表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オリビア・クレーエ  作者: ならせ
第1幕
1/52

第1幕―1 婚約破棄される令嬢

初投稿です。

よろしくお願いいたします。

 18歳の誕生日を迎えた日、私は婚約者に婚約破棄を言い渡された。

 母方の従妹であるマリアが運命の相手だからという理由である。ちなみにこれを聞くのは5回目である。

 5度同じ相手から言われたのでは無く、5人から同じ理由で婚約破棄されたという意味だ。

 わざわざ私の誕生日に言うなんて空気の読めない男だとか、持参金目当てだったのに大丈夫なのかなど思ったりもしたけれど、運命とか言われてしまったらどうする事もできない。そういう事なのであっさり了承したのだった。



 クレーエ伯爵家の3女として生まれた私はオリビアと名付けられ、両親、姉達に愛されて育った。国最大の商会を持つ我が家は裕福だ。

 何でも与えられていた私の敵は幼いころからマリア1人である。

 綺麗な物も可愛い物もマリアに見つかれば奪われ続けてきた。同じ物を持っていたとしても少しでも私が持っている物の方が良いと感じたら、そっちを欲しがり色んな手を使って奪っていく。


 マリアは生来からの欲しがりであった。

 親の付き合いで出席した夜会やお茶会でも他人の持ち物でマリアの琴線に触れた物ならば何でも欲しがる困った子であったが、成人を迎える頃には落ち着いて私の持っている物だけを欲しがる娘に育った。


 幼い頃から何度も母に泣きながら訴えたものだ。母はマリアに甘く「欲しいならまたあげるから」と言って許してしまう。

 ある時母にしつこく問い詰めた事がある。決まって母の答えは「だって可哀そうでしょう」だった。どこが、何が可哀そうなのかという説明は無く、ただただ可哀そうだから、それだけの理由で私がどれだけ気に入っていようが大切にしていようがマリアが望めば譲らされる羽目になった。


 物以外で奪われたのは15歳の時だ。初めて出来た婚約者をマリアが欲しがり周囲が困惑していたのを覚えている。はいどうぞ、なんて簡単にできる代物では無いからだ。

 流石のカレスティア伯爵夫妻も何人か候補になる相手を見繕ってみたがマリアは見向きもせず、その当時私と婚約していた男性が良いのだと言い続け困らせる。

 婚約者が私の元を訪ねて来る日を調べては連絡も無くやって来て、恋人のように振る舞う。好きだという態度と言葉で表されれば悪い気がしない。最初こそ困惑していた婚約者は次第にマリアの方へ想いを寄せるようになり、気づけば婚約者はマリアの恋人になり、けじめという事で私は婚約破棄をされるのだった。


 母方の従妹、マリア・カレスティアは美女の条件である黄金のように輝くブロンドの髪と快晴の空の色を写し取ったような青い目を持つ娘である。未だ少女のような雰囲気を持ち、男性の庇護欲を掻き立てる様な容姿を持っている。

 少し微笑むだけでどんな男性もマリアに見惚れてしまう。しかも父親は大臣という権力者。

 私が知る限り誰もがマリアを好きになる。それは5回も婚約破棄をされた私が感じた事実である。


 同じ金髪でも私の方は色の薄い母譲りの白っぽい金髪に金から緑へと変わっている奇妙な色の目。どこか気難しさを感じる顔つきは父にそっくりで、それが更に近寄りがたさを与える。並んで立てば私の方が存在感が薄まるくらい影が薄くなる。

 比べるまでも無く私では無く、彼女を選んでしまうのも仕方が無いと思う反面、屈辱を感じ続け体の内に怒りを燻らせ続けている。



 婚約破棄に係る手続きを速やかに済ませ、やっと落ち着きを取り戻した頃合いに友人から屋敷に来ないかと誘われ、その席で再び婚約が解消になった事を一応報告した。そしてその場にいた友人達に盛大な溜息を吐かれた。 


「懲りないわね。この調子で誰も破る事の出来ない記録でも狙うつもり?」


 私の隣に座って呆れた声を出す立派な縦ロールの令嬢はマルガリータ・ブロトンス。侯爵家の令嬢でとても気さくな方だ。私を誘った張本人でもある。

 他の参加者は私とマルガリータの幼馴染、アルベルト第一王子である。


 ブロトンス邸の一角の見晴らしの良い場所と美味しいお菓子とお茶を提供してくれたマルガリータに感謝しつつ呆れ顔で見る2人を見つめ返す。


「これでは賭けにもならないわ」

「おい、賭け事なんてしていたのかよ」

「やってないわよ。あるって事を知っているだけ。オリビアも抵抗とか取られないように努力とかしてみたらどうなの?」

「そう言われても。目の前であれを見たらどうでも良くなるよ……」


 私はその時の事を話してやることにした。5度も見ていれば一言一句間違えずに覚えている。他にバリエーションが無いのだから嫌でも覚えるというものだ。

 同席している2人にも何度も聞かせた話なので事細かに話す事は無いのだが、大体の状況は想像がつくようで微妙な間が流れた。


 苦笑いをして皿の上に積まれたマカロンを摘んだ。このマカロンのような恋物語の一節を目の前でされる気持ちを分かってくれるだろうか。

 私の婚約破棄は決まってマリアが描いたお決まりの恋物語そのものなのだ。もちろん私は捨てられる役だ。


「劇場で見るのなら感動する場面になるんだろうが……せめて2人きりでやって欲しいものだな」

「ちょっと待って。次の作品に使えそうとか思っていないわよね?いくら何でも自分の失敗談を……ねぇ?」

「それは思いつかなかったわ。言われてみればそうよね、これはこれでいいネタになりそう」

「やめなさいっ!」


 マルガリータに肩を掴まれて左右に揺さぶられ笑う。

 何を隠そう私は劇作家として活動しており、上演される演劇は後に現実として起きると言われている。日常等で見聞きした事を元に想像して書いているだけなのだけれど、どういう訳かそれは現実のものとなった。

 フォルトナという偽名を使い性別年齢も隠して活動しているのだが家族とここに居るマルガリータ、それにアルベルト、あとは劇場の支配人だけが知っている。


 言われるまで全く考えていなかったけれど確かに使えそうだと思う。マリアのせいで傷物扱いをされるのだから今までの鬱憤を消化する為に少しくらい使わせて貰っても文句は言えまい。今はまだ温めておいて、いずれ日の目を見る時があれば良い。 


「使うにしても、それだけでは弱いからお蔵入りになるわよ」


 使う為にはもっと他に面白くするための要素が必要だ。使いどころも間違えてしまっては全てが台無しになるのである。それに何度も同じ終わり方では人は飽きる。

 事実私はもう飽きていた。マリアの変わらないやり口に、同じ終わり方に。むしろマリアは飽きないのかと不思議に思うくらいなのだ。

 マルガリータもアルベルトも飽きている癖に私が実は傷ついていて、起きたことを話させる事で癒そうと気を遣っている。


 何か人が驚くような事が起きていれば話す方も聞く方も楽しいのだが、これといった特別な事は無い。

 とにかく私は退屈していたのである。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