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オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第2幕
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第2幕ー2 恋する王女

「それで、何があったんだ?」

「…………。じ、実はある騎士様に呼び止められて、その……ずっと見ていた、と」


 俯いて何故か顔が赤くなるフェリシアナ。

 どう考えてもその相手は危ない人ではないだろうか。ずっと見ていたとか怖い。アルベルトも同じ考えに至っているようで嫌そうな顔をしていた。


「だ……誰に、そんな事を言われたんだ?名は何というんだ。ちょっと叩きのめしに行ってくるから」

「あああ…そうでは無くて。その、ええと……わたしも最初はずっと見られているなんて怖いと思いました!でもミリアムが騎士団に差し入れしている食べ物をわたしが作った物だとどこかで知ったようで、働きぶりなんかも見られてて…………その……嫁に来ないかと」

「は?誰に?」

「ラウル・カベサス様、です」


 フェリシアナは更に首も腕も赤くなり、思い出して恥ずかしさのあまり両手で顔を覆ってしまった。思わぬ相手の名前に私とアルベルトは視線を合わせる。


 ラウル・カベサスを知らない人はいない。何故なら彼は令嬢達をときめかせている美貌の持ち主なのだから。

 中性的な顔つきで深い森のような緑色の瞳と金髪の長い髪を三つ編みにした姿が本の中に出てくるエルフのよう。しかも花形である第一騎士団、つまりは近衛騎士であり、カベサス侯爵家の嫡男という肩書もあって令嬢達は虎視眈々と妻の座を狙っているのである。

 何せ王太子はプレディエール国の姫と婚約しており婚約者の居る国に留学中、もう1人の王子であるアルベルトには私という婚約者がいる上に王都追放の予定まであるのだから彼が狙われているのも仕方が無いのであった。


 まさかラウルが胃袋を掴まれてフェリシアナにプロポーズするとは誰も思うまい。知った日には涙に暮れるか、嫉妬して嫌がらせをし始めるに違いない。それくらいラウル・カベサスは令嬢達に人気がある。


「ラウル・カベサスか。フェリはどうしたいんだ?」

「叶うなら、申し出を受け入れたい、です。わたしもずっとお慕いしていましたから。でもわたしなんかがお傍に居て良いのかと。わたしは全く王女らしくありませんし。手なんてこんなにガサガサですし」


 彼女は視線を自身の手に落とした。カサカサしているけれど、言うほど酷い荒れでは無い。


「フェリ次第だな。カベサス家は側妃派だが、派閥の垣根を無くすという理由を付けてやれば何とかなるだろう。最近はそういった動きがあるらしいしな」

「……良いのでしょうか、望んでも」

「フェリは少しくらい我儘を言っても良いくらいだな」

「わたし、今からお伝えしてきます!」


 パッと立ち上がって駆け出して行った。目立つ赤色の髪があっという間に見えなくなる。

 あの木々の向こう側で恋が成立する瞬間か……。


「ちょっとお花を摘みに……」

「花なら目の前にあるから必要無い」


 手をぎゅっと掴まれて止められた。

 アルベルトが今まで見た事がないくらいとても良い笑顔を向けている。私が何を考えていたのか想像がついたらしい。



 暫く日にちが経って、人目の付きにくい場所でラウルとフェリシアナを見かけるようになった。遠くから見る限り2人共幸せそうで、この調子ならば上手くいくのではないだろうかとすら思っていた。


 時折フェリシアナとすれ違うか話す機会があったが、恋をしているのが目に見えて分かるし、最初に会った時よりも美しく見えた。相変わらずメイド服姿ではあったけれど、幸せそうにラウルの話をする彼女はとても輝いていた。


「ラウル様ったらこの前とてもしょんぼりしていらしたものだから、どうしたのか聞いてみると、わたしが作ったお夜食をお仲間に全て食べられてしまったのですって」

「1つも食べられなかったのですか?」

「そうなのよ。お夜食にリクエストされていた物だったから。少しつまみ食いされていたのが、いつの間にか全部綺麗に無くなってしまったって。それを聞いたらしょんぼりしているのが何だかとても可愛らしくて」


 しょんぼりしているラウル・カベサスを想像してみたが全く浮かばない。綺麗すぎて人形のように無表情な顔しか思いつかない。

 しかしフェリシアナの前では違うらしい。もしかしたらフェリシアナだけが分かるのかもしれないが。


「あと、ラウル様のお母様にもお会いしたの。わたし達の様子で感づいたみたいで認めないと言われてしまったけれど、ね」

「そういえば王妃様は何も仰らないのですか?」

「母上は……そうね、特に何も」


 フェリシアナは視線を魔法師棟へ向けた。他国と違い普通に使える簡単な魔法すら使えないベラーク国に居るたった3人の魔法師。噂ではベラーク国民が魔法を使えない原因を調べているとか、人体実験を繰り返しているとか不穏な話しか耳にしない場所だ。

 まさか、と思ったが口に出せなかった。


 それから暫くは私も父が手に入れた住む予定の領地の場所を知り、情報を収集し計画を立てたり、自分で立てた計画の方に集中していたので話す機会がぐっと減ってしまった。たまにフェリシアナの姿を見かける事はあったが、国王誕生祭の準備で忙しいのか掃除用具を片手に歩いていた。


 立て続けに続いたイベントや後片付けが終わり、やっと落ち着きを取り戻した頃、私の元にお茶会の招待状が届いた。

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