夏の日の記憶
紺碧の空の真ん中で、太陽がお昼寝している。
そよ風が草むらを撫でると、サワサワと気持ち良さそうに揺れた。
ひたいから流れ落ちた汗が目に入ってきて、僕は思わず目をこすった。
目を開くと、日差しが光の束になった。
暑い夏の日。
肌がジリジリと日に焼かれ、暑さが体の中に染み込んでくる。
大きなけやきの木陰に入ると、ひんやりとした空気が僕を包んだ。
気持ちいい。
木陰は、他の日陰より涼しいように感じる。
何故だろう。
きっと、この青々と茂った葉っぱのせいだ。
濡れたように青く光る緑葉が、冷たい空気を降らせているに違いない。
こうしてけやきの下で休んでいると、色々なことがどうでも良くなってくる。
一学期が終わっても馴染めずにいるクラスのこと、サボってしまい行きづらくなった部活のこと、漠然とした将来への不安。
そんな悩みは、まるでどこかへ行ってしまったかのようだ。
頭上で、セミがジジジジジーと大きな声で鳴いた。
僕は、あることを思いついた。
そうだ、とっくに汗だくなんだから、もっと暑さを楽しもうじゃないか。
炎天下でさ、走り回るんだ。
それから、帰って熱い熱いお風呂に思いきりつかるんだ。
きっと気持ちいいに違いない。
お風呂上がりに飲む麦茶のうまさも、また格別に違いない。
肌にぴたっと貼りついたTシャツをまくり上げると、汗を吸ったシャツの、あの独特な匂いがした。
Tシャツを脱ぎ捨て木陰から出ると、太陽の光を上半身いっぱいで受け止めた。
ああ、このまま暑さに溶けてしまえばいい。
見上げると、鳥が空高く飛んでいくのが見えた。
僕は思わず、その方角に向かって駆け出した。
草が剥き出しの脛をピシピシと打った。