第70話 信念とも言うべき大事なもの
二手に分かれてシュージンとバッツ。ネロに教えてもらった召喚石を扱う店のリストを見ながら歩く。シュージンの後をローブを纏ったバッツが着いていく。
「まずは、大通りにあるこの店から行くか・・・。バッツ君、以前にも言ったが召喚獣は戦時中にめっちゃ高額で取引される。」
「ええ、確かに言ってましたよね。」
バッツは以前に、シュージン達が集落にきた時、自らの祖父やアバル達と話していたことを思い出す。その後のクーデター宣言の方が印象的だったが。
「だから、買う方もなるたけ安く買おうとする。故に足元を見られやすい。」
「まあ、商売ですから、それも分かりますが・・・」
シュージンが足を止める。バッツもそれにつられて立ち止まる。
「着いたぞ。」
バッツがシュージンの視線の先に目を向けると。大きな看板が見えた。
『安心安全・召喚石・ダユリコの店』
大通りにあるこの店はきらびやか印象を与える。店内にはカウンター。そして、奥のショーガラスの中に様々な色に輝く石が置かれ。一見、宝石店かジュエリーショップである。
カウンターには白いファーコートを着た黒髪のミディアムカットの女性が座っている。
(ネロさんよりも少し上の年齢だろうか?)
バッツがそう思うのは、奇跡のアラフィフと近所でも評判の美人店主ダユリコ・サンノセイユ(47)である。
「バッツ君は店の前で待っていてくれ。俺が換金してくる。」
「は、はい。」
「なーに、すぐに戻ってくる。腰を抜かすくらいの大金を持ってきてやる!2つの意味でな!」
ドヤ顔で店に入るシュージン。
いかにもワケアリ感バリバリの黒のローブは買い叩かれるかもしれないと、先程の話でバッツも理解できた。シュージンの指示に従い大人しく待機する。
ちなみにシュージンが言った2つの意味とは、驚いて腰を抜かすと、大金なので物理的に重いので持ち上げらず腰を抜かす。という意味である。
しばらくして。
「うわぁぁぁ!!」
店の玄関からシュージンが吹き飛ばされて出てきた。
「ええーっ!?」
地面に倒れるシュージンに駆け寄るバッツ。
「大丈夫ですか!?」
「ぐぬぬ、あの女店主めぇ〜。」
「一体何が・・・?」
店の中で何があったのか気になるバッツであったが、あまり目立ちすぎるといけないのでバッツはシュージンに肩を貸して路地に入り、人目を避ける。
バッツが話を聞くに事の顛末はこうらしい。
ーーー
「召喚石を買い取ってもらいたい。」
「いやです。」
「なんで?」
「出所がはっきりしないのは、犯罪に巻き込まれる可能性があるので買いません。」
「そこをなんとか。」
「無理な物は無理。」
「買え。そなたは美しい。」
「そんなに金が欲しいならくれてやるよ!」
といって金属製の鈍器のようなもので叩かれた。
ーーー
「買い叩かれるどころか、普通に叩かれただけじゃないですか!!?って言うか店主さん好戦的過ぎではっ!?」
「しょうがないから次の店に行くぞ!次の店は三丁目の店だ!行くぞ!」
出鼻を挫かれたシュージンとバッツは別の店に向かう。
ーーー
「来たぜ!」
「これまた立派なお店ですね。」
先程の店と同じように、大きな看板に堂々とした店構え。やはり、召喚石という高価なものを扱っていると、やはり儲かっているのだろうと、バッツは改めて思った。
白い石壁に掲げられた看板には、店の名前が書いてある。
『秘密厳守!召喚石・カワプロの店』
シュージンとバッツがそっと窓から店内を覗くと、店主らしき人物がいた。日焼けした二十代中頃の男で、爽やかな印象を与えるスポーツマンのような若者だ。
彼の名前はカワプロ・ムーメンドライバー。
来客がいなくて暇なのか、営業許可の免許証が入った額縁をハンカチで磨いている。
「優しそうな人ですし、いけるのでは?」
「ヨシ!行ってくる!」
店内に入っていくシュージンをバッツは見守る。
先程の奇跡のアラフィフにこっ酷くやられた事は、何かの間違いだろう。バッツは窓からシュージンとカワプロの会話の様子を伺う。
(おおっ!なにやら良さげな感じだ!)
