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うずめの帰還!!  作者: 天宮花蓮
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第一話 魔の大都会

うずめの周りを動くのは、どこの名主に勤めているか分からないが、どうやら兵のようだった。

堅そうな靴で足元を固め、全身をがっちりとした着物で包み、武器が仕込まれていそうな大袋をしょい込んでいる。


「なんだなんだ? まやかしか?」


うずめはキョロキョロと辺りを見渡す。あまりに見知らぬ風景だった。

人も、建物も、みたことのないようなものばかり。

道ゆく者たちは、うずめをジロジロと見ているようだった。

うずめは名高い巫女として有名なため、視線には慣れてはいるが、どうもこの者たちは安い芸者を見るような無礼な視線を浴びせて来るように感じる。


じわりと嫌な汗が流れた。

「くそう、私を動揺させようとしてこんな事をしてるんだな。さしずめ狐の仕業だろうな、ウカノミタマたちが差し向けてきたか」

じきに人間たちがうずめのいるところからいなくなる。

自らの気迫に気圧されたかとうずめが誇らしげにすると、前方からうずめに近づいて来るものがあった。



ブーー!というけたたましい笛の音がした。うずめはつい顔をしかめる。

様々な色の四角い箱が、威嚇するようにジリジリ近づいてきている。

「私と張り合おうというのか、その妙な眷属で! 良い、かかって来るがいい。しかし私の弓は痛いぞーー」

「何してるんだ! インスタ映えとかいうやつか!? やめろ!」


うずめが弓を引き絞ると、何者かが背後に回り込み、軽々とうずめを持ち上げた。

「何をする無礼者! 私をかの有名な巫女うずめと知ってのことか!」

ブーブーと四方から鳴り響き、四角い箱が迫り来る中、うずめは謎の者の頭を掴んだ。

髪が短い。男だ。


人々がうじゃうじゃと集まっているところにたどり着くと、男はうずめを地面におろした。

バカそうな顔の中肉中背、明らかに人の良さそうな青年だった。うずめは怪訝な顔をする。


「交通ルールを守って撮影をすりゃいいのに! 命かけてまで写真撮ってどんな意味があるんだ?」

「何を抜かしているこの間抜けづら! 誰の差し金か吐け。そうすれば命だけは助けてやるぞ」

うずめが男を睨みつけると、男ははあっとため息をつく。

「何のキャラになりきってるんだお前は……相当重い患者みたいだ」

「ひどいなまりだな貴様。どんな辺鄙な土地で暮らせばそんな言葉遣いになるんだ。相当格の低い神の使いだと見える」

「辺鄙だって? 俺は天下の東京生まれだって。ーーまあ、気をつけろよ、とにかく」

そういうと、ずいぶん頼りなさげな青年型の眷属は呆れたようにうずめに背を向ける。

何か仕掛けてくると思ったうずめは、あっけに取られてしまった。

「なんだーー? また不意打ちかーー?」


うずめはぽかんとする。一体何が起こっている? まやかしにしてはやけに長いし展開がない。

しかし、うずめの記憶にこんな世界は存在しない。家も人もおかしい。日常ではないことだけは確かだ。

チラチラとうずめを見てくる下民はいるが、 ちょっかいを出してくる者はいない。

だらだらと汗が流れた。ここは狂いそうなほど蒸し暑い。南国に出かけたときこんな感じだったとうずめはぼんやり思った。


「こんちはー。お姉さん今一人?」

振り返ると、頭の毛が金色の、何処と無く不潔な風貌の小男と、またまた毛が茶色い安っぽい男がそこにいた。

「なんだ貴様ら。私に何か用か?」

「巫女のコスプレしてんの? かわいいじゃん、好きだわあ」

「巫女――? ああ、お前たち私に神の言葉を聞いて欲しいのだな。わかった、連れていけ」

「え、ま? いいの? ラッキーかわいいこお持ち帰りじゃーん」

よく分からないが、うずめの力を借りて不作をどうにかしたいらしい。金髪の男がうずめの肩を乱暴にだき、肩を密着させてきた。

ムカついてすぐさまその頭をぶん殴ろうとした時。


「どこに連れてこうとしてるんです? そいつ連れなんですけど」

金髪男をべりっと引き剥がしたのは、さっきの眷属青年だった。






「すまんな、近くにあるものでは傷薬を作れなくて。ここにある植物にはどれも邪気が溜まっているのだなーー」

