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4話 親たちの繋がり

「そんなに走っては危ないわよ」母親が心配そうに声を掛けた。

予想通りその男の子は石か何かに躓いてしまった。

「うわーん」すぐさまお母さんが駆け寄ろうとしたが、私は制止した。

「別に心配いりませんよ」

「はあ、そうですか」

見守っていると、その男の子は起き上がると、そのまま子供たちの中に入っていた。男の子は別に擦り傷も見えなかったし、あの程度で親が助けに行っては子供が自立できないと思ったのだ。

休みの日には近所の公園で町内の子供たちで遊ぶのを見守るのも多くなった。次第に保護者の人たちとの会話も増えていき、互いに子供たちを協力して育てようとする気持ちにさせた。

ただ私は子供たちの遊びが大人過ぎると感じていた。先ほどの親のようにあまりにかまいすぎるようにおもっていた。

砂遊びや鬼ごっこなど、それは安全であるが、何か物足りなく思っていた。

そして気づいてみたら、様々な状況の子供たちがいたことだ。

片親だけの子供は美優紀や和樹だけではなかった。また両親がいても共働きで子供の面倒を見られない家庭。一人っ子で他の子との交わり方を知らないままの子。内気で一人幼稚園にいるのを嫌がる子など様々で、それぞれの悩みを親たちは持っていた。

会社勤めしていた頃は気づかなかったことが分かるようにもなっていた。


「おい、和樹。この皿から豆粒を取り出して他の皿に移して見ろ」日頃から和樹の箸の持ち方に不満を感じていたので、今日は良い教材があったのでやらせてみることにした。

それは節句の豆まきの日のことだった。近所の子供たちが集まり、豆まき大会をした。

その時、集まった子供たちに箸を使って、豆を拾わせる遊びをさせてみたのだ。

この年代の子では箸は上手に使えない。皆、ぽろぽろと豆をこぼすばかりでつまめないでいる。特に和樹が下手だった。

鷲づかみと言うのか、二本の箸を握りしめるよう持つものだから、豆などつまむなどできない。

「そんなの、出来ねえよ」案の定、和樹は音をあげた。

「美優紀を見ろ、女の子にお前は負けているぞ」

娘は器用なうえに日頃から私の箸の使い方を見ていた。正直親の私から見てもなかなか上手な箸の使い方であった。

一方、和樹ときたら、見ていられない。

当然美優紀が全ての豆を移し終えた時に、和樹はまだ1個も移してない。

「お前の箸の持ち方が悪いんだ。こう持てば、うまく使えるぞ」

私は親指の付け根に一対の箸をおき、一本を人差し指と中指、もう一本を中指と薬指との間に挟んだ。そして人差し指と中指に挟んだ箸を自由に動かせることを示す。

和樹や他の子供も私のやり方を真似している。

「ほらこうすれば、豆を掴めるぞ」私は箸で簡単に豆を掴んで子供たちに見せてあげた。

「できた!」真っ先に一人の男の子が声を上げると「私も」と次々とこえが上がった。

私は和樹の負けず嫌いに火をつけることができ、どうにかなんとかつまむのに成功した。

豆を箸でつまむのを遊びに変えた。彼らは競争して取り組んでくれた。

依然、咲さんから和樹の箸の使い方が治らないとこぼしていた。どうも和樹の奴は咲さんの教えには耳も貸さず自己流に走ってしまったらしい。

私にもあったが、男児には母親の言うことを聞かない時期があるらしい。和樹は咲さんに箸の使い方を言われれば言われるほど、反発して自己流になっていたようだ。私は豆まきとからめて子供たちに豆を箸で掴めるかと投げかけたのだ。一種の遊びと思ったらしく、子供たちはこれに挑戦し、うまく箸を使いたいと思って、私の指導に耳を傾けてくれた。


「いやあ、鳥井さんには助かりましたよ」

保護者の一人から声を掛けられた。

「あれから、息子は橋の使い方が格段に上手くなって、一つ上の姉に箸の使い方を教えているんですよ」

保護者達の繋がりがより深くなっていた。

そして、うちの町内には幼稚園児向けのサッカースクールが出来た。小学校に入るようになればスクールに入れるのだが、小さすぎて園児は敬遠されていた。和樹たちも大きな子がサッカーするのをうらやましがっているようだった。それで保護者の一人が手をあげてくれた。

彼はサッカー経験者で、自分の子には教えていたが、他の子供たちにも教えてくれるようになったのだ。

「ボールはこうして蹴るんだ」彼のボール扱いは素人目にも見事である。

私など、2,3回ボールをければどこかに行ってしまうが、彼がリフティングすれば数えるのもあきらめるほどやり続けるのだ。丁度、Jリーグ創立で盛り上がったときでもあり、保護者一同、子供にご指導を願うことにした。


ただ、彼は子供たちにあれこれ言うのではなく、2,3度ボールの蹴り方を教えただけで後は子供たちのやりたいようにさせていた。

「サッカーが好きになってくれればいいんですよ」楽しそうに彼はボールを追いかける子供たちを見ながら言ったものだった。

「わーわー」子供たちは一斉にボールに群らがっている。誰がキーパーで、フォワードなのかも決めてないし、ゴールさえどっちでも良かった。

「好きなようにボールを蹴っていいぞ。ボールをゴールに蹴りこめば勝ちだよ」男も女も子も構わずに遊ばせていた。

「自然に子供は体が強くなり、足も速くなる。小さい子は思い切ってボールを蹴らせればいいんです」

私も彼の考えに共感した。親は子供にあれこれやれと言うのではなく、子供たちがすくすく育つ環境を整えてやることだと思っていた。それは私の周りにいる保護者の共通する思いでもあった。

他にも木登りや、川遊びを教えてくれた保護者もいる。

本当に、良い保護者達と出会えたと思ったものだった。


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