第76話 頼んだよ
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「ふぅ、挨拶も済んだことであるし、コーモト氏、早速商談の方に移りたいのだが・・・」
「ええ、実物を見ていただけるのが早いでしょう。」
(さっきのはなんだったんだ・・・?)
シュージンの横にトレイを持ったデビュが歩み寄る。シュージンはデビュに召喚石を渡すと、デビュはそれをマルスに丁寧に差し出した。
マルスはその赤い石を手に取り、観察するように見る。
「ほぉ、これはなかなかのものであるなぁ。」
「流石、伯爵様お目が高い。」
彫りの深い顔が微かに笑う。横に控えるデビュも心なしか笑っているように見える。
「知っていると思うが、儂も少しばかしは名の売れた召喚士でねぇ、召喚獣には詳しいのだよ。」
「ええ、存知ております。この町に召喚石を扱う店が多いのもその為だとか・・・」
「そ〜ね。伯爵様が召喚獣コレクターだから、みんなして伯爵家御用達の座を狙っててけっこ〜あるよ。」
「ハハハ、しかしながら、なかなか儂が満足できるような素晴らしい召喚獣はそう扱ってなくてな、長年、家来に行かせていたバシタカーキという良い店があったんだが、店主の年齢の都合で、どうやらもう召喚石を扱ってはないとの事だ。」
(あの店有名な店だったんだーー!?)
バッツはあの目力の強い現在服屋のオッサンを思い出す。
「あ、その店行きました。このアロハもその店で買ったんですよ。」
「なんと!石屋を畳んで服屋を開いていたのか!?今度、儂の下着を置かせてもらうとしよう。」
「良いお店ですよ。」
「確かに、そのデザインはなかなかのモノだ。フォーマルな場でもイケるしな・・・見所のある男よのぉ。」
シュージンとマルス伯爵はすっかり意気投合していた。
(いや、アロハでフォーマルは無理があるでしょ・・・)
バッツの心のツッコミは虚しく、シュージンと伯爵の笑い声が部屋に響くのであった。
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「では伯爵様。そろそろご購入するかどうかお決めになっていただけますでしょうか?」
「無論、買わせてもらうとしよう。」
おお、とバッツが声を漏らす。シュージンも満足そうな顔をし、シュージンが希望の値段を言う前に伯爵がその低音の声で提案する。
「1850カネッハ、でどうだろう。」
「せんはっ・・・」
バッツは驚く。先程、町中でシュージンから聞いた価値は1500カネッハ。それよりもだいぶ大きい値段を向こう側から提案して来たからだ。驚きと喜びの入り混じった表情をするバッツ。計算では同棲期間が約23%伸びる。
しかし、シュージンは不思議に思ったのか疑問を伯爵に投げかける。
「お買い上げありがとうございます。しかし、参考までに聞かせて頂きたいのですが、何故その値段なのでしょうか?」
伯爵はまた小さくフフっと笑い答える。
「流石に賢しいのぉ。セフィニよ、すまんが金の用意をして来てはくれぬか?」
「御意ッ。」
セフィニが部屋を出て行くと伯爵は肘掛け椅子に深く座り再び話し出す。
「その召喚獣は見積もって1600から1500くらいだろう。儂が君達に金を出すのは召喚獣を譲って欲しいだけではないのだ。」
伯爵はデビュに説明するよう合図を出す。
「今現在、あーしらの国の一部が帝国に占領されているってのは知ってる?」
「ええ、セフィニさんにお聞きしました。二日前に一時停戦の申し出があったと。」
「じゃ、話ははえーわ。その申し出には和平会談についてあったんだけど〜・・・ぶっちゃけ怪しくない?」
「怪しい?和平会談で暗殺を企んでる、とかでしょうか?」
バッツは聞く。
「まあ、それもあるかもだけど、戦争の始まり方がおかし〜んじゃないか、って。」
「君達は一ヶ月前に王国兵が王都に向かった理由は知っているかね?」
「いえ。」
「ならば、教えよう。本来なら一般人は知る事のできない国家機密だ。」
伯爵の眼光が強くなりシュージン達を睨む。
その強い眼差しは少しの恐怖を感じさせる程だ。