「いいよ、別に。それより、もう危険な真似するなよ」

青年の頬は赤くなり、頭にはたんこぶができていた。さっきの金の毛の男たちに殴られたのだ。

うずめは、非力なくせにうずめを守ろうとした青年を見て首を傾げる。


「お前、私のことを本当に知らないのか? うずめだぞ。あんな男ども、私だけで一捻りだったのに。お前が余計な怪我をしたじゃないか」

「うずめなんて人知らないよ、もしかしたらずっと昔に会ったことあるのかも知れないけど、それでも覚えてないや」

青年がトボトボ歩くのについていくうずめ。本当にうずめのことを知らないらしい。

だが、天皇並みに有名なうずめのことを知らない人間がいるわけない、とうずめはさらにわけがわからなくなる。


「それにしても、何のコスプレしてるんだ? 今日コミケとかあったっけ」

「お前の言葉はよくわからん。わかりやすく話せ」

「その格好でわからないわけはないだろ。役に成り切ってるわけだな」

「だからわかりやすく話せと言ってるだろ、次ふざけたらぶっ殺すぞ!」

うずめはその美貌と強力な力のせいで、非常にわがままな性格になってしまった。流石に青年は眉をひそめる。

「お前、そんな顔してるのに殺すとか言っちゃいけないだろ。残念美人ってやつか」

「うるさい、貴様がイラつかせるからだ! もうわけがわからん。ここはどこなんだ」


考えて考えて、ハッとする。自分自身がなんだったかを思い出す。


「ーーまさか。生まれ変わりということかーー? いや、だが私の体はそのままだ。なぜだ……」


うずめは頭を押さえて、本格的に悩み始めた。青年は歩みを止めて、うずめを心配そうに覗き込む。

「大丈夫? 具合が悪いのか? さっきから変なことばかり言ってるけど」

「おい男。この世界に兵はいるか? 巫女は、陰陽師は、神は? 城は? 村は? 森は?

 なぜこんなに人がいるんだ。私たちを取り囲んでるあの大きなものたちはなんだ?」

「まるでタイムスリップしてきたみたいなことを言うんだな。ここには巫女も陰陽師も神もいないよ。

森は東京にはあんまりないし。

君の周りにあるのはビル。踏んでる地面はコンクリート。わかるだろ?」




いろいろ聞いて愕然とした。

どうやらここはまやかしではなく、本当に他の世界らしい。

神の存在も知られなくなり、カガクという魔術が流行っているという。

うずめのいた世界とは随分異なる場所のようだ。

「そんな中に一人放り込んで、神に泣きつくのを待っているというわけだなーー卑怯な奴らめ。

だが思うようにはいかんぞ」


うずめはとりあえず人の良さそうなこの青年に寄生しようとたくらんだ。

ここでは神懸かりもお祓いも求められないというのだから、何か他の芸を身につけなければ今まで通りの豪勢な生活はできない。それだけは絶対避けなければならない。

とりあえず拠点が欲しい。


「おい男。しばらく私を泊めろ。ここで出会ったのも何かの縁。困りごとの一つくらいなら解決してやってもいいぞ」

うずめが提案すると、青年は嫌そうに顔を歪め、後ずさりする。

「ダメだよ、未成年をかくまってるのが見つかったら犯罪になるだろ」

見返り作戦はやはりここでは通じない。


うずめはすぐさま方向性を変える判断を下す。

「お父さんやお母さんはどうしたんだ?」

「死んだ」

「……ああ、それは…」

うずめはわずかに目線を下げた。うるうると目を湿らせる。

「お願いだ、身寄りもないんだ。厄介させてほしい。でないとのたれ死んでしまう。

私は強力な力を持った巫女とは言え女――か弱いことに変わりはないのです」

悲しそうに顔を歪め、涙を拭う。――フリをする。


バカな男はかわいいうずめが哀れっぽい演技をするだけでコロリと騙される。

宿を提供する他、金品や着物をくれたりもする。

もちろん変なことをしようとしてきたら身ぐるみを剥ぎ、半殺しにして新たな寄生先を探すまで。


片目を開けて、うずめは青年の様子を見た。幸薄そうな青年は、困ったような顔をしている。

しかし、わずかに目線を泳がせていることから、成功の香りがした。

「一泊くらいならーー仕方がないな」

「本当か!! ありがとう、あなたは私の恩人です。それでは……」




「まずはたくさん馳走を振る舞ってくれ!」


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