第1幕ー7 ズルい人
マリアはあの夜会の後アルベルトが来た日には必ずやって来て、屋敷中を勝手に探し回り私達を見つけると間に割って入ってくるようになった。腕を絡めてべったりする様子はまるでそこが居るべき場所なのだと私に向けて主張している。
私は全く気にならなかったが段々王城で会う機会の方が増えてきた。
これまで婚約破棄される度にマルガリータに話してきたが、同じように彼もそこに同席して聞いていた。実際されるのは話に聞いていたよりも違うようで許可が無いと入れない王城で会うことを選ぶようになってしまった。
結婚式よりもその後の生活の事について話し合う必要があり、マリアが分からない話をするなと拗ねるので、まともに話ができないせいもある。
その日もアルベルトに会うために王城へ行って帰って来ると執事とメイド長が出迎えたのだが、雰囲気がいつもと違っていた。
「どうかしたの?」
「奥様がオリビアお嬢様が戻ってきたらすぐに応接間へ来るようにと」
「……伯母様とマリアが来ているのね?」
「はい。今はあまり気分の宜しい状況では無いので」
「分かったわ。この資料を預かっていてくれる?決して誰にも見られないようにしてね」
父へ渡すための資料を執事に預けドロテアを連れて応接間へ行くと母の宝石箱から出したアクセサリーを広げて伯母は鏡を前に試着している所だった。
「これ良いなと思っていたのよ。譲ってくれないかしら」
「え……でもそれは旦那様が結婚20年目の記念にくれた物だから……」
「結婚20年目っていつの話よ。もう使わないでしょう?」
「あー!オリビアちゃん!!どうして勝手にお城へ行っちゃうの?わたしもお城へ行きたかったのにぃ~」
そう言ってふくれっ面になった。私にとっては全く可愛くも何ともない、ただイラっとするだけである。
「呼ばれていない人を連れては行けないわよ」
「あら、侍女として行けば良いじゃない」
伯母が指輪を自分の指に嵌めて眺めながら話に割り込んでくる。
侍女として行くと言っても、この場合どちらが侍女になるのか……。
「酷いよオリビアちゃん。いっつもわたしをのけ者にして。わたしもアルベルト様と仲良くなりたいのに」
「全く…どうしたらそんな冷たい子に育つのかしら」
「いいの……許してあげる。仲直りのしるしにルフォルのテーブルランプが欲しいなぁ?」
「あらあら、マリアは優しいわね」
ルフォルという家具職人の工房で作られた物は人気があり1年先まで予約が埋まっている。申し込んで1年待ち、つい2・3日前にやっと手に入れたばかり。
まだ手に入れた事を話してはいなかった。マリアに話す事なんて無いのだけど。
「今から注文すると来年になるわよ?」
「え、でも……イラーナが」
「マリア!」
伯母が大声を上げマリアがビクッと肩を跳ね上げた。
「全く、何を言っているの…もう。来年でも構わないわよね?」
「……うん」
「イラーナって……」
「どこにでもある名前でしょう!いけない!急用があったんだったわ」
試着中のブレスレットやネックレス、指輪などをジャラジャラつけたまま立ち上がってマリアの背を押していそいそと出て行った。
母は少なくなった装飾品を片づけながら溜息を吐いた。
数日経ってイラーナは解雇されてしまった。
しょっちゅう職場放棄で居なくなってしまう事は以前から苦情として上がっていたが、他に行き場が無いという理由で母は同情して雇い続けていた。どうやら解雇の原因は父の書斎に入り込んだせいだという。
この日のドロテアからの報告ではイラーナはカレスティア邸へやって来て、カレスティア伯爵に紹介状を渡して雇われることが決まった。
紹介状は近々イラーナを切り捨てる時に用意しておいた物だ。過去にイベッテとイバンの前例があり、カレスティア伯爵はイラーナをマリア付きの侍女として雇ったというのだから丸く収まったのではないだろうか。
とにかく伯母やマリアはこの屋敷の情報を手に入れる方法を失った。あの2人の事だから散々こちらをなめくさっている事だし大した影響も無いだろう。
「でもまぁ、書斎に入ってしまったのは駄目よね。命があるだけ良かったのではないかしら」
「これから、どうなさるおつもりで?」
「そうねぇ……噂でも流してみようかしら。もう始まっているのでしょう?」
「アレですか。でしたらイバンに伝えておきます」
「やり方はイバンの手腕にお任せするわ」
時計を見るとそろそろマルガリータが訪ねてきてもおかしくない時間だ。玄関で待ち構えて驚かせてやろうと思って椅子から立ち上がるとタイミング良くマルガリータの来訪をメイドが告げに来てしまったのだった。




