1.黒札おろく
小畠愛子さんのカドゲボドゲ企画参加作品です
黒札というゲームが、門海の町で流行していた。ゲーム自体は、子供でも楽しめる普通の札集めゲームである。
しかし、困ったことにカドミの町民はみな賭け事が大好きだったのだ。
茶柱が立つか立たないかで朝食のお茶を一杯賭ける。午後雨が降るかどうかで、傘を賭ける。そんなのはまだ可愛いほうだ。
賭け事は結局のところ、金銭のやり取りから人身売買にまで至る。当然、ご法度(禁止)となる。
ご法度だろうがなんだろうが、人々は大小様々なものを賭けて楽しむ。勿論隠れてではあるが。
今、虫喰い長屋と呼ばれる集合住宅にある日陰の部屋で、紫がかった灰色の髪を無造作に流した女が、小さな黒い札を並べている。
女の前には、オレンジ色をした子猫がちょんと座っていた。
「ふうん。これがクロフダかい」
「そうさ。綺麗だろ」
人の言葉を話すオレンジ色の猫は、興味深々に小さな札を眺めている。
「七色の札と黒札を集める遊びだよ」
「遊びねえ。これで食ってんだろ」
「遊んで暮らせりゃ、万々歳さ」
「全く呆れた女だな」
「いいじゃないか」
「こっちの仕事は進んでるんだろうな?」
「やってるよ、うるさいね」
「ほんとかよ」
「心配しなさんなって」
「あんまりサボると魔法連合に報告するぞ」
「サボっちゃいないよ、しつこいねえ」
オレンジ色の猫は、不満そうに黒札をつつく。
札は、女性の小指程の長さで、幅は親指の爪4つ分くらいだ。やや厚みのある硬い紙で出来ている。
一組のカードに黒札は3枚。裏も表も真っ黒である。
色札は6枚ずつ。裏側は総て黒だった。
札は全部で45枚だ。
色札には、虹と同じ7つの色がある。色がついているのは表側の模様である。
色札の表には円、四角、三角、星、月、花、鳥が黒の中にそれぞれの色で描いてある。
鳥は図案化した鳩のような柄である。
花は、色によって違う。
赤は薔薇
橙はガーベラ
黄は向日葵
緑は春蘭
青はブルーベル
藍はメドウセージ
紫はラベンダー
である。
黒札には模様なし。地紋すらない。ただ真っ黒に塗ってあるのだ。
遊びは2〜4人程度で行う。
手札は七枚。
山から引いて一枚捨てる。
七色の色札の同じ色全柄と黒札一枚が揃えば8枚目は捨てないで揃いとする。揃った人がそのまま勝ちとなる。
揃いが出たら試合はそこで終わり。
賭けをしている場合には、揃いを出した勝ちの総取り。
札を総て配り終えても役なしなら、札を配る親の勝ち。
揃いなしでも役があれば、高い役の勝ち。
役は次の通り。
(上から強い。点数はない。組み合わせもない)
一色の全柄
全色の花
全色の色違い同じ柄
黒札3枚
月花星→同じ色で揃うこと
円三角四角→同じく同じ色で揃うこと
賭け事は、単純なほどはまるものだ。黒札は、1番強い揃いが出にくい一方で、ルールが札を集めるだけとシンプルだ。役の種類も少ないこの遊びは、あっという間に賭場の花形となったのだ。
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