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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第2幕
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第2幕ー3 側妃のお茶会(上)

 側妃とは誕生祭の際に1度言葉を交わしただけで、これといって親交が無ければクレーエ家が側妃派という事でも無い、むしろ中立派。彼女との繋がりなんて無いのである。

 中立派を取り込むつもりではと考えもしたが、それ以前にアルベルトと婚約しているので取り込みようが無いと思うのだ。


 そもそも降霊祭が終わるとすぐに年末年始に向けて受注が増えるため商会は猫の手も借りたいくらいにとにかく忙しい。姉達が帰って来てすぐどこかへ行かずに屋敷に留まっているのもそのせいだ。

 年末はまだ先少しだが、時間はあっという間に過ぎる。気が早い人は誕生祭の準備が終わってすぐに年末の準備に取り掛かっている。ピークである今は私も手伝う。主に裏方として。


 アルベルトと会う時間はあっても側妃のお茶会に付き合う暇は無い。側妃と仲良くなりたく無いし。

 それ以前に自分をモデルにして作った女神像を神殿に設置して喜ぶような人は無理。欠席で決まりだ。


「あらぁ?お茶会の招待状?」


 ひょいと持っていた招待状を取られ後ろを振り向く。いつの間にか私の部屋に入って来ていたリリアナがそれを見て目を細めた。


「……リリアナ姉様。音もなく勝手に背後に忍び寄らないでくれる?」

「良いじゃない。あ、同伴者も連れていけるのね。じゃあわたしが行こうかしら」

「勝手に決めないでよ」

「こういうのは参加しておいた方が良いのよ?社交は大事なんだから。それにオーリと2人で出かけるなんてあまり無いし。だから出席するわよ」


 こうして私はリリアナを同伴者にして側妃のお茶会に参加する事を決められてしまった。リリアナ監修で着る物等は全て決められて王城へと向かった。

 お茶会として用意されたサロンには既に多くの側妃派の家の夫人、令嬢達が揃っており私達が入室すると一斉に注目される。彼女達はあからさまな嫌悪感を露わにした。


 その中には側妃が生んだ子であるミリアム王女の姿もある。

 側妃と雰囲気の似た少女で、母親譲りの黄金のような金髪は緩く癖があり、青緑色の釣り上がった目が勝気な印象を持たせている。質の良いチョコレート色のドレスを着て令嬢達に囲まれていた。

 そんな中メイド服姿のフェリシアナがお茶を入れる為の道具を乗せたワゴンを引いてくると彼女達は顔を見合わせてクスクス笑う。


「意地の悪い顔だこと」


 ボソッとリリアナが呟いた。


 お茶会は立食形式になっており、好きなお菓子やお茶を選ぶ事が出来る。並べられたお菓子は全てフェリシアナが作った物だろう。ワゴンの前で無表情に黙々とお茶を淹れている彼女をまた令嬢達がチラチラ見ながら小声で話し、笑う。

 その輪からミリアムが出てきてフェリシアナの前に立ち、カップに入っていたお茶を浴びせかけた。


「こんなぬるいお茶を出すなんて何を考えているの?まともにお茶も淹れられないの?妹として恥ずかしいわ。役立たずの王女なのにメイドとしても役に立たないなんて」

「……申し訳、ありません」

「ま、まあまあ…ミリアム様。お気を鎮めて。そうだ、あちらのお菓子は素晴らしいですわね。流石お城の菓子職人は腕が良いこと。初めて見るお菓子ばかりなので、宜しければおすすめを教えて頂きたいですわ」


 どこかの夫人がミリアムに話し掛けて連れて行った。ひと塊になっている令嬢達はそれを見て更にクスクス笑うのだ。行かなければ良かったと思うくらいに気分の悪いお茶会だった。


「失礼ですが、もしやクレーエ家の方でしょうか」

「ええ、そうです」

「わたくしパトリシア・カベサスと申します。少しお話しても宜しいかしら」

「私はオリビア・クレーエ、こちらは姉のリリアナ・クレーエ」

「お2人共よろしくね。早速だけど、フェリシアナ様を助けに行ってはいけないわ」


 内緒話をするように接近して扇で口元を隠しカベサス夫人が言い出したので私達は眉を寄せた。フェリシアナも王女だ。それなのに誰も手を貸そうとしないどころか笑っている。

 彼女は視線を側妃へと向けた。何も起きていないと言いたげに側妃は時折笑い声を上げながら会話をしている。


「何故、と言いたいのはよく分かるわ。前にフェリシアナ様を助けようとした夫人がいらしたのだけど、翌日彼女の旦那様が不正を働いたという事で家が取り潰されたわ。だから誰も何も言えないし、何が起きても見て見ぬ振りをしなければいけないの。このお茶会はそういうルールなのよ」

「……貶めるのを見て楽しんでいるという事ですか」

「わたくしだって心苦しいわ。……できれば今回も欠席したかったくらい」


 頬に手を当てて溜息を吐く姿が白々しい。確かラウルにフェリシアナを紹介されたはずだが気に入らないのかもしれない。王女とはいえ王女らしさの欠片も無く、カベサス家にとって王妃が生んだ王女は気に入らないだろう。むしろミリアムを紹介された方が受け入れるかもしれない。


 突然出入り口の方からラウルが姿を見せて令嬢達が黄色い声を上げる。それらの声を無視して彼は真っ直ぐ側妃の方へ歩み膝をついた。


「ラウル・カベサス、命により参上いたしました」

「そんな畏まらなくても良いわ。さあ、立って」


 側妃はベルをチリリと鳴らし注目を集めた。


「皆様、重大な発表がありますの。私の娘ミリアムとラウル・カベサスの婚約が内定しましたの」


 ワッと拍手とお祝いの声が上がる。カベサス夫人は驚いて扇を落とし、フェリシアナが駆け出して場を後にした。ミリアムはラウルの隣に立ち上機嫌で彼の腕に手を伸ばす。


「お断りします」


 その手を払いのけてラウルが言った。手を振り払われたミリアムは先程まで上機嫌だったのが一転目を吊り上げて彼を睨みつけた。


「この縁談はお断りします。ミリアム殿下よりフェリシアナ殿下の方をお慕いしていますから」

「な…な、な、なななななんですって!あたくしよりもあの役立たずの王女が良いと言うの⁈侮辱だわっ!誰かこの男を捕まえて牢へ入れて頂戴!!」


 顔を真っ赤にして怒ったミリアムが大声を上げて騎士を呼び、ラウルは後ろ手に拘束された。


「ああ……なんて事……」


 カベサス夫人が気絶して倒れ込み、それをリリアナと2人で受け止める。その前を縄で縛り上げられたラウルが母親が気絶したのに気づいて近寄ろうとして仲間だった騎士に止められ去って行った。


 場は騒然とし、青ざめる人多数だ。そんな中、顔を赤くしたまま憤慨しているミリアムの肩に手を置いている側妃は薄っすら笑みを浮かべていた。

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