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6話 キャンプ

子供たちは順調に育っていた。小学校に入学し、一緒に登校するようになった。もう私が送り迎えすることもなく、和樹が朝一番にやって来て、美優紀を誘って登校するのが日課となった。

彼らも好きなことに次々と熱中した。美優紀は料理などに興味を持ち、私の横でシンクの前に立つのが多くなった。

「私用の包丁が欲しい」確かに家の包丁は美優紀には大きすぎた。私の見ている時にしか使わない約束で小さなものを与えた。

「お父さん。剥けたよ」始めてリンゴの皮を剥けた時、嬉しそうに私に言って来た。

「上手く、剥けた。これならすぐに良いお嫁さんになれる」そう言ってあげると、顔を真っ赤にした娘がまた可愛い。

和樹はサッカーに夢中だった。

「Jリーグ選手になる」なんてことも言いだした。

私はサッカーよりも野球が好きだ。貧乏だったので球場に行ったことはないが、ナイターをテレビで見るのが楽しみであった。

ただ、子供たちがサッカーをしているのを見ると、サッカーも悪くないなと思う。野球教室を見ると低学年の子供たちは外野で球拾いさせられていることが多い。そこに行くと、サッカーでは一つのボールをどの子も追い回し、じっとしている子はない。(うちのコーチの方針で低学年チームにはゴールキーパーを置かず、誰もが好き勝手にやらせていた)

おかげで和樹と美優紀はいつも走り回っているようにも見えた。

サッカースクールには小学時代はずっと通わせていた。学習塾よりも体を鍛えさせるのがこの子らには役に立つと思ったからだ。これはスクールのどの子にも言えるのだが、目上には礼儀正しく、挨拶が出来るようになっていた。

「今日は。おはようございます」挨拶の言葉が子供たちから自然と出ている。これはスポーツ教室に入れた賜物と言えよう。

しかし、親の欲目を発揮しても二人にはサッカーの才能はないように見えた。高学年になってもトラップやパスなどお世辞に上達の後は見えない。まあ、走ることだけは上手くなり、ほとんどどの学年でも、リレーの選手になれたのはスクールのおかげと言えよう。


「トーリー。まだ着かない?」山を登り始めて2時間。早くも和樹が音を上げた。

私は二人の卒業記念に山中でキャンプさせることにした。もう二人を一つの部屋に寝かせるのは問題になる年ごろになる。それなら、山中でテントを張り、その中で一晩過ごすのは良い経験になると思ったのだ。

加藤はパソコンオタクな癖にアウトドア派で、山登りやキャンプは大好きである。おかげで私も何度か彼に連れられて山の体験をしてきた。

今日は子供たちに自然の面白さを味わってもらおうと、私、美優紀、和樹の三人でやってきた。

と言っても、子供たち向けの優しい山であり、登山ルートも明確であるし、標識も完備されている安全な所を選んだ。

ただ、子供たちにとっては山をただ歩くのは退屈でもある。低い山で高い木が生い茂り見晴らしがよくないのだ。

「何にも見ないよ」和樹が不満を漏らす。

「あと少しで、目的地に着く」

「あと少しってどれだけ」

「もう少しだ」ともかく山ではあと少し、もう少しと言って足を前に進めさせるに限る。

「あのう、お父さん。トイレはないの?」美優紀がもじもじして言って来た。

「そっちの藪に入れば、誰にも見られないから、してくるがいい」私は当然のように言った。

仕切りのある狭い空間でしか用をすましたことの無い娘には抵抗があるようだった。だが、開かれた場所でお尻をむき出しにするのも貴重な体験なのだ。慣れれば外で生理現象を済ませることが快感にもなる。娘にはそのことも知ってもらいたかった。


「さあ、着いたぞ」キャンプを予定した場所は水場も近く、そこだけは木々が刈られ、見晴らしの良い場所だ。

「うわー。町があんなに低く見える」子供たちもその絶景に堪能している。自分の足で、自分だけの力で山に登ったからこそ、見える風景なのだ。それがどんなに美しいのか子供たちもようやく分かってくれたようだ。

早速子供たちには、水を汲む仕事などを与え、私はテントの設営に取り掛かる。と言っても今のテントは良くできていて、一人でも短時間に組みあがる。そのテントの前に、シートを広げれば完成となる。

そしてお楽しみはコンロを囲んだ夕食である。

子供たち用にはミルクたっぷりのココア。私はブランデー入りの紅茶だ。薄暗くなった山にいるのはたったの3人。いやでも結びつきは強くなる。

飯盒で焚き上げたご飯にレトルトカレーを掛け、スープだけの夕飯である。だが、空腹の上、山の綺麗な空気の中で食べれば何よりのごちそうになる。

2人ともお代わりの催促があった。


「お父さん怖いよ」夜、寝静まった後、美優紀が私に言って来た。

今夜は雨の心配はないが、風が強く、テントを強く揺さぶっていた。子供たちはテントに入ると、疲れもあったのか、すぐに寝てしまったが、風音に娘が目を覚ましてしまった。

時計を見ると、丁度日が替わる時刻である。大胆に眠っていた和樹を起こし、私は外に連れ出した。

テントを張った場所から少し登れば、頂上になる。そこは一面、木が刈られた広場にもなっていた。

「うわー。綺麗」子供たちは満天の星を見上げて歓声を上げた。

灯に満ちた町では見えなくなった夜空がそこに広がっていた。雄大な天の川が横たわり星座が鎮座している。

私は目ぼしい星座のいくつかを子供たちに指さしながらおしえていた。

本当は咲さんも連れて来たかったが、彼女と一つのテントで雑魚寝するのは私のほうからも抵抗があった。あんな美人と小さなテントの中で夜を過ごすなんて、眠れるはずもなかった。

「お父さんは何でもできるんだね」ともかく娘からの株を上げることができたので何よりであった。


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