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ヒロイン、かく語りき。


「ハナさんは、前世、日本人だった……という事で、間違いありませんか?」

 とりあえず、そこから始めよう。


「はい。間違いありません。アンさんも……」

「日本人です。このお菓子を『大判焼き』と呼ぶ地域出身です」

「回転焼きを……」

 だから、『回転焼き』じゃねぇよ! 大判焼きだよ!

 いや、この話題はよそう……。


「実績を全解除する程にやり込んでらしたんですよね?」

「生鮮殿下エンドの実績だけ、チートで取得しましたが……はい」

 ハナちゃんは頷くと、「アンさんは……?」と訊ねてきた。

「生鮮殿下エンド以外は、取得済みです」

「あー!! ホント、アンさんに私のMODあげたいです!」

「マジで欲しいです!」


 ハナちゃん曰く、ハナちゃんの作ったチートMODはただのプラグインだそうだ。

 DLしたプラグインをデータフォルダに突っ込んでゲームを起動すると、起動と同時に実績がとれるらしい。

 そして実績の解除が済んだら、使用済みのプラグインはそのままゴミ箱へポイでOKだそうだ。レジストリにも何も残らない、パフォーマンスに優しい設計である。

 何それ、便利すぎる……。


「で、あの、色々お訊ねしたい事があるんですが……」

 何ですか?と微笑むハナちゃん。

 流石はジャンル不明のゲームのヒロインだ。ジャンルが行方不明でも、ヒロインはヒロインだ。めっちゃかわゆい。


「先日、お店の前で一緒に居た騎士様は、『タウルス君』で間違いないですか?」

「間違いありません」

 こくりと頷くハナちゃん。


 やっぱあれ、タウルス君だったんだ……。大分、ゲームと違ってたけど。


「てことは、『乙ゲー転生モノあるある』の一つ、『記憶を頼りにフラグを折る』をやったんでしょうか?」

「そうです。……アンさん」

 ハナちゃんが真剣な目でこちらを見つめてくる。


 な、何かしら……?(ドキドキ)


「私の『これまで』の話を、聞いてくださいますか……?」




  *  *  *




 私が『ゲーム世界に転生』したと気付いたのは、六歳の頃だった。

 『乙女ゲーム転生』かもしれない。……『乙女ゲームとは?』という疑問が真っ先に浮かぶゲームではあるが。


 六歳の頃、両親が経営していた精肉店の改装工事があったのだ。

 祖父母の代から営んでいる商店であったので、設備なんかが大分老朽化していた。


 外装にも内装にも手を入れ、それまでより店内を広く明るく、外装も明るい雰囲気に……と、両親が張り切って工務店さんと打ち合わせをしていた。


 工事の間は危ないからと、私は田舎の祖父母の元に預けられていた。


 そして工事が終わり、両親が「すっごく綺麗になったよ~!」と嬉しそうに教えてくれた。


 ワクワクしながら王都の商店兼自宅へ行き、父が自慢げに「どうだー!」と胸を張る店舗を見て、私は「あれ?」という不思議な感覚に襲われたのだ。


 真っ赤なアーケード看板。そこに我が家の屋号である『ファーレンハイト精肉店』の文字。その屋号の左右に黄色い縦書き文字で、『うまい』&『うまい』。


 見た瞬間、『国道〇号線沿い』という言葉と、『ネギラーメン』という言葉が浮かんだ。


 国道沿い……、ネギラーメン……、うっ、頭が……!!


 冗談(ネタ)ではなく、酷い頭痛を起こし、倒れてそのまま二日間寝込んだ。

 寝込んでいる間、私は夢の中でネギラーメンを食していた。ついでに「ここのラーショより、○○町のバイパス沿いのラーショの方が美味しいな……」などという、具体的な感想まで浮かんでいた。


 そして、目が覚めると、前世の記憶を思い出していた。


 ……まさか、前世を思い出すきっかけが、ラーショだなんて……。

 もっと何かあるでしょ!? 婚約者(予定)の攻略対象に出会うとか、頭をぶつけるとか!


 ラーショて!! ネギラーメンで前世を思い出すって!!


 前世の思い出し方に不満は残るが、それは言っても仕方ない。

 とにかく、前世の記憶を思い出したのだ。


 そして、私が暮らすこの世界が、とてもふざけたゲームの世界であると理解した。

 更に自分が、そのゲームのヒロインであるという事も。


 ヒロイン転生とか!!

 何なの!? 私、前世でそんなに悪い事した!?


 ヒロイン転生なんて、『ゲーム転生モノ』じゃ『ざまぁ対象』まっしぐらじゃない!


