第66話 たまらんポイント
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夜が明け、昇った太陽から新しい光が全てを照らす。どこかで鶏が鳴き、町に朝が来たことを告げる。
夕暮れ時だと寂れてもの悲しい雰囲気を出す『哀しみを知り一人で泣きましょう、そし亭・・・』も朝日に照らされて、幾分かその暗いイメージが消えて見える。
「うーん、サマーインパルス魚肉ソーセージ・・・」
ミシェルは意味不明な寝言を言い、寝返りをうつ。すると、指先に柔らかな感触が当たる。
(なんだ?これ?)
サラサラ、モフモフ。
その心地よい感触を確かめようと、ミシェルは目を開けた。
そこには、すーすーと寝息をたてているトセがいた。どうやらミシェルの指先はトセの尻尾に触れていたようだ。
窓から溢れる朝の光に照らされトセの白い髪が輝いて見えた。その美しさと毛並みの心地良さに魅了され、ミシェルは再び眠りの微睡みへと潜っていった。
「ちょい待て、なんで私はトセと寝ているんだよ。」
心地良さも微睡みもその疑問で一気に覚醒した。
ムクリ、と上体を起こすと、頭に痛みが走る。
「痛っ!・・・そういえば昨日、シュージンの部屋に行こうとして、確か・・・」
ナイトメア松野に会って、意識を失った。そして、廊下に倒れたはずでは・・・頭の痛みは多分、その時床にぶつけたのか、ミシェルが思考するが、何故かベッドの上でトセと寝てる。
「昨夜に何があったんだ。」
変な夢も見たような気がするし、爽やかとは言い難い、訳の分からない目覚めだ。
「トセに聞いてみるか。」
横でまだ寝息をたてているトセの肩をミシェルは揺らして起こそうとする。
「おいトセ、朝だぞ。」
「うーむにゃむにゃ、もう、食べられないよ〜。」
「うわっありきたりな寝言。」
「むにゃむにゃ、もう、ツムギハゼには毒があるから食べられないって言っているのに〜。」
「違った!毒魚について教えてた!?」
トセの寝言に驚くミシェル。トセの身体を先程より力強く揺らし起こす。
「ハッ!ミシェル先生!?ツムギハゼを食べて倒れたはずでは!?」
「私に教えてたのかよっ!?」
「食べるならトビハゼかマハゼにしなきゃダメですよ!」
「ハゼについてはどうでもいい!それは夢だ!」
「ハゼの存在は人類にとっての理想だった・・・!?」
「違ぁうっ!!」
朝からミシェルのツッコミは冴え渡っていた
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「あーなるほどぉ。昨日の夜のことについて聞きたいんですね。」
ミシェルの説明を受けて、落ち着いたトセ。
「ああ。廊下に倒れたと思ったんだが・・・」
決して毒魚を食べたからではないぞ、と一応付け加える。
「そうなんですよ、ミシェル先生が部屋を出て行ったあと、眠りから覚めて、追ってみたら先生が倒れていたから・・・あたしが部屋に連れ戻したんですよ。」
「そうだったのか・・・」
ミシェルはトセに迷惑をかけてしまったことを後悔した。さらに、よくよく考えてみると、トセの拘束を振り切るために身体を撫で回してしまったことを思い出す。あれはもしや、悪いことをしてしまったのでは・・・と、ミシェルは思いあぐねる。
「済まないトセ。」
「いえいえ、こう見えてあたし筋肉あるんで、持ち運びラクラクでしたよ。」
「いや、それもあるが、身体をまさぐるようなことをして・・・」
ミシェルのことをまるで折り畳み傘かなんかに表現されたことはさて置き。例の件の事を謝る。
「あー!それ、本当に酷いですよ!あんなにあたしのたまらんポイントを撫でくり回してぇ!」
頬を膨らませた顔をズイっと前に出して、ミシェルを非難するトセ。
あどけなさを感じる可愛らしい表情だが、聞き慣れない単語が聞こえたので、ミシェルは疑問を投げかける。
「済まん、色々言いたいけど、たまらんポイントって何?」
「知らないんですか!?撫でたら気持ち良い体の部分ですよ!主に頭!首筋!お腹!背中!あと手足!」
「全身だー!もう点じゃない、もはや面だ!」
「別名、たまらんサーフェス。」
「やっぱ面だー!」
「大陸南部の一部地域ではアンベアラブル点とも言う者もいます。」
「結局、たまらんポイントかよっ!」
獣人の文化にまた詳しくなったミシェルであった。
続く




