9話 娘の異変
子供の反抗する話は、どうも気が乗らなくて短くなります
美優紀も和樹も県下有数の進学校に入った。
美優紀は親の私が言うのも変だが、楽に入試に合格できたが、和樹はぎりぎりのようだった。私の手助けがなければ到底、合格基準に達してなかったはずだ。
娘はそのまま陸上部に入り、選手として活躍し始めた。地方大会には1年ながらも出場し、入賞するほどの活躍ぶりである。あまり運動が得意ではなかった私からすると、どうして我が娘が選手になれるのか驚きでしかない。特にハードル競争が得意で、秋の地区大会には優勝してくれた。
勿論、私は大会ごとに仕事を抜け、娘の応援を欠かすことはなかった。
優勝したとき娘と一緒に撮った写真は私の仕事部屋に飾ったのは言うまでもない。
ただ、どうも和樹との仲がこじれてしまった。
和樹は咲さんに似て、ハンサムに育った。中学の2年ころから急に背が伸び始め、すらりとした咲さんを抜き去ったばかりか、高校に入る時は私よりも高くなっていた。おまけに運動神経も良くて、帰宅部ではあっても校内の球技大会ではバスケやサッカーなどでは大抵クラス代表になっていたようだ。
当然そんな彼に言い寄る女子生徒は実に多かった。
そしてその中でも、他校のませた年上の女生徒に言い寄られ、深い仲になってしまった。年上の女性から優しい言葉を掛けられたら初心な男など舞い上がってしまう。女性にリードされるまま、行くところまで行ってしまった。美優紀には勿論隠しておいた。
だが、運の悪いことにそれを美優紀に知られてしまったのだ。
夜の公園で和樹がベンチで女生徒と肩を並べて座っていた。たまたまだったが、部活で遅くなった美優紀がその公園を通り抜けて帰ろうとした時、この二人を見つけてしまった。
破廉恥なことはしてなかったようだが、美優紀にもその様子がただならないことだとは分かる。
「和樹は不潔よ」帰宅し私に会うなり言い放った言葉である。
美優紀の潔癖感によって、和樹の評価はダダ下がりとなったのだ。
私も和樹の評判をなんとか取り戻してやりたいと思ったのだが、美優紀は耳を貸さない。
「もう、あんな奴と顔も合わせたくない」
朝、和樹が迎えに来て一緒に登校することもなくなった。
「俺どうしたらいい?」泣きべそ気味に私に聞いてきたが、これは自業自得だろう。
確かに可愛い子から声を掛けられれば鼻の下は伸びる。ちょっといい気になって、大人の真似をしたくなったのも無理はない。
どうやら、和樹は高校1年で、童貞を献上したようだ。
今の高校生でその関係まで行くのは早いのかどうか、私には分からない。ただ、美優紀にはその行為が極めて不潔に映ってしまったのだ。
和樹とは不仲となり、碌に目も合わさなくなったようだ。和樹との関係は最悪のものとなり、
10月2日は美優紀の誕生日だ。いつも咲さん家族と一緒に祝うのだったが、今年はなかった。
娘は友達に祝ってもらうと言って、いつもより帰宅は遅かった。親子二人だけでもいいと思ってもいたが、娘はその日の帰宅時間は8時を過ぎていた。
「ありがとう」私のプレゼントを受け取ると娘はそそくさと部屋に入った。
迂闊なことだったが、なぜこんな態度をとったのか私は気づかないでいた。
後で考えれば、これが美優紀とのヒビが入った日でもあった。
ただ、娘は部活動を続けていた。娘の陸上部での活躍は続き、2年になるとハードルにおいては県下でも鳴らすほどになった。
「こうなったら、全国大会にも行けるぞ」私の期待は高まるばかりである。
当然学校や周囲の期待も高まっていたが、夏休み入る直前になって、娘は退部すると言い出した。
「これ以上続けても全国では普通の選手にしかなれない。県では有名になれても全国では並み以下の選手でしかないわ。それなら、私は部活を止めて、勉強に専念したい」
娘は運動部に入っていても成績は上位をキープしていた。国立の有名大には入れなくても、並みの学校には入れるはずだった。
「無理に、勉強に打ち込まなくてもお前はやりたいことをすればいいじゃないのか」娘の活躍が見られなくなって、私は残念な思いだ。
「お父さん、私は看護師になって、医療活動をしたいの。将来、お父さんが動けなくなったら、私の手で面倒を見たいの」
娘の思わぬ一言だった。
それ以上、私は何にも言えなくなり、娘のやりたいようにさせた。