12.鴉の山とエルフの森
面倒見のよいおばさんに鴉の軟膏を塗って貰って、おろくは怪我の手当を終えた。
鴉の軟膏は、普通の薬よりもよく効くのだ。それほど珍しい薬ではないが、材料になる薬草は鴉の里がある山にしか生えない。
わざわざ山奥まで採りにくるほどの効能はないので、里の外からその薬草を求めて来る者はいない。
「私たちを助けたばっかりに、おかしなものに追われてしまい、本当に申し訳ないことです」
理吉が申し訳なさそうに言う。おろくは勢いよく否定した。
「なに謝ってんだい!こっちは余計なお世話だったかもしれないけど、理吉っつぁんは命を助けてくだすったじゃないか」
「いえ!羽をやられていたら、それこそどうしようもなかったのですよ」
「いやでも……」
井戸端で押し問答をしていると、周りの鴉たちが不思議そうに訊いてくる。
「なんだ、理吉。何があったんだ」
「おつなが森で攫われて」
「それはさっき聞いた」
「助け出す時、おろくさんに世話になったんだ」
「へえ」
「翼に向かって刃物を投げられた時、おろくさんの珍しい魔法で打ち払ってくれたんだよ」
理吉も里の皆には砕けた話し方をするようだ。
そしてどうやら、兄妹らしき眠そうなエルフ少女はおつなと言うらしい。理吉はおつなを連れて一旦里に戻り、助けてくれたおろくが心配になって戻ってくれたのだ。
「だけど、あんな凄い魔石身につけてりゃ、狙われるよ」
「おろくの言う通りだ」
おろくとダイダイは、呆れたように理吉に向かって意見した。
「ああ、それは仕方ないのです」
「ええ?」
理吉の答えにおろくは不審そうな声を出す。
「おつなは飛べないですし、鴉やエルフの秘術を使う魔力も無いですから」
「魔力なんかなくたって、生きてけるんじゃあないのかい?」
「魔力だけあったって仕方ないだろ?」
おろくとダイダイの疑問に、理吉は緑の羽を震わせて悲しそうに言った。
「それが、鴉の山もエルフの森も、魔力が無いと住んでいられないのです」
「なぜ?」
「どうしてだい?」
おろくとダイダイの声が重なった。
「何故かはわかりませんが、魔力の無いものは山や森に長く居ると、具合が悪くなるのですよ」
「へえー、そりゃ大変だねえ」
「それにしたって、あんな目立つ持ち方したら盗ってくださいって言ってるみたいじゃねえかよ」
「ええ、まあ、それについては反省しているのです」
困ったように眉を寄せる理吉に、里の皆が追い討ちをかける。
「だから言ったろ」
「今回は無事逃げ出せたから良いようなものの」
そんなふうにわいわいと里の鴉たちに案内されて、おろくとダイダイは里長の家にやってきた。
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