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第77話  自分は遠慮しておきます


ーーー

シュージン達が屋敷から宿屋に戻っている時。

マルス伯爵邸では、伯爵の部屋でデビュとマルス伯爵。そして一人の甲冑の兵士がいた。

デビュは伯爵の執務机に行儀悪く腰掛けて、口を開く。伯爵はその不敬な態度には何も言わない。

「で?やっぱりさっきのアロハが、フェイっちが言っていた召喚士だったの?」

フェイっち、と呼ばれる甲冑の兵士は兜を脱ぎ答える。

「ええ、間違いございません。金子をお持ちした時に、近くでハッキリと確認しました。黒いフードの方は分かりませんが。」

紫がかった髪、褐色の肌の男は答える。

「ははっ!フェイっちの話にあった炎の翼竜を狩った召喚士!門で会った時はまさかと思ったけど、マジだったんだ!」

連れてきて良かった〜、と笑いながらデビュは言う。

「かつての上司の仇は忘れる訳もないか、フェイ・ブルズアイ。」

「いいえ、むしろ彼には感謝しております。彼がキーヤン・ラチャオを倒さなければ自分は自由にはなれませんでしたから。」

どこか悲しげに答える男。その悲しみは亡き隊長への思いではなく、自分の呪われた運命にである。

フェイ・ブルズアイ。彼はイルド帝国に併合された属国の出身。祖国では騎士の家系であった。

祖国を侵略した帝国を恨みつつも、御家存続のため帝国兵となり、後にラチャオの部下となった。

プレジ攻略戦にて、シュージン達の戦闘に紛れ脱走し、亡命した。今は伯爵家にて匿われている。彼の身元を知る者は伯爵邸には殆どおらず、一般には伯爵の遠い親戚の子息で通してある。フェイの正体を知る者はマルス伯爵と、デビュ、そして伯爵施設軍団長だけである。

予めフェイの話からプレジの一件を聞いていたデビュは、シュージン達を待ち合い室に入れている間に、フェイが接近できるよう取り計らっていた。そして、デビュの想像通り、彼はプレジの英雄だった。

「しっかし、運命の偶然ってなんだかな〜。あーしがフェイっちを路傍で拾ってから、ちょっとしたらキーヤンって奴の召喚獣が持ってこられて、今は絶賛伯爵様の手の中にあるのだからね〜。」

「以前お話しした通り、彼はどうやら特殊な召喚術を使うようです。それに剣の腕前も目を見張るものがあります。また、帝国への復讐心も強く行動力があります。」

「勝って当然ってか〜。」

デビュは伸びをしながら答える。

伯爵はフェイに質問する。

「フェイよ。この度の帝国の侵略、儂には何か別の意思があるとしか思えぬ。部隊に所属した時に何か特別な事はなかったかの?」

伯爵はフェイを鋭く見据える。

フェイは深く考え、一つのことを思い浮かべる。

「そう言えば、キーヤン・ラチャオから不可解な命令がありました。」

「ほう。それはどんな命令だ。」

「亜麻色の乙女を探せ、と。」

「うっわ、女漁りとか、ただのトクズ変態ドスケベじゃん。引くわー。」

デビュは嫌な顔をしながら、身体をくねらせる。

「確かに自分もその時はただの色情狂かと思いましたが、キーヤン・ラチャオには婚約者がいたそうです。」

「う〜ん。情婦?愛人?現地妻?」

「そこまで言いますか。」

「ま、男ってそんなモンじゃ〜ん。」

「デビュ女史は、過去に何かあったんですか?」

「あっれ〜。ひょっとしてフェイっちあーしの恋バナ聞きたい?」

いえ、自分は遠慮しておきます。そこはハッキリと断ったフェイ。

「話を戻しまして、彼の側には確かに亜麻色の髪の女騎士がいました。しかしながら関係性や詳細は不明です。」

「キーヤンが探してたのが、その女騎士って訳?」

「そうとは言えません。」

フェイは正直に答える。

「自分には先程申した通り、亜麻色の乙女を探せ、それしか情報は渡されませんでした。」

「マジでそれだけ?命令が雑過ぎんだろ。」

「ふむ、まがりなりに帝国の部隊長だ。命令が雑というより、そのような命令しか出せなかったのだろう。その亜麻色の乙女という存在は帝国にとって何らかの機密事項なのだろう。」

「何のために探しているかくらい知りたかったな〜。」

何かを思いついたデビュは笑顔で自らの考えを言う。

「アイツら調査してみます?女騎士も一緒なら亜麻色の乙女についてもなんか知ることができるかもしれねーですよ。」

「いや、折角の駒をおだててやったんだ、機嫌を損ねて、儂らに不信感を抱かせては計画に支障が出る。不確定の情報でそこまで露骨に動く訳にはいかない。」

「静観ですか。」

「仕方あるまい、国の一大事だ。」

伯爵には確かなビジョンがあった。

王の代変わりの時に、獅子の身中に湧いて出た虫を滅ぼし、一気に名を上げる。

そして、護国の将となり、ガンバを帝国に対抗し得る強国にするという野望が。

「上手くいけば伯爵様の勢力を伸ばせますし〜、フェイっちも良かったね〜勝馬に乗りまくりよ〜。」

「ええ、デビュ女史とマルス様には感謝しております。つきましてはマルス様の計画の成功の折には・・・」

「分かっておる。君の市民権と伯爵施設兵団の分団長の座を用意する。和平条約が完全に結ばれたら祖国の家族も招くといい。」

「ありがとうございます。」

「え?あーしと同等?」

「フェイがもたらした帝国の情報。キーヤン・ラチャオの部隊から持ち出した多数の召喚石、それに本人の召喚士の資質を考慮すれば分団長の座は妥当であろう。」

「え〜。折角あーしの直属の部下にしてあげようと思ったのに〜。可愛がったげるよ〜。」

「自分は遠慮しておきます。」

「そっか〜、まあ、伯爵様が出世すれば、あーしもそれに続くからね。」

ヘラヘラと笑うデビュ、フェイは少し呆れたように、そうですねと相槌を打った。

改めて、伯爵は二人に命令を下す。

「ではデビュよ、いつでも王都へ軍を動かせるよう秘密裏に準備をしておけ。軍団長にも伝えておくように。」

「かしこまかしこま〜。」

気の抜ける返事。

「フェイも、場合によっては戦ってもらう。」

「わかりました。」

フェイは嬉しそうだ。軍功をあげてさらに出世しようと考えている。性格は違えど三人は出世のことをそれぞれ考えていた。



続く


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