「計算アドオン」
「お兄ちゃん、プレゼントです!」
「え!? 俺に?」
リアル世界で妹にプレゼントをもらうとは思わなかった。一体何に使えというのか?
「これでギルド運営に役立ててくださいね!」
やはりネトゲ関連だったことに落ち込みつつ、この金を一体何に使えというのか気になるところだ。妹がくれたのは千円、ガチャなら十連も回せないのでガチャ用というわけでもないのだろう。
「なあ、この金を何に使って欲しいんだ? ギルド運営っていっても税金は皆から集めて払ってるしさ、課金要素があまり無くないか?」
「お兄ちゃん、ギルドの収支もつけてますよね?」
「ああ、それはまあやってるな……」
「最近アドオンに計算補助アドオンが実装されたのは知ってますか?」
「そういえばメニューの隅に時々広告が出るな……」
「お兄ちゃんは使ってないみたいなので体験してもらおうかと」
「そんなに便利なのか?」
「経理をしているヴィルトさんは課金しているようですよ?」
あいつ課金してたのか……確かに間違いがない会計票を上げてくるしっかりしたやつだとは思っていたが金の力に頼っていたのか……
「計算アドオンねぇ……ゲームにそんな仕事みたいなアドオンなんて入れなくてもいいだろうに」
しかし妹が甘いですねという顔をしている。いや、ギルマスの俺が問題無いと判断しているのだから問題無いだろう。
「お兄ちゃんは甘いですよ! 他のギルドは普通に使ってるんですからギルマスが使わなくてどうするんですか!」
「でも妹に代わりに払ってもらうのもなあ……」
「気にしないでください! 一月分だけですから!」
は? ひとつきぶんだけ? ええっと……つまり……
「そのアドオンってサブスクなの?」
その問いかけに妹はなんでもないことのようにしれっと答える。
「そりゃそうですよ! 買い切り千円なんて金にならないアドオンを公式が販売するわけないじゃないですか!」
自信満々にそんなことを言われる。俺はスマホを取り出して情報wikiを開いた。そこに『課金要素』という項目がある。それを開くと一覧表示されたのでそこの管理者向けを開く。ギルマスや経理担当の推奨課金要素が表示される。そこに計算補助アドオンという項目が確かに存在していた。
「なんでこんなもんが課金要素になってんだ……」
「リモートでも計算リソースはかかりますからね。無制限にしたら絶対不必要に使ってリソースを圧迫するという判断でしょ」
「それは理解しないでもないが……」
しかし課金しているユーザにさらに課金を必要とするのもどうなのだろう? まあこうやって機能に課金しないと、遠慮なくビッグデータレベルの大規模データをぶち込む奴がいるだろうから必要なのだろうか……?
「そして時間が効率化できた分は私のクエストにご協力を……」
「そっちが本音か……まあいいよ、今月くらいは付き合ってやる」
「やった! お兄ちゃんは話が分かりますね!」
ニコニコでそう言う妹に対して俺は困ったなという顔を浮かべることしか出来なかった。何か害があるわけでもないし、必要の無いアドオンだったら解約すれば済む話だ。だったら試してみるのもいいだろう。
「で、今週はデイリークエストのターゲットはどれだったっけ?」
「サンドリザードを一日五匹ですね! 砂漠エリアなのでかなり不評です」
また面倒なところで頼むんだな……いや、面倒だから頼んできたのか。コイツからすれば俺のギルド運営なんぞ微塵も興味が無く労働力を確保した程度の考えしかないのかもしれない。しかしそう言ったこともまたネトゲの醍醐味ではある。まあ精々楽しむとするか……
俺はその日、予想外にアドオンを使うと検算が早く終わったので仮想アルコールに手を出して酔い潰れたまま寝てしまったのだった。




