第63話 ゴクッ・・・
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「ふぅ、掃除の手伝いは終わったぞ。」
「お疲れ様です。」
アバルが汚した床の掃除を終えたミシェルが部屋に戻るとベッドに腰掛けていたトセが労いの言葉を言う。トセはもう夜だというのに未だにローブを着ている。これはシュージンから貰った服ということが嬉しく、少しでも長く着ていたいと思ってのことである。
そんなトセの心情は知らず、ミシェルはさっさと脱げばいいのに、と内心思いつつトセに問いかける。
「で、アバルの様子はどうだ。」
「一応は大丈夫です。ただ、色々と問題があって・・・」
「問題?」
難しい顔をして答えるトセ、ミシェルもトセと同じように自らのベッドに腰掛けて何があったのか問う。
「ええ、兄さんがどうやら帝国の斥候と戦闘になったらしく・・・」
「な!?そうだったのか!?」
自分の知らないところでこれ程大事になっているとは、思っていなかったミシェル。夜だというのに思わず声も大きくなる。
「兄さんは、その斥候との戦いで召喚獣を使い、その疲労で倒れたらしく・・・」
「召喚獣!?一体いつの間にアバルは・・・」
「今朝らしいです。シュージン先生から貰った、元はぐれ召喚獣の物らしいです。」
「はぁ!?アイツ何故そんな重要な話をしない!」
「あたしもそう思います。」
ミシェルの怒りに静かに同調するトセ。そこら辺の詳しい話はシュージン先生に直接言って下さい、と宥められる。
「それでですが、斥候の狙いは先生方2人らしいです。」
「なるほどな、きっとラチャオの報復やそんなところだろう。」
「シュージン先生が考えるには、そんな大軍は動かさないとのことです。」
そうか、と短く返事をするミシェル。召喚獣の話をしなかったことは、ともかく帝国が相手なら真っ正面から打ち倒すのみ、と意気込むが・・・
「で、しばらく攻めてくるまで余裕があるだろうから、明日はミシェル先生は日用品の買い出しをお願いします。」
「なんでだー!?」
「ええっ!???」
買い出しのお願いをしたら、いきなり大声出され驚くトセ。
「帝国が攻めて来たら倒すべきだろう!何故買い物なぞしなきゃならない!?」
「ええー。」
ミシェルの言うこともごもっともだが、ここまで帝国に対して怒りを露わにしている姿を見て、トセは若干引いた。
「直接文句を言ってやろう!」
勢いよくベッドから立ち上がり部屋を出ようとするミシェル。
トセはとっさに腕を掴みミシェルを止める。
「流石にダメですよ!もう夜も遅いですしお疲れでしょう!きっとシュージン先生にはお考えあってのことですよ!」
トセも恐れはあるが、できるなら帝国と戦いたいとは思う、それでもシュージンを信じて闘わないという選択をし理性的であろうとした。
「いいや!止めてくれるなトセ!帝国とは戦わねばならん!」
完全に帝国スレイヤーと化したミシェルは大きな声で制止を振り切ろうとジタバタする。
「ダメですよ〜!!」
トセは獣人の腕力を活かし、怒りに我を忘れるミシェルをベッドに押し倒し、拘束する!!
ーーー
『哀しみを知り一人で泣きましょう、そし亭・・・』の廊下。
「うるさいですね。」
長い茶色のおさげの少女が、すこし不機嫌そうに独り言を言いながらミシェル達のいる部屋に向かって歩いている。
クーネルである。
クーネルは先程から女性客室から大声が聞こえ騒がしいので見て来てくれる?、と母のネロから言われたのであった。
暗い廊下を行き、ミシェル達の部屋の前に到着したクーネル。
「男性陣はもう静かだったのに、随分と賑やかな・・・」
この部屋に来る途中、2つしかない本日の宿泊済みの部屋の内の1つ。シュージン達の部屋前を通ったが、そちらの方はもう寝たのか静かであった。
しかし、目の前の女性部屋からは何やら声が聞こえ、古めかしい部屋(ゴーストハウス的な)がドタバタギシギシと軋むような音が聞こえて来る。
「ノックしてもしもーし。」
クーネルがノックをするが全然返答の気配はなく、声も軋む音も鳴り止まない。
「あー気づいてないかな?」
仕方なくクーネルが合鍵を使い、恐る恐る扉を開けると・・・
「トセ!(シュージンの部屋に)いかせてくれ!!」
「いいえ!!(夜も遅いし、明日の朝までこの部屋からは)まだ出しません!!」
「頼む!(あの野郎に文句を言いに)いきたいんだ!(それに、帝国が来ているならそいつらを倒しに)いかせてくれ!!」
「ダメですよ!(ミシェル先生のお気持ちは分かりますが、帝国が動いている現状では闇雲に出かけるのは危険です、もっと情報を集めてからにしましょう。ここは冷静になって)我慢しなくちゃ!」
「無理だ!(トセが何を言おうと私は)いく!!」
「アワワワ・・・」
今日、悪漢に襲われそうな所に現れた亜麻色の髪の凛々しさを感じさせる女騎士が、黒いローブを纏うミステリアスな少女にベッドに押し倒されているではないか!
2人はクーネルが開けた扉に気づかずにギシギシとベッドは音を立ててイクだの、出すだの、言い合うその姿を見てクーネルは完全に2人がそういう関係だと思った。
(イクって何処へ!?快楽の果ての向こう側とか!?)
顔を真っ赤にしながらクーネルに出来たことは静かに扉を閉めて、もと来た廊下を走って戻ることであった。
「そういう、関係だったんだ・・・」
勘違いしたクーネルは自室に戻り素早くベッドに潜り、目を瞑る。
ドキドキと心臓が早鳴るのを自分でも感じられた。これは廊下を走っただけでない。
「女の子同士でも、するんだ・・・」
力無くそう呟くクーネルの目蓋の裏には2人の人物顔が浮かんできた。
悪漢に襲われそうになった際助けてくれた時、駆け寄り心配してくれた優しい女騎士さん。
ローブを着ているけどフードから覗かせる顔は可愛く、料理を美味しそうに食べる天真爛漫そうな長い白い髪の自分と同じくらいの年齢の少女。
「ゴクッ・・・」
クーネルの眠れない夜は続く・・・
完全に誤解である。
続く




