第3幕ー14 同じ日同じ場所で幕は再び上がる
名を呼ばれ大広間へ入場する。シャーロットは私達の後に名を呼ばれて後に続いた。彼女のエスコート役はシリルの兄アランだ。アシュリーやシリルと同じく黒髪なのは同じだが、優し気な顔つきのシリルとは違い、眼鏡をかけているせいなのか頭の固そうな雰囲気を持っていた。
面会の時は居なかったが、彼は別行動を取っていて私達が話を終えて10分位後に合流した。この夜会が終わった後のことについて打ち合わせをしていたそうだ。
ほぼ同時に入場した私達を驚きの目で見る貴族達を尻目に国王へお祝いの言葉を告げる為に壇上へ上る。
王の隣の椅子にはまだ誰も座っておらず、いつもならば早々に側妃がそこに座ってしなだれかかっているはずである。支度に時間がかかるほど気合を入れてめかしこんでいるのだろう。
挨拶とお祝い言葉を述べ、壇上を降りて少ししてシャーロットが合流した。
挨拶がひと段落済んだ所でブリオネス公爵が王からの挨拶を読み上げようと1歩前に出ると側妃の入場が告げられた。一番最後の入場にまた違和感を感じる。王に愛されているのは自分なのだと主張していた側妃が最後に来たのだ。
相変わらずドレスは目のやり場に困るくらい胸元が開いていたけれど、顔色が悪く見えるくらいに化粧が濃い。笑ったらヒビが入りそうな勢いで厚化粧、それに長かった髪があごのラインまで短くなっていた。
側妃は壇上へ上がり王妃の椅子に座わりバサリと扇を広げ、王にもたれ掛かろうとして押しのけられた。
「……陛下?」
「……」
目を見開いて側妃は王を見たが何も無かったかのように前を向き座り続けているので気のせいだと思ったのだろう、再びもたれ掛ろうとして押しのけられる。
「……」
じっと王と見つめ合い、やがて機嫌が悪くなったのを隠そうとせずそのまま座っている。そこから降りるという選択肢は無いようだ。
悪くなった空気を変えるべく、やや早口でブリオネス公爵が王の挨拶の言葉を読み上げる。
大広間に居る貴族達は王と側妃に注目してブリオネス公爵の声は聴いていない。ついに寵愛が無くなったのかと囁く声もある。
ミリアムの件以来、側妃のやる事は失敗続きだ。むしろ何か行動を起こせば問題ばかり。エミリアをフォルトナとして表に出そうとして失敗してからは気味が悪いくらいに静かだった。
「……あれは誰だ? 王妃様では無い?」
「側妃のアデルミラ様よ。クラウディオ殿下のお母様」
「ああ、あの方が」
こそっと聞いてきたシャーロットに誰なのか教えると、ゆっくり深く頷きながらまじまじと見ていた。
音楽が流れ始め躍り出る人が出始めるとシャーロットの周りに人が集まり話しかけられる。シャーロットはにこやかな笑みを浮かべ彼等と会話し、婚約者の居ない彼女の伴侶にどうだと自分達の息子を紹介する人も出た。彼等は私とアルベルトがシャーロットの傍に居るのが気に入らないのか早くどこかへ行って欲しいと言わんばかりに睨まれた。
するとシャーロットは私やアルベルトに意見を求めてくる。そうする事でクラウディオに婚約破棄を宣言されたプレディエール国の王女は、私を通じてクラウディオの兄王子と繋がりを持とうとしているというアピールになった。
実際イザベルの婚約者はプレディエール国の人だからこそだ。
その一方でシリルとアランの風貌はベラーク国の貴族達を動揺させていた。家名が“クロウ”である事と黒髪に金色の目を持つ風貌はこの国の悪女として名高いセシリア・クロウを彷彿させるのだ。
セシリア・クロウは彼等の先祖に当たるから間違い無いのだが、黒髪に金色の目は他には無い色の組み合わせなので異様に見えるというのもある。プレディエール国では王の覚えめでたい家というのもあり、いろんな意味で注目を浴びている。
ここから少し離れた場所では残った側妃派がクラウディオとエミリアを取り囲み談笑しているのが見える。見ていたらエミリアがこちらに気づいてニィと笑みを作りクラウディオの腕を引いてこちらへやって来る。
シャーロットも気づいて緊張したのが伝わってきた。
「アル様~楽しんでいらっしゃいますか?」
挨拶もせず親し気にアルベルトに話しかけるエミリアに周囲は凍り付く。国賓であり、エミリアの祖国の王族のシャーロットを無視した形だ。
婚約解消をするためだけに来たシャーロットは無理難題を押し付けず、全ての約束事を解除させるだけで終わらせた。恥をかかせたクラウディオに対し、怒って慰謝料を突き付けてもおかしくないのにだ。
ベラーク国に住む人達にとってシャーロットは心の広い未来の女王である。
それを無視したエミリアは元から評価が低く、上げるどころか下げる行動しかしていない。ついでに言えば、エミリアが原因で婚約が解消されてしまったので恨みすらあった。
シャーロットに視線を向けると彼女は小さく首を横に振った。
「どうせ最後の夜だ、好きなようにさせてやれ。あのアクセサリーはわたしがここにいる限り、ただの装飾品だ」
アルベルトも流石にエミリアの行動に固まったが、シャーロットの様子と私が頷いて彼女の相手をするように促した。
「それなりに楽しんでいる。有意義な話が聞けるしな」
「そろそろ会話も飽きたんじゃないですか?良かったらワタシと踊りませんか?」
「エミリア・バルバーニー、久しいな。楽しんでいるか?」
「あ、シャーロット様、お久しぶりですね」
今初めて気づいたとばかりにエミリアがにこやかに、かつ近しい友人のような挨拶を返し周囲を更に凍り付かせるのだった。
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