6.色札の鳥
緑の鴉が広げた翼の付け根目掛けて、地上の捕方(警官)が小柄を投げる。少女エルフを抱えた鴉の青年は、避けることが出来ない。
そこへ、おろくが咄嗟に飛ばした黒札が向かう。黄色札の鳥だ。勢いよく手元を離れた小さな札が空を切る。
おろくは声も気配も魔法で隠していたが、飛ばした札はその効果が切れていた。
「なんだ」
「なにやつ」
「どこだ」
捕方連中が色めき立つ。
「おろく、何やってんだよ」
「うるさいね」
ダイダイの文句を聞き流す間にも、小柄は上空の鴉兄妹へと向かう。
あわや小柄が羽に当たるや否やという刹那、描かれた黄色い鳥が札を抜け出し輝いた。
「うわっ」
緑色をした鴉の青年は、黄色い鳥の放つ光に驚く。
「さっさといきなっ」
黄色く光る鳥は、図案化された鳩なので、見た目はとてもユーモラス。しかし、その羽は力強く、捕方が投げた小柄をはたき落としてしまった。
「かたじけない」
風に載せて礼を述べると、緑の鴉は力強く羽ばたいた。庭に激しく渦が起こる。屋敷の木々がごおっと音を立てて揺れる。
枝から千切れて巻き上がる木の葉が、渦を離れて地上の捕方を襲う。足元の小石が礫のように飛んでくる。
「おろくっ!置いてくぞ」
その隙に出口へと走り出すダイダイ。
「ふん」
おろくは鼻で笑って、悠然と庭の坂道を降りてゆく。
気配も音も消しているのだ。
唯一気づく可能性のある、ジンザと呼ばれた中年ヤクザは、とっくに逃げてここにはいない。
おろくが捕まる筈はなかった。
その時、屋敷の二階座敷から、奇妙な唸りが聞こえた。ほんの微かではあるが、キュイーンという回転音が漏れて来る。
「なんだい、嫌な気配だねえ」
「ゴーレムか?」
「違う」
音の出所を探って、おろくが眉を寄せる。
「なんやら、ぞっとしないねえ」
「ぐずぐずしてっと、やべえことになんぞ」
ダイダイのオレンジ色の毛が逆立つ。おろくもぶるるっと肩を震わせて足を速めた。
屋敷の前では、お縄になったヤクザ者達が数珠繋ぎにされていた。逃げ去った鴉の兄妹については、ひとまず捨て置くらしい。
捕方の連中は、回転音が聞こえないのか、特に二階を見上げることもない。淡々と罪人を縄で繋げてゆく。
のんびりしていたら、あの行列が出口へと向かうだろう。もっとも、おろくが入り込んだ秘密の裏口とは反対側の、表門から堂々と出てゆくのだが。
そそくさと逃げ出すダイダイとおろくを、二階の格子窓から覗く者がある。丸窓に嵌った廓みたいな弁柄格子が、奥の暗闇を切り出している。
よく見れば、一対の苔色をした瞳が、薄暗い座敷の窓際で意地悪そうに光っていた。
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