 そう思い絶望しかけたが、すぐに我に返った。


 このヒロイン、『ざまぁ』される理由ないわ。


 制作者こそ『乙女ゲーム』と言い張っていたが、私が転生したゲームは『恋愛要素が邪魔』と言われたゲームだ。

 商店を営むヒロインには、商売敵は居れど、恋のライバルは存在しない。

 その商売敵にしても、別に汚い手を使ってくるなどはない。単純に、どちらが顧客を掴めるかの勝負でしかない。


 むしろ、ゲームをやり込んで『経営パートの攻略方法』が分かっている私には、商売を軌道に乗せるチート的知識があるようなものなのではなかろうか。


 イケる……!

 この世界、イケるぞ……!

 ウチの肉屋、天下獲れるぞ……!


 そう思った私は、まず近所の文房具店でノートを購入し、そこに覚えている限りの攻略情報を書き出した。


 様々な『ゲーム転生モノ』では、ここで『周囲の人間に見られても大丈夫なように』日本語を使用したりする。

 だが、私が転生した聖セーン王国は、母国語がゴリゴリの日本語だった。もののあはれ、いとをかし……。


 英語で書く!? いや、無理過ぎるわ……。私、英検四級しか持ってないし……。

 因みに英語は、海の向こうの『ライス帝国』の言語だ。『ライス帝国』、つまり『米帝国』→『米国』だ。なので実際は『英語』ではなく、『米語』である。米訳すると『English』なのだが。この世界で細かな突っ込みは野暮というものだ。


 少々悩み、結局、唯一自在に操れる母国語で攻略情報を記していく事にしたのだった。


 ただ、ノートを片付ける場所は、鍵のかかる引き出しにしておいた。

 あんなの見られた日には、両親に(私の頭を)心配されてしまう……。


 ゲーム世界に転生という不測の事態ではあるが、両親も祖父母も大好きだし、近所の人たちも皆大好きだ。

 ゲーム中にヒロインに命の危険などもない。


 中世ヨーロッパ風の世界が舞台で、その世界の常識に馴染むのに苦労して……などという事もない。

 いやまあ、『中世ヨーロッパ二割+現代日本八割』のハイブリッド世界観のコメディ時空ゲームだったので、明らかに日本の商店街風な道を馬車が走り抜けたり、ドレスの貴婦人やテールコートの紳士が闊歩していたりはするのだが。


 基本的な文化様式は、ほぼ現代日本だ。馴染みの要素の方が多い。


 記憶を取り戻した私の目下の懸案事項は、『私以外のヒロインは存在しているのか』と、『営業妨害の邪魔者(攻略対象)は存在しているのか』と、『ヒロインの両親は本当に死んでしまうのか』だった。


 攻略対象の一人である王太子殿下は、その存在をすぐに確認できた。

 殿下のお誕生日になると、新聞などに一斉に報道されるからだ。お名前と、お顔の雰囲気から、攻略対象である事は確定だ。

 だが彼は、魚屋を選択した場合の攻略対象だ。肉屋ヒロインの私ではない。


 王太子殿下が実在している。という事は、他の三人に関しても実在する可能性が高い。


 そしてヒロインが魚屋を選択した場合に現れる王太子殿下がいらっしゃるという事は、魚屋も存在している事だろう。


 確認に行かねば……!



 記憶を思い出した事により、自転車の補助輪が外れた。乗り方を、思い出した前世の記憶が助けてくれたからだ。

 それまではどうしても怖くて、補助輪付きの自転車をガラガラ言わせながら乗り回していたのだが。

 補助輪が外れ、ちょっとお姉さん気分だ。


 自慢の黄色い子供用自転車で、すいすいと王都の道を行く。

 アスファルトではなく少しデコボコの石畳の道なので、気を付けないと転んでしまいそうだ。


 私はまず、王都商店街二丁目へと向かった。

 商店街の風景が、私の暮らす一丁目と全く同じだ……。

 確かにゲーム中の背景なんかは、商店だけ置き換えのコンパチ一枚絵だったけれど……。


 これもしかすると、ヒロイン三人居たとして、三人ともおんなじビジュアルの可能性出てきたぞ……。ついでに、三人とも同じ名前で同じプロフィールの可能性も……。


 いや、まさか。

 いくらネタみたいなゲームの世界とはいえ、そこまでネタで構成されているとは限るまい。

 ウフフ……私ったら☆ 考えすぎは、悪いクセだゾ☆


 ……茶化しでもしないと、やってられない。

 そんな思いを抱きつつ、王都商店街二丁目へ到着した。


 子供用自転車でチャリチャリと王都商店街二丁目を駆ける。

 軒を連ねる商店の種類こそ違えど、雰囲気は我が一丁目と全く同じだ。


 コンパチ背景という事は……、やはりそうか!

