4.魔法石
後書きに挿絵がございます。
苦手な方は画像非表示でご覧下さい。
紫色の半眼で気怠い顔立ちをしたエルフが、ぼんやりと人に揉まれている。ウェーブでボリューム感がある緑の二つ結び縦ロールが、華奢な肩にほよほよあたりながら揺れる。毛先の茶色に向かうグラデーションが、森の風情を漂わせている。
「なんだあ?あのガキ、何ぼーっと突っ立ってやがんだよ?」
オレンジ色の猫が言う。
「いきなり連れて来られた挙句に、捕物が始まっちゃったからじゃないのかい」
おろくは猫を咎めるようにチラリと見た。
「はあー?よええな」
「あのくらいの女の子じゃ普通だろ」
「エルフだぜ?おろくより歳上かもしれねえ」
「長寿種だって子供は子供さね」
納得できないで髭をぴくつかせるダイダイと言い合いながら、おろくは気配を消したまま尚も歩を進めた。
エルフ族の特徴である尖った耳が、少女の溢れた前髪を分ける。ウェーブした緑の髪が、青白い顔の周りで面倒臭そうにふわふわしていた。
耳にピアスはしていない。鼻は小さく可愛らしい三角形だ。真一文字に結んだ薄い唇も、気力の無さを表している。
「それにしたって眠そうじゃないか」
「案外大物かもね」
「あんな目にあってんのによく平気だなあ」
「可愛いなりして肝が据わってるよ」
表情がはっきりと見える距離まで近寄って、おろくは意見を変えたらしい。
2人の会話はおろくの魔法で周囲には聞こえない。二枚歯の小粋な黒下駄も魔法で音を消して、おろくとダイダイは青い紅葉や山吹の茂みを抜ける。
まだ幼さの残る少女エルフは、百合を伏せたような形のベージュのワンピースを着ている。短い裾は、膝の遥か上だ。重ねられた濃い茶の薄布は、胸元で並ぶ薄茶のビーズで華やぐ。
右肩には濃い紫のマントをカーキ色に染められた革紐で吊るす。足元は厚底のサンダルで、黄緑の革が愛らしい。脹脛の中程までを、緑のリボンでクロスしながら止めている。右足首には紫色、左足首には茶色のアンクレットを付けていた。
「すんごい魔法石だね」
「混じりもんが捕まったのはあれのせいか」
おろくと猫は、少女エルフの足首を飾る丸い飾り石に目を見張った。それは魔法エネルギーが固まった物体で、魔法石と呼ばれるものだった。
魔法石は必ず球の形をとる。発見されるのは地中であったり、海底であったり、様々だ。キラキラと輝くので、鴉の巣から見つかる時もある。
鴉の集める魔法石は、特に品質が良い物が多い。
含まれる魔法エネルギーの純度が高ければ魔法石の透明度が増す。また、その量が多ければ、大きくなる。
透き通って大きなものは、よく光るので鴉が大好きなのも不思議ではない。
「半分でも混じってりゃ、他の生きもんより魔法石見つけんのは得意だろうぜ」
「鴉の集める魔法石に外れはないね」
目の前に居る少女は、見た目は完全に森のエルフだが、纏う気配に違わず鴉の血も確実に現れているようだった。