリスも食べた奴がいるわけではないのでほとんどとんかつと唐揚げの味が脳に入力される。だったら豚肉と鶏で良いではないかと思うのだが、この店は期間限定でこういうものを出すのでファンタジー感があってよいともっぱらの評判だ。


「しかし、マクスウェルは何の魔法を使ったんだ? 早々魔力切れなんて無いレベルだろう?」


「敵が来る度にリキャスト三十分の魔法を使っただけよ。リキャストが長いものから順に使ってたら、強い敵が来たらどうするんだってキレてたわね」


 そりゃキレるだろう。奥の手を毎回使っていると強い相手が来たときに打つ手が無い。所謂三十分魔法と呼ばれる強力な代わりにリキャストが三十分もあるピーキーな魔法だ。そんなものをポンポン使っているとレアなモンスターがポップしたときに危険にさらされるだろう。


「ここのメシは美味いな」


「まあこれを食べてもお腹は減るんだけどね」


 マクスウェルが横やりを入れるので俺も答える。


「生きるだけなら点滴でも理論上は栄養が手に入るだろ。美味しさは心の栄養なんだよ」


「ギルマスは現実的ねえ……」


「アポロ、でいいでしょ、今はギルマスとして動いているわけでも無いしね」


 妹の反応に、そういえばキャラ名で呼ばれることの方が少なかったなと気がついた。アポロ、そう、キャラクリしたときにつけた名前だがホライズンのギルマスになってからは『ギルマス』と呼ばれることの方が多かった。


「アポロは酒は飲むの? リアルの方ね」


「俺は未成年だぞ」


「未成年ねえ……そういうRP(ロールプレイ)は自由だけど信用されるかどうかは別よ?」


「信じるかどうかは自由だがな、この仮想アルコールだけでも十分酔えるだろう?」


 そう言ってビールを飲み干した。アルコール設定は『僅かに有効』にしておいたので多少は脳内に信号が送られてくる。意識ははっきりとしているがどこかふわりとする心の感触を抱いた。


「私は焼酎を頼みましょうかね」


 我関せずとフォーレは新しい酒を注文した。度数によって脳内に送られるデータが変わるわけではないが、舌への信号がピリピリした刺激が伝わる。試しに飲まされたときには口の中が焼けるような感覚を覚えた。しかし酔うことが出来ないのでメリットのほぼ無い洗口液を飲んでいるような感覚だけが残った経験からあまり刺激の強い酒は避けている。


「私も焼酎一杯」


 気にすること無く注文するマクスウェル。この二人だけいれば良いんじゃないかなどということを考えてしまう。


「いやーマクスウェルちゃんの強さを見逃すパーティは無能ですねぇ! 実際はものすごく強いのに!」


「でしょう? 私の強さにビビっているんじゃないかと私は踏んでいるわね。特殊技に頼るDPSなんて失格よ。通常攻撃だけでレアモンスターにも対応できるのがプロってものだっての」


 自分の実力を自分で評価しているマクスウェルは自信満々で話を進めている。その話に乗るフォーレも楽しそうに酒を飲んでいる。


「アポロももっと飲みなさいよ! 素面だとパーティから追い出された話を楽しく出来ないでしょう」


「はいはい、ストロングレモン一杯!」


 酒クズ御用達の酒を注文するが、どうせ脳内に影響するデータ量は一緒だ。そこはこのゲームでのRPのためといったところだ。


 テーブルで俺の目の前にジョッキが一つ出現する。それを飲み干すと多少脳内に仮想アルコールが広がる。美味しくはないが、心地よいのは事実ではある。


「フォーレちゃんはパーティあんまり組まないよね? やっぱり人間関係が面倒だから?」


「んー……アポロが必要なら組んでくれるからですかね。デイリークエストとかもいざとなったら組んでくれますし」


「へー……フォーレ、今日のデイリーはもう済ませた?」


「いや、まだですね、ガチャを回したいんですけどデイリーで回すのは大変でしてね」


「よし! お姉ちゃんが組んであげるからデイリークエストに行こう! 私の実力を見せてあげる! アポロも来る?」


「悪い、俺はギルドのことを済ませないといけないからな」


「どこまでいってもギルマスねえ……まあいいわ、フォーレ! 行くわよ」


 そう言って嵐のようにマクスウェルは去って行った。俺はギルドに戻り税金等の処理をしていたが、少しして満足げに帰ってきたフォーレを見て、()()()()()確かなんだろうなと思った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