 一丁目の我が家のある位置と全く同じ立地に、魚屋を見つけた。


 何てふざけた街なんだ……。ついでに、なんてふざけた名前の商店街なんだ……。


 自転車を降り、物陰からそっと魚屋を窺う。

 店先に立っているのは、ヒロインさんのご両親だろうか。……良かった。私の両親とは、雰囲気は似ているがそっくりという程ではない。


「フローラ! 気を付けて行ってくるのよ! あと、暗くなる前には帰って来なさいね!」

 突然自分の名を呼ばれ、思わずビクッとしてしまった。

 けれどこれはきっと、『私の名前』ではない。


「はぁーい! 行ってきまぁす!」

 店内から、元気の良い女の子の声がする。


 ドキドキしながら待っていると、店内から一人の女の子が走り出てきた。


 ああ……、神よ……。

 何故こうも雑な世界を、あなたは創り給うたのですか……。


 店内から出てきた女の子は、私と髪の色と目の色が違うだけの、瓜二つの容貌だった。


 私そっくりで、私と同じ名前のフローラちゃんは、お店の横から「よいしょ……」などと言いながら自転車を引っ張って来た。

 補助輪付きの、ピンク色の子供用自転車だ。


 ていうか、私の自転車と全く同じ色違いだ……。


 この自転車は、去年の誕生日に両親に買ってもらったものだ。きっと、あの子の自転車もそうなのだろう。


 フローラちゃんが補助輪付き自転車をガラガラいわせ走り去ると、私も物陰から出て家路を辿った。


 魚屋フローラちゃんは、確かに居た。

 そして想像通り、私と色違いのコンパチ少女だった。


 という事は、八百屋フローラちゃんも絶対いるな……。そんでまたコンパチだな……。


 後日三丁目商店街へ行き、八百屋フローラちゃんも見つけた。

 八百屋フローラちゃんの自転車は、淡いすみれ色だった。上品な色合いで「いいなぁ……」と思ったりした。



 さて、ヒロインが三人とも居たぞ。

 という事は、あの『常識? 何ソレ、おいしいの?』な攻略対象たちも、全員いると考えて良いだろう。


 王太子殿下は存在している。

 八百屋の攻略対象である公爵令息は、私では調べようがない。高位の貴族になど、知り合いがいない。隠しキャラである王弟殿下についても同様だ。


 私の肉屋で登場する攻略対象、騎士のタウルス君は存在しているのだろうか……。


 ていうか、肉屋で良かった!!


 王太子殿下なんて、攻略する気がなくても邪険に扱えないし、公爵令息も同様だ。

 王弟殿下には、『隠しキャラ』の名の通り、隠れていていただこう。


 タウルス君は、お父様が騎士団長ではあるが、平民だ。

 王都のどこかに住んでいる。どこなのかは、ゲームに出てこないので全く分からないが。

 『お父様が騎士団長』ってところから辿れないかな? 何か方法ないかな?



 あと気になるのは、ヒロインは『両親を事故で亡くし、天涯孤独』という身の上だった筈だ。


 だが私には、祖父母が居る。

 お店の改装の間、私を預かってくれた祖父母だ。因みに、父の両親だ。

 母方の祖母もきちんと居る。祖父は残念ながら、若くして他界してしまっているが。

 他にも、おじもおばも居る。イトコも居る。


 『天涯孤独』には程遠い。


 もしも両親が事故で亡くなってしまったとしても、親類縁者は十人以上居る。

 それとも、おじさんやおばさんやいとこたちも、皆死に絶えてしまうのだろうか? いや、幾らなんでもそれはないだろう。


 なら、何故『天涯孤独』なんて設定だったのか。


 ……これは、考えても分からない。

 しかも、作中でヒロインの両親がいつ死んだのかは、はっきりと明言されていない。何の事故だったのかも。

 防ぎようがない。


 これはもう、ここが『悪ふざけコメディ時空』である事に賭けよう!

 コメディ時空に、悲しい過去など似合わない! コメディ時空には笑顔だけあればいい!


 お願いします、神様……! これだけふざけた世界を創りあげたのですから、ヒロインの境遇もふざけたものが相応しい筈です……!!


 物語の『ゲーム転生』の人たち、いいよなぁ……。そのキャラの詳細な過去とか知ってて。

 私の場合、元が『記号みたいなキャラ』だから、プロフィールなんてあって無きが如しだもんなぁ。

 テキストベースのゲームなら、もっと設定とか分かったんだろうけども。……いや、この世界観で設定詳しく盛られても、頭痛が増すだけな気がするな……。



 両親の事はもう神頼みしかないとして、私(肉屋ヒロイン)の攻略対象であるタウルス君の事は、私が何とかしなければ!


 『物語の強制力』とかがあるのだとしたら、私は十六歳で肉屋を一人で切り盛りしなければならないのだ。

 そこに眩暈がしそうなレベルのアホの子(という名の攻略対象)なんて、本当に営業の邪魔でしかない。


 何とかして探し出さねば……!


 使命感を胸に、私は自転車に乗り王都を行くのだった。



 フローラちゃん(ハナちゃん)の過去語り、まだ続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] こんなにアh…脳天気な世界なのに…お父さんお母さん… (´;ω;`)ウッ…
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