「・・・王国兵引き上げの理由、それは王位継承の儀。今、王都では、その儀式が行われる。」
「王位継承の儀式って、普通は国民に広く見せるものではないのですか?」
「無論、国民に見せる部分もある。だが、ガンバ王国の王位継承の儀には、国内に広める前にする、危険な秘匿された儀式がある。」
「・・・召喚獣の継承ですね。」
シュージンが答える。
「そこも見抜いたか、結構結構。ガンバ王家には代々伝わる国宝級の召喚獣がいる。その召喚獣継承のため、王国兵はもしもの備えとして、王国周辺の警備と警護をしているのだ。」
「そんな機密を話しても良いのでしょうか?」
「話さなければ分かるまい、そして、信用も得られまい。」
伯爵は再びデビュに目配せして合図をする。
「あ、話を戻すね〜。偶然に王国兵がいない防御の薄い時期に、偶然に急にイルド帝国が攻めてきた。しかも、偶然にも相手側は用意周到に和平の準備も素早く出来ている、とくれば・・・」
「ガンバ王国の情報を帝国側に流した者がいる。」
「ぱんぱかぱーん、だいせいか〜い。」
デビュは嬉しそうに答える。
「実際、現場の一般の王国兵達には、詳細な情報は一切知らされない。これを知るのは限られた上層部の人間であろう。王の代替わりを狙って情報を流した売国奴がいたとしか思えぬ。」
伯爵がシュージンを激しく見つめる。シュージンはその視線の意図を察して、小さくため息をつく。
「調べて欲しいんですね。上乗せした分のお金は調査資金と依頼料ってことですか。」
「無論、引き受けてくれるな。」
「・・・分かりました。元々、王国兵を引き上げて町を見捨てた奴をボコってやろうと思ってましたし、丁度良いです。」
「感謝する。」
伯爵は短く答えた。すると、部屋の扉がノックされた。
「あ、セっちゃんがお金の準備できたんだ〜。」
「入って良いぞ。」
扉が開くとセフィニと兵が六人、重そうな木箱を数個持って来た。
「伯爵様、お持ちして来ました。」
「セッちゃん、お待ちしておりました。」
セフィニが恭しく挨拶すると、マルス伯爵はウンウンとうなづき、シュージンに確認する。
「今ここで中身を確かめるかね?」
「いえ、伯爵様を信用します。馬をお借りできますか?」
「良いだろう、君達は正門まで運んで差し上げろ。馬も用意しておけ。」
「「御意ッ!」」
セフィニと兵は木箱を部屋から出て運んで行く。セフィニ達がいなくなるとシュージンは伯爵に質問する。
「最後に一つ質問があります。何故、俺に依頼したのですか?」
「君にはなかなか見所がある、度胸もある。それに、召喚士としての素質もかなりのものだろう。」
「・・・気づいておりましたか。」
シュージンとバッツは静かに驚く。マルス伯爵は少し得意げに話す。
「ふむ、儂も長く召喚獣と共に戦いに置いた身。年の功と言ったところだ。感覚で分かるのだ。」
しかし、まだ疑問が残る。
「しかしそれだけで信頼できますか?場合によっては国の要人をぶん殴ろうとするような奴ですよ。そんな奴に依頼しても良いのですか?」
「確かに伯爵様には伯爵様なりの面子ってもんがあるのだけど、伯爵様も今回の件には激おこだから、どうにかしようと必死なんだよ〜。」
「帝国と睨み合っている今の状態では、儂の軍を動かして王都に探りを入れるのは色々と不都合があるのでな。君のような自由な人間が一番やり易いだろう。」
「俺がもし失敗したら伯爵様の身が危ないですよ。」
「君は儂に誰が帝国に情報を売ったのかを教えてくれればそれで良い。犯人が分かったら儂が然るべき手段を取らせてもらう。別に、儂は売国奴を探して殺せとは言わん。もし君が失敗して、そいつが儂の命を狙ってくるなら真っ向からそれを討ち滅ぼすだけだ。」
「・・・分かりました出来る限りの事はやらせて頂きます。」
「頼んだよ。」
マルス伯爵は短くそう言った。
「じゃ、そろそろ馬の準備も出来ただろ〜し!いこっか。」
デビュはそう言うと、部屋のドアを開けてシュージン達を手招きする。シュージン達は伯爵に礼をして部屋から出ていく。
その時の伯爵の顔は少し笑っているように見えた。
シュージン達は借りた馬に金を乗せ、宿屋に戻るのであった。
続く