店内では、和やかな雰囲気で二人が談笑していた。
しばらくすると、店の外へ二人が笑いながら出てきた。
(あっ、出てきた。)
バッツはその和やかな雰囲気に商談が成立したのだと期待した、しかし。
「うわぁぁぁ!!」
シュージンはカワプロに素早く背後を取られ、そのままバックドロップをされてしまい地面に顔が埋まってしまった。
「ええーっ!?なぜ!?」
「ペッ!」
まるでゴルフのティーみたいに地面に刺さっているシュージンを他所に、路傍に唾を吐き捨てカワプロは店の中に帰ってしまった。
「何があったんですか!?」
「モガモガモガミモガヤナギナギ。」
「何言っているのかさっぱりわからないですけど!とにかく掘り起こしますね!」
掘り起こされたシュージンとバッツは路地に入り、何が起きたかを話し合う。
ーーー
「どうやって手に入れたが話せないが、この召喚獣を買ってくれ。」
「いいですよ、当店は誰でもウェルカム!勿論、お客様を詮索することはございません。」
「よっしゃ!」
「希望買取価格はおいくらですか?」
「とりあえず1500カネッハでどう?」
「ははは。」
「召喚石扱っているなら店長さんも、召喚士でしょ。だったらこの石の価値はわかるでしょ?」
「ははは。確かに触れてみたカンジですと、戦闘に特化した召喚獣・・・火属性のドラゴンのようですけどね、しかし、その値段は当店では申し訳ないが買取できませんね。お返しします。」
「価値が分かるなら買い取ってくれよー。それともその免許証は飾りか?」
「ははは。ちょっと店の外に出ませんか?」
ーーー
「そしたら気づいたら地面に刺さっていたんだが・・・」
顔についた土汚れを例の鼻毛ハンカチで拭きながら言うシュージン。
知らず知らずのうちに怒らせてしまったのか、と考える。
「あの先生、オレはこの国の物価とかよくわかりませんが・・・ちなみに1500カネッハってかなりの大金ではないですか?」
「いや、実際それくらい価値があるって!」
宿屋の前で50カネッハをポンと払ってくれたシュージンだったが、ミシェルは大金と言っていた。その大金の30倍である。バッツにもその価値は安くないことが想像がつく。
「先生、ちなみにネロさんのお店って一泊おいくら何ですか?」
「五人で2カネッハ11テンカノだったから・・・一人7テンカノだな。」
「つまり1500カネッハだと大体7年くらい泊まれる計算ですね。」
「恐ろしく早い計算。」
「7年も泊まるとか、もはやこれは同棲レベルですね。」
「恐ろしく気色悪い例え。」
バッツの意外な一面を知ったシュージンであった。
しかし、バッツは妄想の中でネロと同棲生活しているのか、シュージンの声は聞き逃しちゃうね。
「まあ、それはそれとして、次の店行くか。」
「え、あ、はい。」
そうは意気込んだものだが、ことはそう上手く運ばず。
あっちへ行っては断られ、こっちの店に行っては断られ、何度も何度も買取が拒否された。
ーーー
「ハァハァ。ここが最後の店か。」
「先生、断られまくりじゃないですか!?」
シュージンとバッツは召喚石を売るために、町中の店を巡ったが、どの店でも納得のいく話が出来なかった。
バッツは最後の店を見る。町中を巡ってみたが、召喚石を取り扱っている店はどれも立派な店であったが、この店は違う。
大通りに面していない、壁も所々にヒビが入っていて、窓が割れている。そして、看板にはカラスの糞がべっとりと付いている。その看板にはカラフルな文字で店の名前が書かれていた。
『天衣無縫☆召喚石・バシタカーキの店』
(見るからに怪しいーっ!というか、看板の四字熟語は必ず入れなきゃダメなの!?)
「よし、御免ください!」
(ノータイムで入って行った!)
「御免は売ってませーん!」
(典型的なギャグだー!)
割れている窓から会話が丸聞こえであるため、外にいるバッツにも中の様子がよくわかった。
「今日は!わたしがこの店の店主のバシタカーキ・カメラコワスです!」
店の奥から目力とアクの強い頑固そうな50代くらいの男が出てきた。
それを見てバッツは、大きくため息をついた。
(ああ、今回も失敗だな。)
バッツはシュージンに連れられ、何十軒もの店に足を運んだ。しかし、その度にアクの強い店主にシュージンが断られるという、パターンというものができてしまった。
(あの店主の様子だと、まあ断られるだろうな。)
バッツは疲れからか壁に寄りかかり、空を見上げた。すると、足に何やら軽いものがぶつかる感覚がした。足の方を見ると一つのボールが転がっていた。
(ボール?一体どこから?)
ボールを拾い、辺りを見回すとバッツの膝くらいの身長の幼女がいた。集落にいたザトアより少し幼いくらいか。
「このボールはお嬢ちゃんのかな?」
コクン、とうなずく幼女にバッツはボールを差し出す。
「はい、どうぞ。周りに気をつけて遊んでね。」
「あ、ありがと・・・」
バッツからボールを受け取った幼女は、恥ずかしそうに走って行った。
その様子を見て、バッツは思い出した。
(そうだ!集落にはザトアちゃんや、あの子くらいの子もいるんだ。みんなして、オレが食料を買ってくるのを待っているんだ!先生だって、その為にちゃんとした価格でお金を得ようと必死なんだ!)
自分がこの町にきたのは、集落に大量の食糧を買って届けるため。その為にはお金が必要なのだ。
そんな大事な事をいつの間にか忘れてしまった。信念とも言うべき大事なものを。帝国が攻めてくる、美人の未亡人がいた、召喚石の店は変な人が経営してる。色々な事があり見失っていた。
そして、困った時に助けてくれたのは、あの人だ。
「待たせた!バッツ君!」
バッツが振り向くと、そこにはあの人がいた。強く、奇抜で、様々なことを知る。信頼できる人間。シュージンだ。シュージンは大きな袋を持って笑顔でバッツに呼びかける。
その笑顔と持っている袋に、召喚石の買取の成功を確信したバッツも笑顔になる
「アロハシャツ買っちゃった!」
「買取はぁっ!!?」
シュージンは意気揚々と袋の中から取り出したアロハシャツを着ながら答える。
「召喚石の取り扱いは、もうやってないんだってさ。先月から服屋になったんだって。」
「看板に偽り有りっ!」
「最近肌寒いから、ちょうどいいねぇ。」
「アロハシャツ一枚で寒さは凌げませんよ!」
「そんなカッカするなよ、こっちまで暑くなってきた。服を脱ぐ。一枚。」
「アロハシャツ一枚で暑さは変わりませんよ!」
続く




