5.鴉の兄妹
あとがきに挿絵がございます
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鴉は歳経て人の姿をとることもある。人の姿になれる鴉はそれなりによく見かけるので、単純に鴉と呼ばれている。
彼等の背中には羽が生えている。人の姿のまま飛ぶこともあり、鳥の姿へと戻る時もある。
鴉は元々雑食だ。そして、人の近くで暮らしている。山の鴉が人の姿で町を訪れることもあるが、そんな時には町の鴉がサポートするようだ。
鴉たちが人として暮らしてゆく上で困ることは特に無い。
「混じりもんなのに羽はねえんだな」
「あったら飛んで逃げるでしょうよ」
「エルフと鴉の幻術も使えなそうだしな」
「使えたらそもそも捕まんないだろ」
有翼ではあるが人の姿で過ごす鴉たちは、時に人間や他の人型生物と縁を結ぶ。そうして誕生した子供たちを、混じり物と言って蔑む。
混血すると、種族特有の能力や体力等が低くなる。それで、劣ったものとして扱われてしまうのだ。
「魔法石を探し出す能力はあんのにな」
「そうだねえ」
「才能はあんのかもなあ」
「魔法連合にスカウトする?」
「何、おろく弟子とんの?」
ダイダイがギョッとしてつぶらな瞳でおろくを見つめる。
「さてねえ」
「へえ、珍しい」
「なんだよ」
「おろくが人の面倒見るなんてよ」
「はああ?失礼な猫畜生だよ」
なんだかんだと揉めていると、突然大きな羽音がした。
「おや、上空もガラ空きかい」
「おろく、チェックしなかったのかよ」
「別にどっからでも逃げられるからね」
「小憎らしい魔女だぜ」
ダイダイの悪態は無視して、空から来た有翼の人を見る。緑の髪に緑の羽の鴉だ。眠そうな眼差しが渦中の少女エルフとよく似ている。
髪色は少女よりやや暗く、カーキに近い緑だ。瞳は灰緑色、翼ははっきりとした緑色。
地味な着物に刺し子の袴をつけ、手には指抜きの黒い革手袋を嵌めている。
紫の襦袢を襟元に見せて、灰水色のマフラーで口元を覆っていた。これは飛行時に埃を吸わない為だろう。
そして足袋は水色、草履の鼻緒は萌葱色だ。
「あたしらも逃げるかね」
鴉がエルフを抱えて飛び上がるのを見て、おろくはダイダイに声を掛けた。
「さっさと飯にしようぜ」
「何言ってんだい。これから稼がないと無いよ」
おろくは、このお屋敷で一稼ぎする予定だったのだ。
「ちぇ、一文なしかよ」
「宵越しの銭は持たないのさ」
「とんだヤクザ女だな」
「うるさいよ、猫畜生。連合の太鼓持ち野郎が」
「帰るぞ」
「指図すんな」
袂を翻して行先を変えたおろくの後ろで、ヒュウっと金属が風を切る音がした。
おろくは体を捻って、はっと振り向く。
「ちっ」
おろくは黒札から黄色の鳥札を親指で繰り出すと、人差し指と中指で挟んでシュッと投げた。