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ひび割れた夢の小箱

作者: 七海 夕梨

メリークリスマス。


小さい頃、パパとママは私に夢を語った。

クリスマスになると、サンタさんがやってきてプレゼントをくれるのだと。



幼かった私は疑うことすら知らず、はしゃいて喜んだ。


だからクリスマス前になると、私はパパとママに言われるがまま、サンタさんに手紙に書いた。


あれが欲しい、これが欲しいと悩みながら、私は希望のプレゼントを一つだけ書いた。


でもサンタさんはどうやって家に来るんだろう。


私の家には煙突がないのに。


たしかめてみたいな。


私は真っ暗な夜空を見ては、くる気配がないサンタさんを待った。

けれど結局、睡魔には勝てず、私は眠ってしまうのだ。


そうして朝を迎えると、枕元にはプレゼントが置かれていた。


いつ? どうやって? 不思議に思ったのは一瞬だけ。

包装紙を破ったら、そんな事はすっかり忘れていた。


あぁ、これが欲しかった。


サンタさんは私の欲しかったものをちゃんとわかってくれたんだ。


それがうれしくてうれしくて。


私はパパとママに自慢しにいった。


なのにパパとママまで、なんだか嬉しそう。


私が『いい子』だからプレゼントを貰えたと思ったのかな?


「いい子にしてるってパパが言ったからだぞ」


 むむっ、パパに言われなくても、ちょっとは……いい子にしてたよ? 


「ママのはないのかなぁ」


 ママは大人でしょ。子供みたいな事を言って。


 そんなやりとりを何年か繰り返し、私は少しずつ大きくなった。


 毎年、サンタさんがくれるお手紙。どこかで見たことのあるような?


 なんだかママの字に似てる?


 あの赤い包装紙、デパートで見たような……。


 あれ? と思う事が少しずつ増えていって、ある日、私は気づいてしまった。


 パパとママが私の枕元にこっそりプレゼントを置いていたことに。


 あぁ、ひどい。


 パパとママは私にうそをついちゃいけないって言ってたじゃないか。


 サンタさんはいるんじゃなかったの? 信じていたのに。


 私の心にあった『夢の小箱』は、その時、パキパキとひび割れた。


 それでも両親を責める事はできなかった。


 きっと私を喜ばせたかったんだと思ったから。


 だって、私はもう小さい子供じゃない。それぐらいわかってる。


 それから私はサンタに手紙を書く事を止めた。


 両親に直接、クリスマスに欲しい物を伝えることにしたのだ。


 すこし残念そうにする両親を見て罪悪感はあったけど、私だって夢を壊されたのだ。それくらい我慢してもらおう。


 クリスマスは『イベント』なのだ。


 『家族とケーキを食べてプレゼントをもらう日』というただのイベント。


 そうやって私は嬉しい思い出と悲しい思いを、全部、ひび割れた箱の中に閉じ込め鍵をかけた。


 さらに年月が経つと、一緒に過ごす相手は両親ですらなくなった。 


 友達だったり……恋人だったり。


 ふざけて夜遅くまでお酒を飲んで遊んだりする日になった。


 遅い帰宅にぼやく親を疎ましく思う事すらあった。


 夢の小箱なんてどこへやら。


 懐かしむことすらなくなった。


 だって私は現実に忙しい。


 夢は自分の将来の事だけでいい。


 王子様やお姫様、魔法使いなんてものは存在しない。サンタもそうだ。


 どんなに夢見たって私は絵本の存在にはなれない。勇者にも賢者にも。


 将来の夢だってどれだけ諦めたか。つかめなかったか。ふたをしてなかった事にしたか。


 だって現実は私にぜんぜん優しくない。守ってもくれない。がんばってもがんばっても。


 そうやって私は必死に日々を生き、私を見てくれる大切な人と出会い、結婚をした。


 そして小さな命を守る立場になった。


 小さな命は思うようにならなかった。何が正しいのかわからず、不安ばかり。

 私の世界は仕事と子育てに限定され、だんだんと小さく狭くなっていった。


 

 とうとう夢の小箱は化石となってしまった。


 そんなある日のことだ。


 「サンタさんはくるの?」と、拙い言葉で、我が子がまっすぐに私を見て聞いた。


 その時、心の奥で何かが脈打った。


 あぁ、そうだったのか。


 パパもママも私を喜ばせる為だけに嘘をついたんじゃない。


 まだ幼かった『私の夢』を守りたかったのだ。


 幼かった私の心は小さくて、弱かった。


 生きる事に、知ることに、愛することに、泣くことに、いっぱいいっぱいだったのだ。


 そんな小さな箱のなかに、たくさんの夢が溢れていたのだろう。


 だから、大切に大切に守りたかったのだ。



 カチャリ。



 私の夢の小箱が開く音がした。


 ひび割れ、ボロボロになった私の小箱。


 夢なんてもう残っているだろうか? 私にもわからない。


 でもかつて夢見た事は覚えている。


 私のひび割れた夢の小箱が、すこしずつすこしずつ、何かで満たされた。


 それは夢なんだろうか? ただ懐かしいだけなのか。


 答えは一人一人違うのだろう。



 ただ、私は我が子の夢を守ってあげたい。

 

 いつかこの子の小箱もヒビ割れてしまう日が来てしまうから。


 その日がきても大丈夫なように。私も一緒に夢をみるのだ。


 私を大切に守ってくれた人が、してくれたように。




 



 

 


 

 












皆さんにとって素敵なクリスマスでありますように。

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